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第4章:乙女は一途に恋をする
2・オトコゴコロと教師心
しおりを挟む数日後、尊は信介の経営するバーに来ていた。
灯里の誤解を解く方法を考えていたのだが、家に一人で居ると考えが堂々巡りして煮詰まってしまうのだ。
自分が好きなのはお前だと灯里に言ってしまえば全て解決するだろうが、教師と生徒の立場から、今それを言うのは躊躇われる。
だが……もう言ってしまえばいいのではないかとも思うようになってきた。
そうすれば自分と灯里は両想いなのだ。幸せになるだろう。
だが、想いを通わせ恋人同士になった場合、尊は自分の男としての部分を押さえられる自信はなかった。
尊はきっと我慢出来なくなり、彼女の事を一人の男として求めてしまうだろう。
そして灯里は尊を受け入れてくれるだろう。
彼女はそういう少女だ。
だが、それってどうなのだろうと思う。
灯里は受験生なのだ。
彼女の将来に影響が出てしまうのではないだろうか。
「高校を卒業して、俺のところに永久就職って手もあるけどな……」
灯里の家の事情を考えれば、そんな事をさせるわけにはいかないような気がする。
それに、彼女は成績優秀な生徒なのだ。
教師としての尊は、灯里に大学へ進学してほしいと思う。
彼女の可能性を広げてやりたいと思うのだ。
「堂々巡りだ」
そう呟くと、尊は深いため息をついた。
ビールのグラスを掴み、カウンターの中に居る信介におかわりを頼む。
「珍しいな、ここで飲むの」
と言われ、尊は首を傾げた。
「そうか?」
「あぁ、珍しい。だってお前、基本、家で缶ビール派だろ?」
「まぁ、そうだな」
尊が頷くと信介は苦笑した。
「なんか悩んでるのか?」
「そう見えるか?」
「見えるから聞いてんだけど……まぁ面倒くせぇから聞かねぇけどな」
「あぁ。サンキュ」
聞かないと言ってくれた信介に尊は安心した。
自分の生徒に惚れており、自分の気持ちは言えないが彼女の気持ちが遠ざかるのは避けたくて悩んでいるだなんて、言えるはずがない。
だが、もしかすると聡い信介ならなんとなく気づいているのかもしれないとも思う。
カチャ、と小さな音がして、ノブが回る音がした。
新しい客が来たのだろう、この店も結構流行っているなと思いながら、尊はドアへと目を向けた。
「信介! お疲れ様、珍しいお客さんだよー」
そう言いながら入ってきたのは、保だった。
保は尊に気がつくと、
「あれ? 尊、珍しいね」
と言い、今日は珍しいお客さんが多いね、と笑った。
「オウ、保……あ……」
保は信介と仲が良いし、この雑居ビルの一階でパン屋を営んでいるため、ほぼ毎日ここを訪れているはずだ。
だが、保と共に信介の店に入ってきた客を見て尊は驚いた。
客の方も尊と同じように驚いている。
「聡……珍しいな……」
「あぁ、お前も、な……」
聡はいつも仕事が忙しく、仕事が終われば真っ直ぐに家に帰っているイメージだ。
「聡、さっき店に来てくれたんだ。今日の残ってたパンを全部買ってくれたんだよ」
のんびりと保がそう言うと、聡は持っている紙袋を掲げてみせた。
「全部と言っても、残り少なかっただろう。灯里様がシナモンロールをお好きなのだ。この間、保の店のシナモンロールが美味かったと言ってらしたから、土産がわりに、な」
聡はそう言ったが、まさか彼が保の店のパンを買うためだけにここに来たとは思えなかった。
「聡……どうしたんだよ……」
尊がそう問うと、聡は苦笑した。
「あぁ……しばらく忙しくてこの間の礼がみんなに言えてなかったからな……」
「礼って?」
「灯里様の事だ……。ここで花火が見たのがとても楽しかったとおっしゃっていた……。その礼と、それから……」
「なんだ?」
「この間の花火大会の時、灯里様が典子と会っただろう? あの後、俺は灯里様にずいぶん叱られてしまってな……」
「え?」
「自分の事は気にしなくてもいいから、もっと典子との時間を持つべきだと言われてしまったんだ。別に隠していたつもりはなかったのだが、灯里様にも父にも典子の事を話していなくてな……いい機会かもしれないと思って、先日典子を家に呼んで、父に紹介したんだ」
「そうか……」
「へぇ、良かったじゃねぇか。典子も喜んでただろ」
「あぁ、まぁな」
聡が典子と真面目な付き合いをしているであろう事はわかってはいたが、聡はなかなか先に進もうとはしなかった。
だが、これを機会に聡は先に進むのだろうと思う。
少し羨ましかった。
自分と灯里は、互いに想い合っていても口に出来ない両片想い状態だ。
「ふふふ、良かったねぇ。僕も嬉しいよ郁美と零さんの次に結婚するのは、誰だろうって思ってたんだ」
嬉しそうに笑い、保が言った。
「お前かもしんねぇだろ?」
と言ったのは信介だ。
相手が誰なのかは知らないが、保に付き合っている相手が居るらしいという事は、尊も知っていた。
保は恋人との話が進んでいるのか、幸せそうに笑っている。
信介も恋人が居るから、そろそろ結婚を考えているのかもしれない。
自分たちはそういう年齢なのだと尊は思う。
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