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第2章:オトメゴコロとオトコゴコロ
10・オトメゴコロがわからない
しおりを挟む「古城!」
授業が終わり、帰ろうとする灯里を尊は呼び止めた。
人の通りが少ない階段の踊場へと手招きすると、灯里は尊を少し寂しそうな目で見つめ、ついてきた。
「あのよ……ちょっと確認してぇ事があってよ……。あの当麻ってやつの事なんだけどさ……」
尊がそう言うと、灯里は驚いた表情をして首を傾げた。
「あ、あの……当麻さんが……どうかしたんですか?」
「い、いや……あいつ、最近お前の前に現れてるのかなって思ってよ……。ほら、お前、さっき暗い表情をしていたし、何か困った事でもあるのかなって……だから、あいつがまたウロチョロしてんじゃねぇかって思って……」
「先生……」
尊を見上げた灯里の目が潤んでいたのは、気のせいではないだろう。
彼女の黒曜石のような美しい目は、潤みを帯びた事も手伝って、いつもより余計にキラキラとしていた。
キラキラした目で見上げられ、どくん、と胸が大きく鳴る。
好きな女に潤んだ目で見上げられるというのは、ただでさえ可愛い彼女がさらに可愛く見えて、かなりドキドキするものだ。
「先生、優しい……優しい、ね……」
そう呟いた灯里は、キラキラした綺麗な目からぽろりと涙を零した。
「そ、そりゃ、先生だから、よ……」
本当は灯里が好きだから、なのだが、尊はその真実を飲み込んだ。
今はまだ必要以上に彼女に近づくわけにはいかなかった。
彼女のためにも、彼女が卒業するまで、一定の距離を保つと決めたのだ。
だけど尊は知らなかった。
今の答えが、灯里の胸が痛むくらい切なくさせてしまった事に。
「そ、そうですよね……。先生だから、ですよねっ」
「古城?」
様子がおかしいと思った時には、灯里は両の目からぽろぽろと涙を零していた。
泣きながら俯いた灯里に尊は手を伸ばしかけたが、彼女は素早く涙を拭って顔を上げると、
「本当に、大丈夫です……。当麻さんは、今回関係ありません。し、心配かけて、ごめんなさいっ」
と尊に深々と頭を下げた。それから、
「じゃあ、失礼しますっ」
と言って灯里は尊の前から立ち去ろうとする。
当麻が原因ではないにしろ、灯里に何かがあった事は確実のようだった。
「古城! ちょっと待てよ!」
尊は階段を降りようとしていた灯里の手を掴んだ。
尊に手を掴まれた灯里は驚いたのだろう、バランスを崩す。
このままだと彼女は階段を転がり落ちてしまう――。
「こ……古城っ!」
尊は掴んだ彼女の腕を慌てて引き寄せた。
大切な彼女の身体をしっかりと抱え、ほっと息をつく。
抱きしめた身体は細く、そして柔らかだった。
予想を軽々と越えていった大きさと柔らかな感触に、尊は頬を染め、それを誤魔化すように彼女に声をかけた。
「悪い、古城。大丈夫だったか?」
尊が聞くと、彼の腕にすっぽりと収まった灯里は、小さくこくりと頷いた。
彼女はゆっくりと顔を上げ、尊を見つめる。
耳まで赤くして潤んだ目で尊を見つめる彼女に、尊の胸は再び大きく鳴った。
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