僕の二度目の恋と彼女の初恋は、卒業式まで実らない

明衣令央

文字の大きさ
上 下
3 / 43
第1章:二度目の恋と初恋と

2・気絶する生徒

しおりを挟む


 この学校に異動してきて最初の一ヶ月は、尊は古城灯里の可愛い笑顔を見る事が出来なかった。
 笑顔どころか、古城灯里は尊を見るだけで真っ赤になって気絶してしまうという日々が続いていたのだ。

 ちなみに最初に彼女が倒れたのは、尊が講堂で小野田学園長に紹介された直後だった。
 尊が紹介された直後、女子生徒たちが騒ぎ始め、その後おかしな感じにざわめき始めた。
 何事かと壇上を降りると、一人の女子生徒が真っ赤な顔をして倒れていて、それが灯里だったのだ。

 彼女はそれからも尊を見ると真っ赤になって気絶を繰り返した。
 保健医に確認したが、古城灯里は特に身体が弱いというわけではないらしい。
 では、彼女の気絶は一体どういう事なのか。
 身体に異常がないのなら、問題は尊の方にあるのではないか?

「もしかしてお前、あの大人しい優等生の古城灯里に何かをしたのか?」

 小野田学園長にそう問われ、尊は頭を抱えた。
 例え尊に問題があったとしても、自分はこの学園に異動してきたばかりなのだ。
 会ったばかりの古城灯里に何も出来るはずがない。
 だが、彼女は尊を見るたびに、気絶を繰り返した。
 彼女の担任として、このままではいけない。
 だが、自分が彼女に嫌われているのだとしても、それが何故なのか全くわからなかった。

 一体どうしたものかと日々ため息を繰り返していると、見かねた保健医――幼なじみである時村奈央がアドバイスをしてくれた。
 大学時代の先輩である古城聡に相談してみてはどうかと。
 古城灯里は、聡の従妹だった。
 奈央の助言で、尊は藁にもすがる思いで聡に連絡を取り、灯里の事を相談した。

 聡は、最初は尊が大事な従兄妹に何かしたのかもしれないと思ったようだったが、困り果てた尊を見かねて、特別に灯里と二人で話す機会を作ってくれた。
 尊が灯里に、自分の事が嫌いなのかと問うと、灯里は真っ赤な顔をしたまま、必死になって首を横に振った。

「わ、わ、私は、先生を嫌ってなんか、いませんっ!」

 そう言った灯里に尊はほっと息をついたが、では何故気絶するのだろうという疑問が残る。

「じゃあさ、なんで古城は俺から目をそらすんだ? それに、なんで俺を見て気絶するんだよ」

 そう聞くと、灯里は真っ赤になって俯いてしまった。
 その様子から、やはり嫌われているのではないかと少し不安になる。

「やっぱり俺の事、嫌いなんじゃねぇのぉ?」

 少しおどけたように尊が言うと、灯里は俯いたまま、また必死に首を横に振った。
 どうやら嫌われてはいないようだが、彼女はどうしても尊から目をそらしたり俯いたりしてしまうらしい。
 せめて気絶するのだけはなんとか止めてもらえないものだろうかと考えていると、俯いたまま首を横に振り続けていた灯里が思い切ったように顔を上げ、言った。

「わ、私は、先生の事が嫌いなんじゃありませんっ! わ、私は昔からずっと先生の事を好きで、大好きで、大好き過ぎて、だ、だから緊張して、嬉しくて気絶しちゃうんですっ!」

「へ?」

「え?」

 灯里はそう言うと、もう限界と言わんばかりにそのまま意識を手放そうとする。
 尊は倒れそうになった彼女を左腕一本で抱えると、右手で彼女の頬をぺしぺし叩き、なんとか持ちこたえた彼女のその黒曜石のっような綺麗な瞳を覗き込みながら、彼女の言葉を頭の中で繰り返した。

 今彼女は、必死になって自分の事を好きだと言った。
 とりあえず、尊は本当に嫌われてはいないらしい。

「そうかぁ、古城は俺を嫌ってなかったんだな? 本当に良かった。俺、やっと安心したよ。そっかー、気絶しちゃうほど、古城は俺が好きだったのかー。でもな、俺、やっぱ気絶しねぇでほしいから、これからは気絶しねぇように頑張ってくれよな」

 尊がそう言うと、灯里は真っ赤な顔のまま、必死に頷いてくれた。
 尊は満足し彼女の頭をがしがし撫でると、久しぶりに飲みに行こうと言う聡と共に灯里の前から立ち去った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

女難の男、アメリカを行く

灰色 猫
ライト文芸
本人の気持ちとは裏腹に「女にモテる男」Amato Kashiragiの青春を描く。 幼なじみの佐倉舞美を日本に残して、アメリカに留学した海人は周りの女性に振り回されながら成長していきます。 過激な性表現を含みますので、不快に思われる方は退出下さい。 背景のほとんどをアメリカの大学で描いていますが、留学生から聞いた話がベースとなっています。 取材に基づいておりますが、ご都合主義はご容赦ください。 実際の大学資料を参考にした部分はありますが、描かれている大学は作者の想像物になっております。 大学名に特別な意図は、ございません。 扉絵はAI画像サイトで作成したものです。

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

ゼラニウムの花束をあなたに

ごろごろみかん。
恋愛
リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。 じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。 レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。 二人は知らない。 国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。 彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。 ※タイトル変更しました

好きな男子と付き合えるなら罰ゲームの嘘告白だって嬉しいです。なのにネタばらしどころか、遠恋なんて嫌だ、結婚してくれと泣かれて困惑しています。

石河 翠
恋愛
ずっと好きだったクラスメイトに告白された、高校2年生の山本めぐみ。罰ゲームによる嘘告白だったが、それを承知の上で、彼女は告白にOKを出した。好きなひとと付き合えるなら、嘘告白でも幸せだと考えたからだ。 すぐにフラれて笑いものにされると思っていたが、失恋するどころか大切にされる毎日。ところがある日、めぐみが海外に引っ越すと勘違いした相手が、別れたくない、どうか結婚してくれと突然泣きついてきて……。 なんだかんだ今の関係を最大限楽しんでいる、意外と図太いヒロインと、くそ真面目なせいで盛大に空振りしてしまっている残念イケメンなヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりhimawariinさまの作品をお借りしております。

処理中です...