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第三章:それぞれの思惑

49・フェンリルの気持ち、ベルの勇気

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「黙って聞いてりゃ、テメェは一体誰なんだ。なんでベルをお前なんかに渡さないといけねぇんだ!」

 トマスに向かってそう言ったのは、ベルをずっと抱いていたフェンリルだった。
 トマスは驚いたようにフェンリルを見ると、言った。

「だ、だって、ベルはそんな不自由な体じゃないか。顔にだって、醜い傷がついている。そんな姿じゃ、誰も彼女を愛さないだろう? だから、一年前に彼女と結婚をした正式な夫である僕が、彼女の面倒を看てあげるって言っているんだ。あなただって、ベルをずっと抱いていて、迷惑しているんじゃないのか?」

 トマスの言葉に、フェンリルの腕の中で、ベルは大きく体を震わせた。
 トマスへの恐怖で、彼の言葉はベルの胸に鋭い矢となって突き刺さっていた。
 やはり自分の存在は、フェンリルにとって迷惑になっているのではないか……トマスの言う通りなのではないか、と、不安になる。

「ベル、何を動揺してるんだ」

 フェンリルは深いため息をつくと、腕の中のベルに言った。

「俺の気持ちを疑うな。傷つくだろう」

「フェンリルさん……」

 ベルはフェンリルの腕の中から、彼を見上げた。
 フェンリルはいつも通りの優しいまなざしで、彼女を見つめていた。

「俺は、絶対にお前を手放したりしない。例え引き離されたとしても、地獄の果てにだって捜しに行って、必ず取り戻す……」

「フェンリルさんっ……ごめんなさいっ……」

 ベルはフェンリルの首に腕を回し、今の彼女の精一杯の力でフェンリルに抱き着いた。

「私も、どこに行っても必ずあなたのところに戻ります……。それができないなら、何があってもあなたを信じて待っています……」

「あぁ、そうしてくれ」

 フェンリルはそう言うと、少し力を込めてベルの細い体を抱きしめた。
 そしてトマスを見下ろすと、

「と、いうわけだ。ベルは俺の女だ。俺のそばから離さないし、俺が面倒を看る。お前になんて渡さない」

 と言い放つ。

「な、なんだって? その女と結婚したのは、ぼ、僕なんだぞ! そうだ、正式な夫は、僕なんだ!」

「何を言っているんですか! あなたは私を西の森へと連れ込んで、殺そうとしたくせに!」

 怯えて震えていたベルは、フェンリルの腕の中、勇気を振り絞ってトマスを睨み付けた。

「この顔の傷だって、あなたがナイフで斬りつけた時のものです。あなたはあの時一緒にいた女性と自分の幸せのために、私に死んでくれと言って、斬りつけてきた。私は、あなたのものなんかじゃない! このフェンリルさんのものよ! あなたのところになんか、絶対に行かない!」

「なんだと! この傷だらけの醜い女が、生意気を言いやがって!」

 ベルと言い合いになったトマスは頭に血が上り、思ったままを口にした上、彼女に飛びかかろうとした。
 だが、その前にタイラーに捕まり、冷たい床に押さえつけられる。

「ベル、カッコ良かったぜ! ベルは強くて、そして綺麗だな」

 トマスを言い負かしたベルを見つめ、フェンリルが言った。
 ベルは、

「あなたがそばに居てくれたからです!」

 と言って、笑顔でフェンリルに笑いかけた。

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