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第三章:それぞれの思惑

47・オウンドーラ王の思惑

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 ベルが生きていた事を喜んだのは、彼女を愛するギルベルトたちだけではなく、オウンドーラ王や、コールド伯爵夫妻とその息子たちも、心の底から喜んでいた。
 彼らは、ベル・ガンドールが生きていたのだから、ギルベルト・ガンドールの怒りはなんとか収まるだろうと考えていたのだ。

「ギルベルト・ガンドールよ! 姪が見つかって良かったな! フェンリル・エンベリーも、よくぞギルベルト・ガンドールの姪を保護してくれた! そなたたちを褒めて遣わす!」

 オウンドーラ王は、そう言うとギルベルトとフェンリルを見つめた。

「ギルベルト・ガンドールよ! 捜していた姪が無事に見つかったのだ! どうか機嫌を直して、これからの東の森の砦を守ってくれないか? そしてフェンリル・エンベリーよ! 今回の働きにより、お前たちの傭兵としての契約金は、今までの三倍にしてやろう! これからも西の森の砦を守ってくれ!」

 晴れやかな声でオウンドーラ王は言ったが、ギルベルトとフェンリルだけでなく、この場に居た傭兵全員が、オウンドーラ王へ冷たい視線を送った。
 彼らは、この王は何を言っているのだと、呆れていた。

「ベルが、無事、だと?」

 地を這うような低い声でギルベルトが言い、その声の低さに、オウンドーラ王は、体を震わせた。

「ぶ、無事だったではないか! 生きてそなたの元に戻ったではないか!」

「ベルのこの姿の、どこが無事なのだ!」

 オウンドーラ王は、視線をフェンリルに抱かれたままのベルへと移した。
 先ほどフェンリルは、ベルの事をなんと説明していただろうか。
 オウンドーラ王は、ベルが生きていた事で、森の砦から手を引こうとするギルベルトやフェンリルをどう繋ぎ止めるかで頭がいっぱいで、よく聞いていなかった。
 ベルは顔色も悪く、顔には右頬から左目の下あたりまで、斬りつけられた醜い傷跡があった。
 体が不自由なのだろう、自分で立つ事ができないのか、ずっとフェンリルの腕に抱かれている。
 あの顔、あの体では、もう嫁の貰い手などないだろう。

 オウンドーラ王は、ちらりとコールド伯爵へと向けた。
 ギルベルトの姪であるベルがあのような体になったのは、全てコールド伯爵家が原因だった。
 今度こそ、あの娘をコールド伯爵家に面倒を看させればいい。
 三男のトマスは駄目だろうが、次男のアランなら大丈夫だろう。
 アランは王立騎士団に所属していて、その仕事ぶりは真面目で誠実そのものだとオウンドーラ王は聞いていた。
 それに、アランはベルの事を好きだったらしい。
 弟がしでかした事が原因なのだから、ベルがあんな醜い姿になっているとしても、アランなら彼女を大切にして一生面倒を看るだろう。

 だが、オウンドーラ王がそれをギルベルトに提案する前に、先に口を開いた者がいた。
 オウンドーラ王よりも先に発言したのは、トマスだった。
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