西園寺家の末娘

明衣令央

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第5章:闇

9・温かい言葉

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「小花っ!」

 麗華さんが出て行った後、すぐに茉莉花がそばに来てくれた。

「小花、大丈夫ですか?」

 と聞かれ、私は頷いたけれど、先程麗華さんに言われた事が、頭の中でぐるぐると回っていた。

 私が麗華さんに、妹だなんて思われていないという事。
 麗華さんが、私なんて生まれてこなければ良かったと思っている事。
 そして、私が生まれたから、お母さんが亡くなってしまったという事。

 私を産んだせいでお母さんが亡くなった――それは、事実だ。
 だって本当に私が生まれた時に、お母さんは亡くなっているのだから。

「私、生まれてこなければ良かったのかな」

 ぽつり呟くと、私の両肩を痛いくらいに掴んだ茉莉花が、乱暴に私の体を揺さぶった。

「何を言っているのですか、小花! そんな事を言ってはいけませんっ! 絶対に、絶対に、いけませんっ」

 そう言った茉莉花は、ぽろぽろと涙を零していた。

「私は、小花が生まれてきてくれて、わたくしの親友になってくれて、とても嬉しいし幸せですわ! あなたの心が今、弱っているのはわかります! でも、お願いですから、自分でそんな事を言うのはやめてくださいっ! あなたが、自分で自分を否定するような事を、言わないでくださいっ!」

「茉莉花……」

 心が弱っている――今の私は、確かにそうかもしれなかった。
 だけど、弱っている時に、そばに誰かが居て力づけてくれるっていうのは、なんて幸せな事なんだろう。
 私も、茉莉花が生まれてきてくれて、私の親友になってくれて、とても幸せだ。

「ごめんね、茉莉花。それから、そばに居てくれて、ありがとう」

「何言ってますの、当たり前の事ですわ! だって、わたくしと小花は、親友同士なのですから! 小花は、わたくしが辛い時に、そばに居てくれましたもの。今度は、わたくしが小花のそばに居るから、安心してくださいね!」

「茉莉花っ……」

 茉莉花の優しくて温かい言葉を聞いて、涙が零れてきた。
 二人で涙を拭いながら笑い合うと、

「茉莉花、小花さん。あなたたち二人は、今日の訓練はやめておきなさい」

 と、蘭華さんが優しく声をかけてくれた。

「二人とも、良く聞いてください。今の小花さんがこの場所に居るのは、良くありません。とりあえず、この妖滅フロアから出ましょう」

「はい、そうですわね、お姉様」

 私の代わりに茉莉花が蘭華さんに返事をする。
 蘭華さんは頷くと、明奈さんと厚くんの方を見た。

「明奈、厚、わたくしはしばらく席を外しますので、あとは頼みます。貴美さん、よろしくお願いします」

「貴美さん、俺と俊秀も、しばらく外す。伸彦、武、あとは頼む。俊秀、行くぞ」

「おう!」

 茉莉花、蘭華さん、将成さん、俊秀さんの四人が、私と、ちい兄に向けられた。

「小花、それから千隼、お前も行くぞ」

「え? 小花だけじゃなくて、俺も?」

 驚くちい兄に、将成さんは頷いた。

「小花もそうだが、お前もしばらくの間はここに居ない方がいい。たまには四家だけで、休憩がてら外に出るのもいいだろう」

「は?」

 将成さんの言葉に驚くちい兄の腕を、俊秀さんががしりと掴んだ。

「いいじゃん、千隼。ちょっと頭冷やしがてら、外行こうぜ」

「え? な、なんなんだよ、お前らっ……」

 ちい兄は嫌がったけれど、将成さんと俊秀さんの北御門兄弟は、両脇からちい兄をしっかりと捕まえて歩き出す。
 外へ出る術式が組まれた装置にパスを当てて外に出ると、用事で来るのが遅れていた大樹さんが居た。

「どうしたんだ? 何か、あったのか?」

 と聞かれ、私がどう返事をすればよいかと悩んでいると、

「あぁ、あった。いろいろな」

 代わりに答えたのは、将成さんだった。

「ちょうどいい、大樹、お前も来い。何があったか教えてやる。たまには分家抜きで、四家だけで話すのもいいだろう」

 将成さんの言葉を聞いた大樹さんは、驚いたように一瞬目を見開いたけれど、あぁ、と頷いた。

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