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第5章:闇
3・見えていない
しおりを挟む「西だけでなく、南まで……他家の力を借りるなど、あなたたち、四家の者として、恥ずかしくないんですか?」
大樹さんが席を外した時の事――妖滅室を出た私と茉莉花に近づいてきた真紀ちゃんが言った。
「まだ二人でレベル1の妖気浄化? 遊びでやってるんじゃないのよ? あなたたち二人がどれだけ大樹様に迷惑をかけているか、わかっているの?」
冷たい眼差しが私と茉莉花に向けられる。
私はふと、真紀ちゃんは大樹さんの何を見て言っているのだろうと思った。
大樹さんは、私と茉莉花のコーチをするのを、嫌がってなんかいないのに。
もしかすると、今の真紀ちゃんには、大樹さんの事が見えていないのかもしれない。
同じ事を茉莉花も思ったようだった。
茉莉花は今までとは違い、真紀ちゃんの冷たい眼差しをまっすぐに受け止め、言った。
「わたくし、大樹様には感謝していますわ。あの方はわたくしと小花に、四家の力の使い方を、とてもわかりやすく丁寧に教えてくださいます。あの方は、とても良い方ですわ」
茉莉花の言葉を聞いて、真紀ちゃんは当たり前だと吐き捨てるように言った。
「そうよ! 大樹様は、素晴らしい方よ! なのにあんたたちのせいで、本当に迷惑してらっしゃるわ! いい加減にしてよ!」
「そうですわね、素晴らしい方ですわ。そして、真紀さん……あなたが大樹様をとても尊敬されているのが、わかります。だけど、あなたにはあの方の事がちゃんと見えていませんのね」
「なんですって?」
茉莉花の言葉に、真紀ちゃんは明らかに怒ったようで、すごい形相で茉莉花を睨みつける。
だけど茉莉花はそんな真紀ちゃんの視線も受け止め、言った。
「大樹様がわたくしと小花にコーチをしてくださるのは、あの方自身のご意思ですわ。そして大樹様は、仲が悪い四家同士が連携できれば良いとお考えなのです。そのために、小花とわたくしのコーチもしてくださっているのですわ」
茉莉花がそう言うと、真紀ちゃんは言葉に詰まったようだった。
真紀ちゃんも本当は大樹さんの事をちゃんと見ていて、その通りだったから反論できなかったのかもしれない。
「真紀、いい加減にしなさいっ!」
亜紀さんが飛び出してきて、ぱしんと真紀ちゃんの頬を叩く。
真紀ちゃんは殴られた頬を押さえながら私を睨みつけると、
「あんたさえ、周央学園に来なければ!」
と言って、妖滅フロアを飛び出して行った。
「あの、小花様、茉莉花様っ! 真紀が、真紀が、申し訳ありません! 申しわけありませんっ!」
亜紀さんは私と茉莉花、それから私たちの周りに居る人たちに向かって泣きながら頭を下げると、もう耐えられなくなったのか、真紀ちゃんを追って妖滅フロアを飛び出して行った。
私と茉莉花の周りには、大樹さんは席を外していなかったけれど、大樹さん以外の四家の人たちと、賢さんが居たのだ。
「茉莉花、強くなりましたね。わたくしは、あなたの成長をとても嬉しく思いますわ」
蘭華さんは嬉しそうに茉莉花を見つめ、
「おいおい、小花、お前らどうなってるんだ?」
と、事情を知らないちい兄は驚き、
「おい、裏東、あの分家の娘は一体何を考えているんだ! 今の言動、分家の立場で、許されるべき事ではないぞ!」
「本当だぜ。今のはちょっと……ヤバくないか?」
将成さんは呆れたように、俊秀さんは心配そうに言った。
名前を呼ばれた賢さんは考え込み、確かに、と頷く。
「確かに、真紀、ちょっとヤバいな」
「裏東、お前、もしかして今回の事、大樹には、まだ言っていないのか?」
「あぁ。だけど、今回はこんだけギャラリーが居る……そろそろ、隠してやれねぇな」
賢さんは私と茉莉花へと目を向けると、ごめんな、と言って苦笑した。
私と茉莉花は大丈夫だと頷いたけれど、真紀ちゃんと、それから亜紀さんの事が心配だった。
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