西園寺家の末娘

明衣令央

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第4章:不協和音

15・しがらみ

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「小花、今日お前と茉莉花ちゃんが学校をサボったのは、本家と分家で何かあったからなのか?」

 家に帰ってきて、ご飯を食べて、お風呂に入って、後は寝るだけ、という頃、店の片付けを終えたおじいちゃんと叔父さんが戻ってきて言った。
 今更隠しても仕方がないから、私は素直に頷く。

「四家の間で揉め事があるのと、本家と分家の事で、ちょっとね」

 私がそう言うと、おじいちゃんもおじさんも渋い表情で、そうか、と頷いた。

「四家って、昔から仲が悪かったの?」

「いや、昔は……少なくともわしの時代は、そうではなかったな」

 おじいちゃんは俯いて首を横に振った。
 おじいちゃんたちの時代が大丈夫だったのなら、その次、という事になる。
 そう言えば、親世代の仲が悪くて、その子供たちにも影響しているんだっけ。

「私が生まれる前に、何があったのかな……」

 そう呟くと、叔父さんは、どうだろうね、と呟いた。
 おじいちゃんも叔父さんも、何か知っていそうな気がするんだけど、気のせいかなぁ?
 いや、本当は何があったかを知っていて、私に教えたくないというのが正解なのかもしれない。
 貴美さんも何も教えてくれなかったし……でも、おじいちゃんや叔父さんまでもが教えてくれないのなら、私は誰になら知りたい事を教えてもらえるんだろう?

「本家とか分家のしがらみは、わしも嫌いだった。うちの家系はみんなそうで、だから何代か前の当主が、真中はありのまま、普通に生きていく事を決めたんじゃ。だが周央は、今も真中を特別な一族として、真中を第一として考えて動いてくれている。それはありがたい事であると同時に、周央の下……四家やその分家たちに、どんな重荷を課しているのだろうと思う時はあるな」

 おじいちゃんは私の頭をぽんぽんと優しく撫でながら、そう言って深いため息をついた。

「それは、あるよね。僕も一時期悩んだもん。周央は真中を、特別視しすぎているところがあるから」

 うんうん、と頷く叔父さん。

「小花の立場は、真中と西園寺の間の真中寄りだったのが、西園寺寄りになったから、微妙な立場になってしまったのかもしれないね。だけど、他家の事は、僕たちでは口を出す事はできない。だから、しばらくの間は様子見をして、普通にしていればいいと思うよ」

「それ、クラスの子にも言われたよ。茉莉花ちゃんのためにも、普段通りの私でいてほしいって」

「小花、そう言ったのは、南の小僧か?」

「小僧って……でも、そうだよ。南条厚くんって言って、南の分家の男の子。おじいちゃん、なんで知ってるの?」

「そりゃあ、見つけたから捕まえて、飯食わせたからなぁ」

「は?」

「ずーっと店の前に居るのに、なかなか店に入って来ないから、不思議に思ってたんじゃ。そのうち、茉莉花ちゃんが南京極家の子だった事を思い出してな。茉莉花ちゃんに付いている子だと思ったんじゃ。それで、捕まえて店に連れて来て、飯を食わせてやったというわけじゃ」

 なるほど、そういうわけか。
 だけど、厚くんは何も言ってなかったけどなぁ。
 うちでごはんを食べたのなら、言ってくれたら良かったのに。
 そう言うと、

「それはまぁ、あの小僧の立場もあるだろうし、言えんかったんじゃろうなぁ」

 とおじいちゃんが言った。

「四家の茉莉花ちゃんでさえ、真中に近づくのは禁止されているんじゃ。それが四家どころか分家が会ったとなれば、家によっては罰を受ける可能性もあるかもしれん」

 そうなの? と聞くと、おじいちゃんも叔父さんも、真面目な表情で深く頷いた。
 それなら、厚くんが秘密にしたいっていう気持ちもわかるけど、どうしてそんな事になっているんだろう?

「そんなに真中は特別なの?」

 私が呟くと、渋い表情をしておじいちゃんと叔父さんは頷いた。

「そのように、されているな。わしらがいくらもういいと言っても、周央の考え方は変わらないらしい。だから、そんなわしらにできるのは、普段通り、普通に過ごす事だけじゃ。つまり、わしらはただの庶民で、ここはちょっと他よりも飯が美味い定食屋っていうアピールだけじゃな」

 おじいちゃんはそう言って、悪戯っぽく笑った。
 おじさんも頷いて、私も普段通りを心がけようと改めて思う。
 だけど、一つ気づいた事がある。
 四家の人や分家の人が真中家の人に会っちゃいけないっていうのなら、大樹さんや賢さんは大丈夫なの?

「おじいちゃん、叔父さん……あの、大樹さんや賢さんは、大丈夫なの?」

「大樹くんと賢くんか? あぁ、あれはどうなっとるんじゃろうな。ある日、賢くんが普通に店に入って来て、普通に飯を食って帰って、常連になった。それから大樹くんを連れてきて、二人で常連になった……」

「大樹くんはおそらく、うちが周央の言う真中だと気づいたのは、ここに通い出してからだろうね。賢くんの方は最初から知っていたかもしれないけれど、彼の性格を考えると、聞かれてもとぼけるだろうね」

 だから、今さら周央も東宮司も罰を与えたりしないだろう、との事だ。

「それって、賢さんの、計画的犯行的な感じ?」

「多分、ね」

 四家が真中に関わってはいけないとされていながら、それをこっそり行ってしまう賢さんって、なんかすごいよね。
 そう言えば、将成さんだったかな、賢さんの事を特別って言ってたなぁ?
 あれって、一体どういう事なんだろう?
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