西園寺家の末娘

明衣令央

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第4章:不協和音

2・八つ当たり

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「ところで小花ちゃん、今朝はどうして大樹様と一緒に?」

 そう聞いてきたのは、真紀ちゃんだった。

「ああ、それはね」

 私は、大樹さんが妖滅浄化の特別コーチを引き受けてくれた事を説明した。
 昨日の妖滅の授業で、自分だけが周りに置いていかれたように感じ落ち込んでしまった事、それを大樹さんや賢さんに伝えたところ、力の使い方を教えてもらえるようになったという事。

「大樹さんのおかげで、茉莉花ちゃんのお姉さんと北御門の将成さんの妖気浄化も見せてもらえたし、すごくありがたかった。二人とも、すごく気さくでいい人だね。まだまだわかんない事だらけだけど、私、みんなに追いつけるように頑張るから」

 私がそう言うと、嬉しそうに頷いたのは、茉莉花ちゃんだけだった。
 厚くんと武くんは困ったような表情をし、真紀ちゃんと渚ちゃんは私に鋭い視線を向けてきて、私は驚いた。

「確かに、南と北の方の妖気浄化は、すごいと思いますけど、あの方々は、いつも西の本家の方々を馬鹿にしたような態度を取られます。小花ちゃんは西園寺家の方なのに、あちらの方を褒めるなんて、おかしいんじゃないですか?」

「え?」

 いつも柔らかな感じの渚ちゃんの、トゲトゲした物言いに、私は驚いた。
 一体渚ちゃんはどうしちゃったんだろうと周りを見回すと、分家のみんなはみんな表情が固くなっていて、茉莉花ちゃんだけが私と同じようにオロオロとしていた。

「渚ちゃん、ごめん、どうして怒ってるの? 私、渚ちゃんがどうして怒ってるのか、わかんないんだけど」

「そんな事も、小花ちゃんはわからないんですね」

「ご、ごめんね、わからない」

 だけど話の流れから、私が茉莉花ちゃんのお姉さんと、北御門将成さんの事を褒めた事が気に入らないのかな、とは思う。
 だけどこれを渚ちゃんに確認する前に、武くんが口を開いた。

「渚、お前な、小花はまだ何も知らないのと同じだろう。八つ当たりすんなよ」

「八つ当たり?」

 渚ちゃんが、武くんを睨みつけた。武くんは渚ちゃんの視線を受け止め、言った。

「八つ当たりじゃねぇか。俺だって確かに、うちの若の物言いは、お前ら西の者はカチンとくる事もあるんじゃねぇかって思う時があるよ。だけど、うちの若にしろ、南京極の姉ちゃんにしろ、ちゃんとやる事やってんじゃねぇか」

 武くんの言葉に、渚ちゃんは震えながら俯いてしまった。
 これ、一体どういう事だろう?
 話の流れから推測すると、何かやらなくてはいけない事を、西園寺家だけがやっていないと言われているようだけど、それは一体何なのだろう?

「西の分まで、うちの若や、南京極の姉ちゃん、東の大樹様がやってんだろ? お前ら西の分家がそれを悔しく思ってるってのは俺も分家としてわかってるけど、最近来たばっかの小花に八つ当たりすんのはやめろよ。大体、小花はお前のところの本家の娘じゃねぇか。なんなんだよ、お前のその態度。うちじゃえらい目にあうぞ」

「それはっ……小花ちゃんが、何もわかっていないからです! 千隼様のお気持ちや、私たち西の分家がどんな気持ちで妖滅の事を考えているのかを!」

「それを、来たばっかの小花がわかんねぇのは仕方ねぇだろ! 小花だって、わかんねぇなりに、必死にいろんな事を覚えようとしてるんじゃねぇか! 今朝だって、頑張っていろんな事を覚えようって、朝練にも来てたんじゃねぇか……」

「そう、今朝、忙しい大樹様の手を煩わせて、ね」

 真紀ちゃんの声はとても冷たくて鋭くて、背筋がゾクリとした。
 もしかしなくても、真紀ちゃんも、怒ってる?
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