西園寺家の末娘

明衣令央

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第2章:周央学園

9・友達になろう

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「おはようございます、小花様!」

 翌日学校に行くと、渚ちゃんがすっごく可愛い笑顔で挨拶をしてくれた。嬉しいけれど、小花様、と呼ばれた私は複雑だった。どうしたものかなぁと考え込む。

「小花様? どうかされましたか?」

「小花様?」

 渚ちゃんだけでなく、真紀ちゃんまで私を、小花様、と呼ぶ。
 これはもう、同じように様付けで呼ぶべきなのか。

「私も、みんなの事を、様付けで呼ぶ事にしようかな」

 私がそう言うと、渚ちゃんがすごい勢いで首を横に振った。

「いけません! だって小花様は!」

「えーっと、四家で、本家で、西園寺家の娘、だっけ? 昨日、ちい兄から聞いたんだけど……」

「そ、そうです! お聞きになったのなら、ご理解ください。小花様は本家の方、私は分家の者です! だから、私は小花様をお守りしなければならないのですっ……」

「守る?」

 どういう事なんだろう? 昨日のちい兄の話では、本家とか分家の話はあったけれど、守るとか守られるって話はなかったと思うんだけど。

「あのね、本家の方って言われても、苗字が西園寺ってだけで、私は西園寺の家に行った事もない、庶民育ちなんだよ? 様付けとか、守るって言われても困るよ。それに……」

「それに?」

「私はみんなと、友達になりたいの。入学式で、理事長やちい兄……うちのお兄ちゃんが言ったみたいに、みんなで仲良く楽しくやっていきたいの! だから、私の事は、ただの小花扱いしてほしい」

「でも……」

 自分の気持ちを、思い切ってぶつけてみたけど、渚ちゃんは納得できないみたいだった。
 無理なのかなぁ、と諦めかけた時、

「ねぇ渚、小花様がそう望まれているのなら、そうして差し上げたら?」

 と、真紀ちゃんが言い出した。

「真紀さん……でも……」

「確かに、あなたの気持ちもわかるけど、小花様がそうしてほしいというのだから、その気持ちを大切にする事も大事だと思うの。というわけで、私は今後小花様を、小花ちゃんと呼ぼうと思います」

「真紀ちゃん、ありがとう……」

「いえ、昨日、裏東様からも連絡がありましたので」

「裏東さん? あ、賢さんの事?」

「はい、そうです。賢様は、東の分家の筆頭、裏東家の方で、幼い頃から大樹様と一緒に居られる方です。あの方は、小花ちゃんの事をとても気遣ってらっしゃいました」

「そうかぁ、賢さん……」

 今度会ったらお礼を言わなくては、と私は思った。
 賢さんはいつも明るく優しく私を見守ってくれている。

「渚ちゃんも、他のみんなも、すぐには無理かもしれないけど、真紀ちゃんみたいに、私に様を付けるのを止めてほしいんだ」

 私がそう言うと、何人かのクラスメイトが頷いてくれた。
 渚ちゃんの顔を見つめると、困ったような表情をしていたけれど、頷いてくれる。

「茉莉花ちゃん、茉莉花ちゃんも、仲良くしようね!」

 茉莉花ちゃんは私の事を様付けで呼んだりしないとは思うけれど、私も茉莉花ちゃんも四家っていうやつらしいから、仲良くしてくれないかもしれない。
 だけど私は仲良くしたいのだと思いながら声をかけると、茉莉花ちゃんはプイと私から顔を背けてしまった。
 あぁ、やっぱり駄目なのかなぁと思っていると、

「気にするな、小花!」

 と、北見くんが声をかけてくれた。

「そうだ、小花! うちの姫は、ただツンデレなだけだ!」

 続いて声をかけてくれたのは、南条くん。
 いきなり呼び捨て? と思ったけれど、これからの学校生活は楽しくなりそうだ。

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