西園寺家の末娘

明衣令央

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第2章:周央学園

6・偶然とサプライズ

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 一時半頃になって、ちい兄と大樹さん、賢さんがやってきて、私の入学祝いのパーティーが始まった。
 叔父さんと叔母さんが用意してくれた、ご馳走が机に並び、今日は店を閉めているので、おじいちゃんたちは昼間から飲み始めた。
 嬉しそうなその表情を見て、たまにはゆっくりのんびりしてもらいたい、と思う。

「小花ちゃん、高校、どんな感じ?」

 昌央を膝に乗せて構いながら、賢さんが言った。
 賢さんは子供好きだ。店に来たときに昌央が居ると、いつも構う。

「そうだなぁ……あのね……」

 私はさっき叔母さんに言った事を繰り返した。
 様付けで呼ばれた事と、姫って呼ばれていた子が居た事。
 あの学校は、そういう風に友達の事を呼ぶのが伝統なのかなと続けると、ちい兄と賢さんが爆笑した。

「もう、なんで笑うかな」

「いや、お前の反応がおもしろくてさ。なぁ、もうクラスメイトの名前とか覚えたか?」

「さすがにクラス全員の名前は憶えてないけど、今日話した子なら覚えたよ。浦西渚ちゃんっていう子は、大人しそうな女の子で、東野真紀ちゃんっていう子は、ボーイッシュで宝塚の男役になれそうなくらいカッコいいの。でも、二人とも私の事を、様付けするんだよね。小花ちゃんって呼んでって言ったんだけど、今日は無理だったなぁ。ずっと様付けで呼ばれてた」

 まだ会ったばかりだけど、友達になりたいから、様付けで呼ぶのは勘弁してもらいたい。でも、明日も様付けで呼ばれたら、こっちも様付けで返してみようかな。そういう学校なんだって割り切るのもアリなのかも。

「あとはね、すっごく豪勢な名前の子が居た。それで、どうしてなのかはわからないけど、その子にはすごく絡まれたような気がする。南京極さんって言うんだけど、この苗字、絶対にお金持ちっぽいよね? だからかな、この子、姫って呼ばれてた。あと、縦ロールとか絶対に似合いそうって思った! サラサラのストレートだったけど」

「ぶはあっ!」

「やべぇ、腹痛いわ」

 笑い続ける、ちい兄と賢さん。大樹さんは一人真面目な顔をしたまま頷いていて、私に続きを促した。

「それから、まだちゃんと話してはいないんだけど、今のちい兄や賢さんみたいに、大爆笑してた男子が居た。南条くんと、北見くんだって……あ……」

 今日名前を覚えたクラスメイトの事を話しているうちに、私はある事に気が付いた。

「東西南北、揃ったね。すごい偶然」

 東野真紀ちゃん、浦西渚ちゃん、南京極茉莉花ちゃん、南条厚くん、北見武くん……どの子も苗字に方角が入っていた。大発見だ、とそれを口にすると、

「お前には西が入ってるしなぁ」

 と、ちい兄が言って笑った。
 確かに、私は西園寺小花。苗字に西が入っている。
 それだけじゃなく、クラス分けの掲示版を思い出せば、クラスのほとんどに、東西南北の方角が入っていたような気がする。
 すごい偶然だなぁ。今日は、偶然がものすごく重なっているような気がする。

「そうだ、校門で写真を撮ってくれた人、私の担任の先生だったよ。ちい兄、あの時、知ってたの?」

「あぁ、知ってた」

「教えてくれたら良かったのに」

「黙ってた方が、サプライズでおもしろいだろ?」

 悪戯っぽく笑うちい兄に、まぁね、と私は頷いた。
 でも、サプライズと言えば、もっとすごいサプライズがあったなぁ。

「まさか、入学式でちい兄が挨拶するとは思わなかったわ。あれはすっごいサプライズだったわ。しかも、男の子からも女の子からも、すっごい人気でさ、本当にびっくりした。うちのクラスの南京極さんも、千隼様って言ってたよ」

「千隼様って……」

「それに、偶然なのかもしれないけど、理事長の話と言ってた事が似てたよね。仲良く、楽しんで、ていうやつ。ただの偶然だとは思うけど、二人とも似たような話をするからさ、もしかして以前、仲が悪い学年がいたのかと思っちゃったよ」

 私がそう言った瞬間、またちい兄が吹き出した。

「どうしたの? まさか、当たり?」

「あぁ、当たり、だな」

 ちい兄は頷くと、俯いた大樹さんと苦笑する賢さんへと視線を向けた。

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