13 / 115
第2章:周央学園
4・入学式
しおりを挟む入学式では、驚いた事が二つもあった。
その一つ目は、理事長の挨拶の時。
壇上で理事長だと挨拶をした男の人を見て、私はとても驚いた。
だって、周央先生に写真を撮ってもらった後、おじいちゃんたちが向かった先に居た優しい笑顔の男の人が、この周央学園の理事長だったからだ。
「みなさん、入学おめでとうございます。私は理事長の、周央崇です」
理事長を見た瞬間、どうして、という気持ちしかなかった。
どうしてこの学校の理事長が、おじいちゃんたちに、あんなに丁寧に頭を下げたのだろう。
おじいちゃんは、ただの定食屋の主人だよ? 一体どうして?
そんな事を考えていると、壇上で話す理事長と目が合った。
不思議なんだけど、理事長と目が合った後は、理事長の話を落ち着いて聞く事ができた。
理事長の話は、簡単にまとめると、入学おめでとうというお祝いの言葉と、とにかくみんな仲良く、楽しんで、というような内容だった。
言っている事はすごく普通の事なんだけど、とても優しい笑顔と声で言ってくれて、その優しい笑顔を見つめながら聞いていると、理事長の話が心に染み込んでいく感じがした。
驚いた事の二つ目は、生徒代表として、ちい兄が挨拶をしたという事だ。
しかも、ちい兄が壇上に立つと、すごい声援が!
それも、女の子だけじゃないの、男の子の声も聞こえるの!
「千隼先輩、素敵ー!」
「千隼先輩、ずっと付いて行くっすー!」
驚きながらも、ちょっと鼻が高かった。だって、あれは私のお兄ちゃんなんだもの。
うちは家族馬鹿だから、多分おじいちゃんたちもすっごく喜んでいるはずだ。
そう思ってちらりと保護者席を見ると、目を輝かせているおじいちゃんと目が合った。うん、て頷いている。
やっぱり、嬉しいよね! ちい兄、カッコいいよね!
「新入生のみなさん、ようこそ、周央学園高等部へ。俺は、三年A組、西園寺千隼です。周央学園高等部への入学、おめでとうございます!」
「キャー! 千隼先輩―!」
「カッコいいー!」
ちい兄はちょっと挨拶をしただけで、またキャーって言われている。
アイドルか、と心の中で突っ込みながらも、生徒代表として何を言ってくれるのだろうと、ドキドキしながら私は壇上のちい兄を見つめた。
「えーっと、三日ほど前にですね、先生たちから入学式で挨拶しろって言われたんですけど、俺、こういうの苦手なんだよね。なので、短めに言いたい事だけ言います。みんなも、あんまり長いスピーチとか、嫌だろ?」
どっと笑いが起きる。確かに長いスピーチとかは嫌だけどさ、何を言ってるのよ、うちのお兄ちゃんは。
「つまり、だな……みなさんのこれからの三年間、俺は、精いっぱい楽しんでもらえたらいいと思います。それで、さっき理事長も言ってましたが、仲良く、楽しんでいこうぜ、て思います。というわけで、これからよろしくな!」
こんなスピーチでいいのかとちょっと思ったけど、とてもちい兄らしいし、多くの声援と拍手を貰えていた。
仲良く、楽しんで。
理事長とちい兄のメッセージを、私は胸に刻む。
偶然かぶっただけなのかもしれないけれど、多分それが一番大切な事なのかもしれなかった。
ただ……もしかしたら過去に、とても仲が悪い学年があったのかな、なんて、ちょっとだけ思ってしまったけど。
0
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

「魔王のいない世界には勇者は必要ない」と王家に追い出されたので自由に旅をしながら可愛い嫁を探すことにしました
夢幻の翼
ファンタジー
「魔王軍も壊滅したし、もう勇者いらないよね」
命をかけて戦った俺(勇者)に対して魔王討伐の報酬を出し渋る横暴な扱いをする国王。
本当ならばその場で暴れてやりたかったが今後の事を考えて必死に自制心を保ちながら会見を終えた。
元勇者として通常では信じられないほどの能力を習得していた僕は腐った国王を持つ国に見切りをつけて他国へ亡命することを決意する。
その際に思いついた嫌がらせを国王にした俺はスッキリした気持ちで隣町まで駆け抜けた。
しかし、気持ちの整理はついたが懐の寒かった俺は冒険者として生計をたてるために冒険者ギルドを訪れたがもともと勇者として経験値を爆あげしていた僕は無事にランクを認められ、それを期に国外へと向かう訳あり商人の護衛として旅にでることになった。
といった序盤ストーリーとなっております。
追放あり、プチだけどざまぁあり、バトルにほのぼの、感動と恋愛までを詰め込んだ物語となる予定です。
5月30日までは毎日2回更新を予定しています。
それ以降はストック尽きるまで毎日1回更新となります。

婚約破棄騒動に巻き込まれたモブですが……
こうじ
ファンタジー
『あ、終わった……』王太子の取り巻きの1人であるシューラは人生が詰んだのを感じた。王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれた結果、全てを失う事になってしまったシューラ、これは元貴族令息のやり直しの物語である。

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。
桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。
戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。
『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。
※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。
時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。
一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。
番外編の方が本編よりも長いです。
気がついたら10万文字を超えていました。
随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる