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10.攻略対象は双子王子

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王城につくと衛兵に案内されるまま、一通りの挨拶を終える。

私が現れた瞬間に周囲の人たちは、シレネの記憶にあったように冷ややかな目を向けてきた。
ある者は、口元を隠して陰口を言い、ある者は、まるで私を奇妙なものだと言わんばかりに敢えて顔ごと背けていた。

日本の常識を比べてはいけないとわかってても、やはり嫌な気分だ。



「ホーク公」

「カルミア第一王子。お誕生日おめでとうございます」


早速きた!!

攻略対象者の1人、カルミア・ダリア・グラジオラス。
琥珀色の耳に掛け、鮮やかな黄色い瞳色をしていた。
この国の第1王子であり、頭脳明晰!魔法力優秀!剣の腕も優秀!ただ、性格悪い!
戦闘では、バランスタイプ!

………戦闘パーティーには必ず入れていたなぁ。

形式的な挨拶が終わったのか、カルミア王子は私の方へと顔を向けてきた。



「…シレネ公爵令嬢、お久しぶりです。」

「ええ、お久しぶりです、カルミア第一王子殿下」

ドレスの裾を僅かに摘まみ上げ、軽く膝を曲げ優雅にお辞儀をする。


”背筋は常に真っ直ぐに凛々しく”


「お誕生日おめでとうございます」


”笑顔も忘れてはなりません”


「なんだあれは…シレネ令嬢なのか?」「あの子は本物なのかしら?」等とざわつく周囲の声に顔を顰めそうになるが、表情筋を意識して笑顔を保つ。
きっと、発言している本人たちは声を潜めているつもりだろうけど、丸聞こえよ。

顔を上げれば目を見開くカルミアは、まだ幼い。
ゲームに登場する時は18歳、今のカルミアは私と同じ7歳。

ただ、不愛想で気怠そうな顔をしているのを見ればこの時から既にゲームと同じだわ。
因みにカルミアは私のあまり好きじゃないキャラだ。


「兄上、どうかされましたか?」

「イキシア」

ッ!もう1人の王子もきた!

イキシア・ダリア・グラジオスも攻略対象者の1人。
淡黄色の髪色は、一本に纏め、カルミアと同じ黄色い瞳色をしている。

カルミアの双子の弟でありこの国の第二王子。

「イキシア第二王子殿下、お誕生日おめでとうございます」

同じ様に挨拶をすれば、イキシアは呆けた顔をした。
顔の表情を変えない兄カルミアとは対照にイキシアはある意味では分かりやすい。

「あ、ああ。ありがとう」

「…シレネ公爵令嬢、もしよければ僕と2人でお話しませんか?」

明らかに私に怪訝な目を向けるカルミアに、心臓がドクドクと高鳴る。
正直、緊張もすれば、恐怖も感じた。

「…ええ。喜んで」



♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢




「………………」

「………あの、カルミア王子?」



会場内から離れ、バルコニーへと誘われた。
外に出ると先ほどまで気怠そうだったカルミアの顔は、僅かに明るくなった気がする。

バルコニーに出てきたのは良いものの、カルミアは何か話す訳でもなく、黙したままで業を煮やした私からとうとう話しを切り出した。



「私にお話があったのでは?」

「…君は、何者?シレネ公爵令嬢ではないよね」


気怠そうな顔は変わらぬまま、その目は私を訝しんでいた。
以前とは態度が打って変わっているのだから仕方ない。

もしここで少しでも言い淀めば、カルミアの疑心が強まり最悪、監視を付けられる可能性がある。

だからこそ、慎重にならなければいけない。



「いいえ。私が偽物とでもお思いですか?」

「…そう言ったつもりなんだけど」

「父上がこのような場に私にそっくりな偽物を連れて来るなんて愚行をしませんわ」


…いや、あるのか?
前世ではそんな事考えられないし、これだけ可愛いシレネそっくりな人なんていないと決めつけていたけど。

魔法どうこうで出来たりする…?

「…で、君は何が目的なの?」


真っ直ぐと向けられた言葉は、まるで”誤魔化すな”と言われたように感じる。


…セカシュウの攻略対象者たちの中で、1番の強敵はカルミアだ。

彼のプロフィール欄に趣味は”策略”得意なことは”謀略”なんて記載されていた所謂”腹黒王子キャラ”。
プレイヤーからは絶大な人気を誇っていた彼だが、言葉に気を配らなければどこかで揚げ足取られる。

正直、2次元では人気でも3次元となるとただの嫌な奴だ。


「私、ですか?」

「…前の君と今の君は、まるで別人だと感じたんだけど?」

容赦なく鋭い指摘をしてくるカルミアは、あながち間違いではない。
1年もの間、会っていなかったのに…いや、父上のことがあれば私へ不審を向けてるのは自然よね。

だったら、下手に誤魔化すよりも―…

「それは、間違いではございません。前の私は…父上のでしたので」

「…人形?なら、なぜやめたんだ」

「ただの私情です。カルミア王子が思っているようなことではございません」



しまった。

今の言い方はまずかったわ。
捉え方によって、反逆を企てているかのようにも聞こえてしまう…。

「…ふーん。じゃあ、その私情とやらを教えてよ。にとっても心苦しいことだから」



あああああ…やってしまったわッ。
ルリにも言われていたのにッッ!

見事に揚げ足を取られ、7歳の悪魔の少年はほくそ笑んでる。
もし、この後の返答に失敗すれば私は最悪、このまま反逆の疑惑で捕虜される可能性がある。あの両親が私の冤罪のために動いてくれるはずはない。
身近に感じる恐怖に足が震えそうになるが力を込めて抑え込んだ。


「…折角、素敵な世界に生まれてきたのに父上の言いなりのまま生きるのは勿体ないと思ったからです。私はもっと気楽に生きたいのです」

紛れもない、真実だ。

大好きなゲームの世界に転生して初めて社交界に足を踏み込んだけども…想像していたよりも何倍にも苦痛だ。
私は7歳なのよ?なのに、周囲の大人の目線は容赦なく陰口を叩き、白い目を向けられた。
実の両親にも…。

貴族社会は生き辛い。

蹴落とし合う場所にいるよりも、もっと気楽に生きたい。

「これで、どうでしょうか」


”いかなる状態でも気を抜いてはなりません”


屋敷の皆から教わった通りに、身体中のあらゆる神経に気を張り続けていた。
恐怖を悟られてはいけない。
焦りを見せてはいけない。

「…ふーん。そろそろ戻ろうか」

え?そんなにもあっさりと…?

意外にもカルミアは私への警戒をあっさりと解いた事に拍子抜けした。
カルミアは何事もなかったかのように会場へと足を向けたが、嫌々そうに歩き出していた。



私も後を追うが、カルミアの態度はどうも腑に落ちない。
何か企んでいるのではないだろうか…?

会場へ戻るとカルミアが戻ってきたことで早速、多くの方々に捕まっているのを見て少し胸を撫でおろした。

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