Detectiveは宇宙人

飛鳥 進

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第壱話-開始

開始-1

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 7月1日
 一人の若き社会人女性が今、玄関でパンプスを履く。
「よぉ~し、気合い入れて行くわよ!!!」
 彼女はこの春、入社したての新入社員で研修を終え今日が初配属なのだ。
 自分の両頬をパシッ、パシッと両手で軽く叩いて気合いを入れドアを開けて外に出ると眩しい太陽光が彼女を照りつける。
 鍵をかけ、つかつかと歩きマンションを出ると通学途中の小学生達の集団登校とすれ違う。
「ねぇ、知っている? 宇宙人ってもう地球に来ているらしいよ」
「うっそだぁ~」
 そんな会話をすれ違いざま聞き、微笑ましく思いながら歩を進める。
 満員電車に揺られること約10分、満員電車から解放され徒歩1分の距離にある職場へと向かう。
 職場は駅ビルに入っている探偵社Star of Lightという中規模の探偵事務所であった。
「おはようございます」
 事務所に入ると同時にハキハキと挨拶をする。
 すると、所長兼代表取締役社長の山井 史やまい ふみが自席から立ち上がり近寄ってきた。
「おはよう。研修、お疲れ様。今日からよろしくね!」
 そう言いながら、握手を求めてくる。
「こちらこそよろしくお願いします!!!」と言って、史と握手を交わす。
「じゃ、自己紹介をと言ってもこいつだけか・・・・・・・」
 史の視線の先には、ソファーでいびきをかいて寝ている一人の冴えない男が居た。
「起きなさい」
 その男の頭を叩いて起こす。
「あ、事件すか?」
 男は起きるや否や史にそう言った。
「事件すか? じゃないわよ。
新人の子よ。挨拶なさい」
「あ、どうも。小永 新三おなが しんぞうです。宜しく」
 寝ながら挨拶する新三を見て、社会不適合者な奴だと思う。
「よ、宜しくお願いします。
私、深見 愛子ふかみ あいこと言います。これから、一生懸命頑張ります!!」
「あ、はぁ~い」
 新三は愛子の挨拶を適当に流し、再び眠りにつこうとする。
「いい加減、起きなさい!」
 新三をソファーから引きずり降ろす史。
「いってぇ~な」
「さ、愛子ちゃんと一緒に不倫の調査よ」
「愛子ちゃんの初仕事なんだから、迷惑かけるんじゃないわよ」
「ほぉ~い」
 起き上がりながら、史から対象者の写真と身辺情報の記載された書類を受け取る新三。
「宜しくお願いします」
「あ、はい。宜しく、宜しく」
 こうして、新三と愛子の二人はバディを組むことになった。
 新三とバディを組んでからというもの愛子は驚愕の連続であった。
 この小永 新三は全くと言っていい程、探偵業務が出来ないのだ。
 配属してすぐに不倫の調査を行ったのだが尾行はまともにできず、直ぐに対象者に気づかれ追いかけるも逃げられる始末。
 その事がきっかけで対象者に不倫調査がバレてしまい、依頼者が怒鳴り込んで来たのだが、その時も新三は不謹慎なことを依頼者に言った。
「そもそもな話、浮気されるあんたに問題があるんじゃね?」
 そんな事を言うもんだから烈火のごとく怒り狂い宥めるのが大変で、なんとか史が依頼者を言いくるめて調査は続行になった。
 愛子の奮闘のおかげか、不倫の証拠を確保し調査報告書を作成の際、また新たな問題が発生した。
「これ、報告書だけど誤字脱字が出ないか確認して」
 新三にそう言われ、愛子が捜査報告書に目を通す。
 それには次のように書かれていた。
 僕は、貴方の旦那さんが不倫していると思います。
 何故なら、不倫相手の女性とホテルに入っていく所の写真が撮れたからです。
 以上のことから僕は旦那さんが不倫していると思いました。
 後、なんか怒らせちゃってごめんなさい。
「こ、これを依頼者に渡すんですか!?」
「うん!!」
 悪びれる様子もなく純粋な子供のような目で愛子を見る新三。
「は、はぁ」
 愛子はこの瞬間、組む相手を変えてもらおうと決心した。
 そして勿論のこと、依頼者には愛子が作成した報告書を提出した。
 それから1週間がたった現在。
「あ~暇だなぁ~」
 新三はソファーに寝転がりながら、大きなあくびをする。
 暇なのは、あんたのせいだと思う愛子。
 愛子は新三との不倫調査以来、新規の調査をさせてもらえずにいた。
 原因は、新三にあるのではないかと愛子は思っていた。
「転職しようかな」
 つい心の声が漏れてしまう。
「え、天丼!?」
 新三はスマホの時計で時間を確認すると11時を示していた。
「愛子ちゃん、もうお腹すいたの?
食いしん坊だな」
 今度は、スマホでネットサーフィンを始める。
「はぁ~」
 深いため息をついていると、一本の電話がかかってきた。
「はい、Star of Lightです。ご依頼でしょうか?」
「所長の山井さんは?」
「所長の山井は外出中です。
山井に御用があるのでしたら、ご用件を伺いますが」
「あ、じゃあ、小永さんは?」
「小永は居ますが・・・・・・・・・・・・・・・・」
 一体、このポンコツに何の用があるというのか?
 愛子は不思議で堪らなかったが、話を続ける。
「今、代わりますね」
「お願いします」
 保留音を流して、新三に一番近い内線電話に繋ぐ。
「小永さん、7番に電話です」
「え~めんどくさい」
「いいから出て!!」
「はぁ~あ。はい、もしもし?
ああ、誠っち? 久しぶり、どうしたの? うんうん」
 誠っちなる謎の人物と談笑して、3分程話して通話を切った。
「喜べ。暇を持て余している愛子ちゃん」
「は?」
 てめぇのせいで暇を持て余しているんだよ!! と心の中で叫ぶ愛子。
「行こう、事件だ」
 それまでとは打って変わって眼つきがガラッと変わった新三は、そそくさと事務所を出ていく。
 愛子が呆然としていると、新三が戻ってきてこう告げる。
「何してんの? 行くぜよ!!!」
「は、はい!!」
 愛子は慌てて準備をして新三の後を追いかける。
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