探偵は女子高生と共にやって来る。

飛鳥 進

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第参拾話-将軍

将軍-25

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 ゲネラールこと更利満は、その身柄を拘束され警視庁の取り調べ室で取り調べを受けていた。意外なことに、更利は自分の犯行を素直に認め自供していた。
 だが、その話を聞いた長四郎は疑念を持ち一川警部に頼み更利と話す機会を設けて貰った。
「すいませんね。お疲れのところ」長四郎は取り調べで疲れているであろう更利に労いの言葉をかけた。
「いえ、それより今日は何を聞きに?」
「いやぁ~ なんて言うんでしょうね。素直に自供されているようで」
「ええ、ゲームに負けましたから」
「ゲーム。そのゲームなんですけどね。甘木田さんを最初に目撃したのは、レインボーブリッジですよね?」
「はい。そうです」更利は頷きながら答えた。
「あれは、どこから見てたんですか? 気になっていて」
「それはですね。ボートです」
「ボートですか。でも、最初はあそこで俺と接触する気だったんですよね?」
「はい」
「なのに、急に現れた男、甘木田照悟。あの人、ジャーナリストって言いつつあの人も予備自衛官なんでしょ?」
「推理ですか? 根拠はあるのですか?」
「う~ん」と長四郎は頭をポリポリと掻いてから口を開いた。
「根拠は都合よく現れたってことだけかなぁ~ しかも、あんたが逮捕されてから行方知れずときた。なんか、臭いでしょ?」
「フフっハハハハハ!!」急に高笑いし始める更利。
「え、何? 怖っ!!」
 長四郎は身を縮こめ、恐怖する。
「申し訳ない。まさか、そんな無能な奴だとは思わなかったのでね。探偵さんの言う通りですよ。奴は予備自衛官だ」
「そうですか。で、その予備自衛官を殺害して貴方の目的は達せられたのですか?」
 その質問に更利は頷いて答えた。
「私の目的は、世間に隠れた予備自衛官を炙り出し、国民を救う事だ。だが、個人でやるには少々つまらないし、国民の意識改革には繋がらない」
「だから、俺に喧嘩を売ってきたってことですか」そう言う長四郎の顔はたまったもんじゃないといった表情をしていた。
「そうです。お陰で三人目からそれを知っての事か。手応えを感じるものがありましたよ」
「手応え。手応えねぇ~ あの自衛官の人達って、公安とかがアンテナ張っている場所に潜入している人達またはその協力者ってところですよね? なんで、救う話になるんです?」
「熱海さん、良いですか? その何も知らない国民の横で危険が差し迫っているんですよ。それを教え導かないと」
「はぁ~ ご立派な事で。そんな事よりも甘木田さん殺害に失敗したのに悔しがらないんですね?」
「うん。それが不思議とね、気にしないんだよ」
 更利の顔は満面の笑みを浮かべていたが、目は全く笑っていなかった。
 長四郎はそこで話を切り上げ、取り調べ室から出てすぐに部屋の外で待機していた一川警部に声をかける。
「面倒くさいことになりましたよ」
「どういう事? 長さん」
 長四郎と並走して歩く一川警部が説明を求める。
「あそこで、取り逃がしたのがまずかったんですよ。あいつ、同志なんて者を作っていやがったんです。で、取り逃がした最後のターゲット」
「甘木田照悟を殺すってわけか! こら、マズい事になったばい!!」
 二人は警視庁の廊下を颯爽と駆けって行く。
 佐藤田警部補の知り合いの伝手で甘木田の居場所を捜索してもらった結果、甘木田は今、東京都都庁にその身を置いている事が分かった。
 命捜班の部屋で世間話にしけこんでいた燐も駆り出され、甘木田照悟の殺害を防ぐために都庁へと急行した。
「都庁って言っても、広いよ」燐がそう言う。
「しかも、クリスマス当日。展望台に昇るカップル多いし」遊原巡査がそう言うと「カップルだけかよ」とすかさず明野巡査がツッコミを入れる。
「カップルであれ何であれ探すしかないな」佐藤田警部補は髪をかき上げ、部下二人の背中をポンッと押す。
「行きましょう」絢巡査長も自身の顔をポンポンっと叩き気合いを入れる。
「ほんじゃあ、行きますばい!!」
 長四郎達一行の七人は、甘木田の捜索を開始した。
 燐は引き込まれるようにして、展望フロアへと来ていた。
「どこかなぁ~」
 多く居る人混みの中、人を搔き分け探していると人ぶつかってしまう。
「あ、すいません」咄嗟に謝ると「こちらこそすいません」と謝罪で返事が返ってきた。
 そこで、燐は相手の顔を見た。
「あ、居た!」
 燐が大きな声を出すので、そこに一気に視線が集まる。
 その瞬間、奇声をあげた小柄な男が甘木田目掛けて突進していく。
「危ない!!」燐は甘木田を突き飛ばし、男の顔を目掛けて華麗なる回し蹴りを浴びせる。
 男は白眼を向いて、吹っ飛んで人混みの中に消えていった。
「スぅ~」燐は静かに息を吐きながら、呼吸を整える。
「お~」
 一人がパチパチと拍手をすると、その場に居た全員へと伝染していき燐は恥ずかしそうに照れるのであった。
「運よく見つけられたね。ラモちゃん」長四郎は手を叩きながら褒める。
「褒められている気がしないんだけど」
「いや、一発で相手を制したのはすごいよ。ホント」
 佐藤田警部補は男が持っていたバタフライナイフをクルクルと回しながら、燐を褒める。
「そういえば、今日。クリスマスでしたね」
「はぁ~あ。今年もクリボッチだ」明野巡査の発言で遊原巡査が思い出したようにガックリと肩を落とす。
「遊原君。ボッチなの? 良かったら、私とクリスマスパーティーしない?」
 絢巡査長は遊原巡査の肩を組み誘う。
「遊原。先輩には従えよぉ~」佐藤田警部補はニヤッと笑って一人帰っていった。
「一川さん」遊原巡査が一川警部に助けを求めると「あたしは家族サービスがあるけん。じゃ」一川警部もまた帰っていった。
「探偵さん」
「俺は仕事だから。じゃ」
 長四郎はそそくさと逃げ帰ってしまう。
「良いじゃん。あたしも居るし、ハーレムだよ。遊原君。美人な女性三人に囲まれて」
「あのなぁ~」
 そう言う遊原巡査の鼻に冷たい感覚が走る。
「あ、雪だぁ~」
 燐は嬉しそうに降り始めた雪を見て笑顔になるのだった。

                                                   完
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