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第拾話-詐欺

詐欺-18

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「あれだから、男共は!!」
 警視庁の廊下を歩く燐の顔は般若の形相をしていたので、すれ違う警察官達皆、燐の顔を見ては目を合わさないよう下を向きながら通り過ぎていく。
「ラモちゃん、怒るのも無理ないけど落ち着いて」
「絢さんは悔しくないんですか!! 女ってだけで部屋追い出されたんですよ」
「まぁ、男がたいてい女の子を追い出して話すことなんて相場が決まっているんだし」
「で、でも」
「それにあのバカ共が遊んでいる間に私達はやれることがあるでしょ」
 絢巡査長は燐を励ますと、颯爽と地下駐車場へと向かった。
 地下駐車場で車に乗り込み、二人はどこかへと向けて走り出す。
「あのどこに行くんですか?」
 車が走り出して5分程経過したあたりで、燐は質問した。
「例のシェアハウスよ」
「えっ! あそこに行くんですか?」
「勿論。行って確かめなきゃ」
「確かめるって・・・・・・・」
「ラモちゃん、探偵道具とか持っていないの?」
「探偵道具ですか? えーっと」燐は持っていたポーチの中を漁って探し始めて直ぐに「カメラ付き眼鏡ならありました」と絢巡査長に所持していることを伝えた。
「じゃあ、それをかけて撮影して」
「はい、分かりました」
 燐はそう返事をしながら眼鏡をかけて、気合を入れる。
 そうこうしているうちに二人を乗せた車は、シェアハウスの前に着いた。
 車をシェアハウス近くのコインパーキングに駐車し、燐と絢巡査長はシェアハウスの前へと移動した。
「ここですか」燐は建物を見上げながら言った。
「行くわよ」
 絢巡査長はインターホンを押す。
 カメラ付きのインターホンであったので、警察手帳を見せながら絢巡査長はカメラに写り込む。
「はい・・・・・・・・」
 弱弱しい声が外付けインターホンのスピーカーから聞こえてきた。
「私、警視庁の命捜班の絢と申します。実はとある事件の捜査にご協力をお願いしたいのですが・・・・・・・・」
「はぁ、少々お待ちください」
 そこで一旦、通話相手が離れたらしくカメラが撮影している事を示すランプが消灯した。
 それから直ぐに、応対したであろう女性が出てきた。
 その女性は長四郎が見ていたルームツアーの動画に出演していた女性だった。
「あ、あの警察が何でしょうか?」
「とある失踪事件の捜査をしておりまして。被害者の方がこちらに入って行ったという目撃情報がありまして。お話を聞かせて貰っても良いですか?」
「あ、いや」返答に困る女性だったが、「何もなかったら、さっさと帰るのにな」と女性に聞こえるトーンで燐は呟いた。
「分かりました。どうぞ」
 女性はドアを大きく開けて、二人を中に入れた。
 玄関はシェアハウスと呼ばれるだけに広く、男女それぞれの靴が汚く並べられていた。
「お邪魔します」絢巡査長は断りを入れ、靴を脱いで共用部分の廊下に立つ。
 燐は玄関をじっくりと見回し、その光景を眼鏡の隠しカメラに収める。
「ラモちゃん、行くよ」
「あ、すいません」
 燐は慌てて靴を脱ぎ、後を追う。
「これって、家宅捜索って奴ですか?」女性は直球の質問を二人にぶつけてきた。
「いえいえ、家の中の捜索なんてことはしないので」と絢巡査長が相手の気を紛らわせようとしていると「あのトイレ貸してもらえませんか?」燐は唐突に女性に願い出た。
「あ、共用のトイレがそこに。女性専用のマークの方に入ってください」
 トイレがある方を指差し教えると「ありがとうございます!!」燐は礼を言いトイレに駆け込んだ。
「すいません。ウチの若いのが」
「いえ、自然現象ですから。こちらへ」
 絢巡査長が通されたのは共用のリビングルームで、かなり広くテレビも70インチと大きな物が壁掛けしてあり、ソファーも大人何人が座れるのだろうかという位、大きなソファーがテレビの前に置かれていた。
 そして、絢巡査長はダイニングテーブルの方に座らされた。
「それで、どのような人がこちらに来たというのでしょうか?」
「この人なんですけど」
 浦安民の顔写真を女性に見せると首を傾げて「こんな人は来ていませんね」と答えた。
「そうですか・・・・・・・」
 外れかそう思っていると、二階の方から女性の悲鳴が聞こえる。
「失礼します!!」
 絢巡査長は声が聞こえた二階へ向かう為、階段を駆け上がり二階に着くのだが部屋の特定はしていなかったので右端の部屋から見て行こうと歩を進めた時、後ろのドアが開き男が廊下に吹っ飛ばされて出てきた。
「大丈夫ですか!!」
 絢巡査長が駆け寄ると部屋から燐が指をポキポキ鳴らして出てきた。
「絢さん、婦女暴行の現行犯です!」燐は男を指差してそう言い放った。
「え?」
 絢巡査長は燐にそう言われ部屋を覗くと、ベッドの上で小刻みに震えている女性が居た。
「少し署の方でお話を聞かせてもらいましょうか?」
「お、俺は何もやっていない!」
「じゃあ、なんでこの人が震えて怯えて悲鳴挙げるのよ! 何? そういうプレイか。プレイって言うのか!! 私はあんたがこの人に跨って襲っている所を見たんだぞ!!! ああっ!!!!」
 燐は男の顔に詰め寄ると「す、すいません」と身を縮こまらせながら謝罪した。
「ラモちゃんも落ち着いて。ケガはないですか?」
 中に居る女性の状態を確認すると「ありません」そう弱々しそうな声で返事をした。
「ラモちゃん、こいつは私が連行するから。あの人の事、お願い」
「分かりました」
 絢巡査長は男に手錠をかけ、階段を降りて行く。
「大丈夫ですか?」猫なで声で燐は女性に話しかける。
「ありがとうございました」
「いえ、当然の事をしたまでですから。失礼ですが、このシェアハウスの住人の方ですか?」
「違います! 無理矢理、連れ込まれたんです!!」
「やっぱり。貴方と同じ様な人、他にも居ますよね?」
「居ます」
「その人達はどこに?」
「分かりません。元々はここに居たんですけど。昨日の晩、鎌飯さんが来て移動しろと言われて、今朝早く他の子達はどこかへ連れて行かれました」
「貴方は何故、ここに?」
「さっきの男が、私だけを残せと鎌飯さんに直訴したみたいで」
「辛いのに答えてくれてありがとうございます」
「私、助かるんですよね?」
「勿論」
 燐はそう言って、女性にサムズアップする。
 その頃、バカ共はというと。
「おしっ、これで完成!!」
 長四郎は並べられた写真を見ながら、嬉しそうに頷く。
「答え合わせが楽しみやね」
「そうですね」
 一川警部に同意する齋藤刑事。
「にしても、疲れたね」
 長四郎がそう言った時、命捜班の内線に着信が入った。
「はい、命捜班」
 齋藤刑事が、いの一番に出ると神妙な面持ちで「はい、はい」と答え通話を切る。
「どうしたと?」
「例のシェアハウスに応援要請です」
「あいつら乗り込んだのかぁ~」
 長四郎はやられたといった感じで、頭を抱えるのだった。
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