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第伍話-支援

支援-4

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 早速、燐と絢巡査長は事件現場のビルを訪れていた。
 事件発生からまだ、日も経っていなかったので規制線が張られていた。
 絢巡査長が規制線の前に立っている制服警官に警察手帳を見せ、中に入れてもらう。
 それに追随する燐。
 2人はまず、飛び降りたであろう屋上へ上がった。
 事件現場のビルは、高いビルに囲まれていた。
「この隣のビルからの目撃者って居なかったんですかね?」
「そうね。所轄署の聞き込みだとそのような目撃談はなかったみたい」
 絢巡査長は捜査資料のデータが入ったタブレット端末を見ながら答える。
「一応、下足痕を調べたら被害者の靴以外にも、もう一足分発見されたって書いているわね」
「じゃあ、ここで誰かと争っていた可能性もあるってことですよね?」
「確かにこの資料によると、その線でも捜査はしていたみたいだけど目撃証言も取れなかったし、被害者を殺害する動機がありそうな人物がいなかったこともあって自殺の線で捜査する事になったようね」
「そのもう1人の人間が誰か、気になりますねぇ~」
 燐は後ろに手を回し、辺りを見回す。
「どうしたら良いと思います?」
「う~ん」
 絢巡査長は腕を組み、長考し始める。
「やっぱり、このビルに入っているテナントの関係者に被害者と関係があるかの調査じゃない?」
 後ろから声がしたので燐と絢巡査長が振り向くと、長四郎が立っていた。
「長さん、どうしてここに?」絢巡査長が質問する。
「どうしてって、お宅の上司が「じゃじゃ馬娘が言う事聞かずにうちの捜査員を連れて行ったからどうにかしてくれ」って、言われたから来たの」
「じゃあ、私の邪魔にしに来たって事?」
「ラモちゃんの仰る通りと言いたいところだけど。俺も、あいつには煮え湯を飲まされたからな」
 長四郎の言うあいつとは、東正義の事だろうと燐は思った。
「協力してくれるって事?」
「ラモちゃん、協力じゃねぇよ。俺が自主的にやると言っているの」
「ねぇ、何で急に心変わりしたわけ? 気持ち悪い」
 燐の言葉に賛同するかのように、うんうんと頷く絢巡査長。
「気持ち悪いって酷いなぁ。ただ、俺の魔法カードを発動したまでよ。心変わりというな」
「意味わかんない。何それ」
「えっ、遊戯王だよ。遊戯王。知らないの?」
 絢巡査長に賛同を求める長四郎だったが、絢巡査長は首を縦に振らない。
「名前は知っていますけど。どんな物なのかまでは・・・・・・」
 若干、引いている絢巡査長。
「そんな事よりさ、聞き込みしようよ」
 燐は手をパンパンっと叩き二人に促す。
「おっ、そうだな」
 長四郎達はこのビルに入っている勇逸のテナントで、聞き込みを開始した。
 長四郎がテナントのドアをノックすると、「はい」と中から弱々しい返事が返ってきた。
「失礼しまぁ~す」と言いながら長四郎がドアを開ける。
 部屋の中は薄暗く机が並べられた殺風景な部屋の中に、おさげ頭の女性がポツンと座っていた。
 その女性がこちらをゆっくりと見てきた。
「で、出たぁ~!!」
 長四郎は一番大きな声を上げ、燐に抱きつく。
「ちょっと!!」でニーキック、「何」で背中に肘内、「すんのよ!!!!」で顔面を平手打ちする燐。
「グホォっ!!!」
 燐の怒涛の三連撃を受け、長四郎はその場に倒れ込む。
「だ、大丈夫ですか?」
 おさげ頭の女性が、長四郎の顔を覗き込みながら様子を尋ねる。
「あ、もうダメ」
 目が合ってしまいそのまま意識を失う長四郎。
「私、そんなにお化けに見えます?」
 おさげ頭の女性が質問する。
「はい!! あっ、いえ、そんな事は」燐は慌てて取り繕う。
「すいません。私、こういう者です」
 絢巡査長は警察手帳をおさげ頭の女性に見せて、身元を明かす。
「このビルで起きた事件の事ですか?」
「そうです」
 この女性が用件を素早く理解してくれて良かったと絢巡査長は思いながら、話を続ける。
「それで、二、三お話を聞きたいと思いまして」
「分かりました。どうぞ、こちらへ」
 おさげ頭の女性はそう言いながら、パーテーションで仕切っている応接室へ3人を通す。
 勿論、意識を失っている長四郎は燐に引きずられながら移動する。
「今、お茶を持ってきますので。お待ちください」
「お構いなく」
 絢巡査長はそう言ったが、おさげ頭の女性は給湯室にお茶を淹れに行った。
「おい、いい加減に起きろ!!」
 燐は長四郎の頭を叩いて、起こす。
「はっ!!」
 長四郎は辺りを見回して、自分の状況を確認する。
「何が「はっ!!」よ。あの人が戻ってきたら謝るのよ」
「あ、はい」
 燐のその言葉で、おさげ頭の女性が幽霊でないことを理解した。
「お待たせしました」
 おさげ頭の女性は、3人にお茶を出す。
『ありがとうございます』
 燐と絢巡査長は、声を揃えて礼を言う。
「あ、あの先程は驚いてしまってすいませんでした」
「いえいえ、初めてここを訪れた人は皆、驚くんですよ。ふふふふ」女性はそう言って笑う。
 そこから、おさげ頭の女性の自己紹介とこのテナントの説明を受けた。
 女性の名前は尾下 幽子おした ゆうこと言い、大手自動車メーカーに勤務する32歳であること。
 そして、このテナントは会社でチョンボした社員が送られる窓際部署だということを教えられた。
 彼女は入社2年目にして、この部署に配属されたとのことだった。
 で、今日は電話番として休日出勤しているらしい。
 以上の事を一通り話し終え、絢巡査長が本題へ切り出す。
「あの、この男性に見覚えはありませんか?」
 林野の写真を見せると、幽子は眉間に皴を寄せて首を傾げる。
「ありませんね」
「事件当日に見かけたとかそういったことはなかったですか?」
 燐が矢継ぎ早に質問する。
「事件があった日は、休みだったものですから」
「では、他の社員の方はどうでしょうか?」
 今度は絢巡査長が投げかける。
「正直言って、ここの部署の人間はここから一歩も出ないものですから。
他の社員に聞いても無駄かと。それに」
「それに?」燐が復唱する。
「それに、ここの部署は私と上司の窓口の2人だけですから」
「そうですか・・・・・・」
 燐と絢巡査長はこれ以上、話を聞き出せないと思い引き上げようと考えていた。
 すると、今まで黙っていた長四郎が口を開いて質問する。
「この男性は、ご存知ですか?」
 長四郎は、1枚の隠し撮りした写真を幽子に見せると、目を見開いて驚く幽子。
「この人、東さんですよね」
「そうです」長四郎はそう言って頷いて返事する。
「えっ、今回の事件に関係しているんですか?」
「それはまだ分かりません」
「あの、東さんを知っているんですか?」
 燐が聞くと、幽子は首を小刻みに振る。
「知っていますよ。2年前までここのビルに事務所を構えていたんですから」
「そうなんですか!!」
 燐は分かりやすいぐらいの驚きを見せる。
「ええ、そうですよ。でも、事務所が手狭になったからって丸の内に引越しされましたけどね」
「成程。すいません。長々とお話してしまって」
「いえ、私も久しぶりの来客で喋りすぎちゃって」
「では、失礼します」
 長四郎は幽子にそう言うと、テナントを出ていった。
 燐と絢巡査長も、幽子に礼を言い長四郎の後を追いかける。
 ビルを出たタイミングで、燐は長四郎に話しかける。
「ねぇ、まさか東っていう記者が犯人だと思っている?」
「ストレートな質問するなぁ。どうだろうな。被害者の話から察すると一番揉めそうな相手だと踏んで写真を撮ってきた」そう答えながら、舌を出しておちゃらける長四郎。
「では、その線で我々は事件を追って行けばよいと?」
 絢巡査長が質問すると、長四郎は空を見上げて答える。
「分からん」
 2人はガクッと肩を落とす。
「ちょっと、真面目に答えなさいよ」
「確定でもないし。一度、東のクズ野郎に会ってみるか。行くぞ、お供達」
 長四郎は一人歩きだして行く。
「調子に乗るな」
 燐の手套が長四郎の脳天に直撃するのだった。

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