探偵は女子高生と共にやって来る・シン

第三話-策略

策略-1

　熱海 長四郎あたみ ちょうしろうはその日、依頼もなく事務所のソファーに横たわりながらタブレット端末で映画を見ていると、事務所のドアが開く音がした。
　長四郎は起き上がると、ドアの向こうから若い女性が顔を覗かせていた。
「あの、営業中ですか？」
「あ、はい。やってますよ」
　長四郎はそう答えながら、依頼人になるであろう女性を観察する。
　髪色は淡色で、目鼻立ちもよく街を歩けばスカウトに声を掛けられそうな顔立ちをしていた。
「サイト見て来たんですけど」女性はそう言いながら、辺りをきょろきょろと見回す。
　その様子を見て、訳ありな依頼人だなと思う長四郎。
「そんな所では、依頼を聞けませんのでどうぞこちらに」
「失礼します」
　長四郎にそう促された女性は長四郎が座る対面のソファーに腰を降ろす。
「お仕事はモデルさんか何かですか？」
　来客用のマグカップに珈琲を注ぎ入れながら長四郎が質問する。
「え、はい」
　女性は薄気味悪いと少し思いながら、差し出された珈琲を飲む。
「それで、ご依頼内容は？」
「はい」女性はひと呼吸おき「ストーカーに悩まされているんです」と依頼内容を伝えた。
「ストーカーですか・・・・・・・」手を顎に当て、少し考え始める長四郎。
「警察に相談はされたんですか？」
「というより、事務所に相談したんですけど。警察に相談するとマスコミに騒ぎ立てられるので事務所から止められてしまって・・・・・・・」
　声を落としながら女性は下を向く。その様子からして、相当深刻な問題なのはよく分かった。
「困った事務所ですね。ストーカー行為はやっぱり、尾行ですか？」
「それもありますけど。これも郵便ポストに」
　女性はハンドバックから便箋を取り出して、そこから十数枚にも及ぶ写真を机の上に置いた。
　そこに写っていたのは、自宅から出てくる女性の姿。そして、大学の学食で友人と食事をとる女性の姿。極めつけは、彼氏であろう男と腕を組み楽しそうに歩く女性の姿が隠し撮りされていた写真であった。
「これは、悪質ですね。これを見せても事務所は警察への相談はNOだった」
「はい、そうです」
「分かりました。じゃあ、ストーカー行為を辞めさせるよう仕向けましょう。後、警察にも相談しましょう」
「でも、事務所が・・・・・・・」
「大丈夫です。事務所にも私が説得しますから」
「そうですか。宜しくお願い致します」女性は深々と頭を下げる。
「そう言えば、まだお名前を聞いてませんでしたね」
「あ、私・・・・・・・」
　長四郎は女性と共に事務所を出て、自宅へと向かう。
　その様子を物陰から伺う女子高生の姿があった。
「なんで、あいつが高島たかしま さくらと？」
　二人を尾行し始める女子高生であった。