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前編
俺の師匠を紹介します!(主人公視点)
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「ヴィクトール。お前達の婚約式と婚姻式だけどね、我が領で行う事になった」
「領地で、ですか?」
どんちゃん騒ぎの一夜が明けて、俺は久しぶりに父さんと朝から顔を合わせていた。
いつものように、先生の処置を受けていたら、父さんが部屋にやってきたのだ。
「ああ。領都にある教会でね」
「………そうですか、分かりました」
なんで王都じゃないのかは、あえて聞かなかった。父さんの表情は有無を言わさないそれだったからだ。
別に不満もない。
王都だろうと、領都だろうと、俺はティナと結婚できればそれでよかったからだ。
しかし、領都の教会かぁ。たしかご高齢の司教様が管理してたっけ。元気かなぁ。
「ついては、式までに領地に移動しなければいけないんだが、トビアス」
「あ?」
「ヴィルが長距離移動に耐えられるようになるまで、どのくらいかかりそうだい?」
処置を終えた先生が、片付けていた手を止めた。
「うーん。そうだなぁ。街の外は舗装されてねぇところも多いからな。馬車の揺れは正直キツイと思う。が、そうだなぁ。あと二週間は様子を見させちゃくれねぇか」
「二週間か………」
「二週間後に出発するとしても、なるべく整備された幹線路を通るように出来るか?」
「ううむ……そうだね……。おそらくは……。とにかく経路をよく検討しよう」
父さんはそう言って、忙しそうに帰って行った。
ちゃんと寝てるのかな父さん………。心配だよ。
「さて、俺はちょっくら自由組合に行って来るか」
先生も出かけてしまい、朝食まで手持ちぶさたになった俺は、ヒルシュ家の敷地内にある南方騎士団の訓練場に久しぶりに行ってみようと、部屋を出た。
「クリフ、付いて来なくても大丈夫なんだが」
上着を肩にかけた格好で歩く俺の後を、クリフは静かに付いてくる。敷地内なんだし、何度も来たことあるから迷うこともないし、大丈夫だ。と言ったら。
「そういう問題ではなく、ヴィクトール様から目を離すなと、トビアス様から厳命されておりますので」
だそうだ。
俺ってどんだけ信用ないんだよ。
こんな状態で走り回ったりしないって。
「師匠元気かなぁ……」
南方騎士団の詰所には、俺のかつての剣の師匠が居るはず。俺は上機嫌になって軽い足取りで訓練場に向かった。
「これはヴィクトール様!」
「ヴィクトール様!お久しぶりです!」
「おい!ヴィクトール様がお見えになったぞ!」
「ヴィクトール様!」
訓練場の門をくぐると、軽装の革鎧を着た騎士達が俺に気づいてわらわらと集まって来た。
「訓練中にすまない。俺のことは気にしないで続けてくれ」
ガチャガチャと鳴る武具のぶつかる音と、運動部の部活中みたいな男臭。
懐かしいなぁ、よくティナと遊びに来て訓練してるのを見学してたなあ。
「おい!お前ら何をしている!」
張りのある声が聞こえた瞬間、人垣が割れてその先に現れたのは………。
「師匠!」
俺の剣の師匠、南方騎士団王都専従部隊長のヘルフリート・アーデル・リッター・アルムホルト。
「ヴィクトール様!?」
ヘルフリート師匠は俺に気づくと、駆け寄って来て俺の前に膝をついた。
「師匠?!」
「お久しぶりでございます」
気がつくと、他の騎士達も師匠にならって膝をついていた。
ああ、そうか。
子供の頃、剣を習っていた時とは違うんだった………。馬鹿だなぁ、俺は。
成人した以上、貴族の序列に名を連ねる者として、俺自身に爵位はないが、筆頭公爵家の嫡子となれば子供にするような扱いは許されない。
公式、非公式に関わらず、下位の者が処罰されることもある。
そこまで厳格な貴族の序列を、最上位の公爵家の人間が崩すようなことをしてしまうところだったんだ。
「…………ヘルフリート殿。突然伺って訓練の場を乱してしまい申し訳ない。久しぶりに、貴殿の顔を見たかったが故に足が向いてしまった……。息災で何よりだ」
「もったいないお言葉でございます……。ヴィクトール様におかれましては、ご成人、誠におめでとうございます」
そう言ってしっかりと俺の目を見つめてくる師匠………、ヘルフリート殿の目は、昔とちっとも変わって無かった。なんだが安心した。
懐かしいなぁ。
昔って言っても、俺が五歳のときから十一歳までだったけど、ヘルフリート殿は俺のよき師匠だった。
「ありがとう、これもヘルフリート殿が厳しく鍛えてくれたお陰だ。感謝している」
「そのように仰っていただけるとは…………おそれ多いことでございます……」
「………………かつて、我が父は剣の師を求めた私にこう、仰った。『師事するなら、天才より秀才にしなさい。もとより才のある者というのは、己の感覚で剣を振るい、無双の強さをみせる。しかし往々にしてそういう者は、その感覚を他人に伝えることはできない。対して秀才は、ただひたすら天才に近づかんと努力を重ね、理屈を積み上げて剣を振るう。故に秀才はその努力と理屈を他人に伝えることができる。理を知り剣を振るう者こそが最高の師である』と」
「ッ…………!」
「ヘルフリート殿。貴殿は私の生涯の師と仰ぐべき人だ。改めて礼を言う」
「も………もったいなき………お言葉……………」
肩を震わせてうつむいてしまったヘルフリート殿がいたたまれなくて、ちょっと模擬剣を握らせてもらいたかったけど、諦めて部屋に戻ることにした。
「では、ヘルフリート殿。息災でおられよ」
「はっ……………」
「領地で、ですか?」
どんちゃん騒ぎの一夜が明けて、俺は久しぶりに父さんと朝から顔を合わせていた。
いつものように、先生の処置を受けていたら、父さんが部屋にやってきたのだ。
「ああ。領都にある教会でね」
「………そうですか、分かりました」
なんで王都じゃないのかは、あえて聞かなかった。父さんの表情は有無を言わさないそれだったからだ。
別に不満もない。
王都だろうと、領都だろうと、俺はティナと結婚できればそれでよかったからだ。
しかし、領都の教会かぁ。たしかご高齢の司教様が管理してたっけ。元気かなぁ。
「ついては、式までに領地に移動しなければいけないんだが、トビアス」
「あ?」
「ヴィルが長距離移動に耐えられるようになるまで、どのくらいかかりそうだい?」
処置を終えた先生が、片付けていた手を止めた。
「うーん。そうだなぁ。街の外は舗装されてねぇところも多いからな。馬車の揺れは正直キツイと思う。が、そうだなぁ。あと二週間は様子を見させちゃくれねぇか」
「二週間か………」
「二週間後に出発するとしても、なるべく整備された幹線路を通るように出来るか?」
「ううむ……そうだね……。おそらくは……。とにかく経路をよく検討しよう」
父さんはそう言って、忙しそうに帰って行った。
ちゃんと寝てるのかな父さん………。心配だよ。
「さて、俺はちょっくら自由組合に行って来るか」
先生も出かけてしまい、朝食まで手持ちぶさたになった俺は、ヒルシュ家の敷地内にある南方騎士団の訓練場に久しぶりに行ってみようと、部屋を出た。
「クリフ、付いて来なくても大丈夫なんだが」
上着を肩にかけた格好で歩く俺の後を、クリフは静かに付いてくる。敷地内なんだし、何度も来たことあるから迷うこともないし、大丈夫だ。と言ったら。
「そういう問題ではなく、ヴィクトール様から目を離すなと、トビアス様から厳命されておりますので」
だそうだ。
俺ってどんだけ信用ないんだよ。
こんな状態で走り回ったりしないって。
「師匠元気かなぁ……」
南方騎士団の詰所には、俺のかつての剣の師匠が居るはず。俺は上機嫌になって軽い足取りで訓練場に向かった。
「これはヴィクトール様!」
「ヴィクトール様!お久しぶりです!」
「おい!ヴィクトール様がお見えになったぞ!」
「ヴィクトール様!」
訓練場の門をくぐると、軽装の革鎧を着た騎士達が俺に気づいてわらわらと集まって来た。
「訓練中にすまない。俺のことは気にしないで続けてくれ」
ガチャガチャと鳴る武具のぶつかる音と、運動部の部活中みたいな男臭。
懐かしいなぁ、よくティナと遊びに来て訓練してるのを見学してたなあ。
「おい!お前ら何をしている!」
張りのある声が聞こえた瞬間、人垣が割れてその先に現れたのは………。
「師匠!」
俺の剣の師匠、南方騎士団王都専従部隊長のヘルフリート・アーデル・リッター・アルムホルト。
「ヴィクトール様!?」
ヘルフリート師匠は俺に気づくと、駆け寄って来て俺の前に膝をついた。
「師匠?!」
「お久しぶりでございます」
気がつくと、他の騎士達も師匠にならって膝をついていた。
ああ、そうか。
子供の頃、剣を習っていた時とは違うんだった………。馬鹿だなぁ、俺は。
成人した以上、貴族の序列に名を連ねる者として、俺自身に爵位はないが、筆頭公爵家の嫡子となれば子供にするような扱いは許されない。
公式、非公式に関わらず、下位の者が処罰されることもある。
そこまで厳格な貴族の序列を、最上位の公爵家の人間が崩すようなことをしてしまうところだったんだ。
「…………ヘルフリート殿。突然伺って訓練の場を乱してしまい申し訳ない。久しぶりに、貴殿の顔を見たかったが故に足が向いてしまった……。息災で何よりだ」
「もったいないお言葉でございます……。ヴィクトール様におかれましては、ご成人、誠におめでとうございます」
そう言ってしっかりと俺の目を見つめてくる師匠………、ヘルフリート殿の目は、昔とちっとも変わって無かった。なんだが安心した。
懐かしいなぁ。
昔って言っても、俺が五歳のときから十一歳までだったけど、ヘルフリート殿は俺のよき師匠だった。
「ありがとう、これもヘルフリート殿が厳しく鍛えてくれたお陰だ。感謝している」
「そのように仰っていただけるとは…………おそれ多いことでございます……」
「………………かつて、我が父は剣の師を求めた私にこう、仰った。『師事するなら、天才より秀才にしなさい。もとより才のある者というのは、己の感覚で剣を振るい、無双の強さをみせる。しかし往々にしてそういう者は、その感覚を他人に伝えることはできない。対して秀才は、ただひたすら天才に近づかんと努力を重ね、理屈を積み上げて剣を振るう。故に秀才はその努力と理屈を他人に伝えることができる。理を知り剣を振るう者こそが最高の師である』と」
「ッ…………!」
「ヘルフリート殿。貴殿は私の生涯の師と仰ぐべき人だ。改めて礼を言う」
「も………もったいなき………お言葉……………」
肩を震わせてうつむいてしまったヘルフリート殿がいたたまれなくて、ちょっと模擬剣を握らせてもらいたかったけど、諦めて部屋に戻ることにした。
「では、ヘルフリート殿。息災でおられよ」
「はっ……………」
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