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前編
二カ月でなんてそんな無茶な!(主人公視点)
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「さて、そうと決まったら忙しくなるよ」
「父さん?」
「ああ、そうだな。準備を急がなくてはな」
「お父様?」
俺たちの困惑をよそに、父さんたちはどんどん話を進めていく。
「ヴィル。ティナちゃん。早速二ヶ月後には婚約式と婚姻式をしよう」
「「ええっ!?」」
そんなに早く準備ができるのかという心配と、急すぎることへの驚きで、そんな反応しかできない俺とティナ。
当然だろうその反応に、父さんたちは困った様に表情を変えた。
「急かすようでごめんね?でも、アルベルト殿下の気が変わらない内に既成事実を作っておきたいんだ」
「なに、心配はいらん。ヒルシュ家とコール家の総力を挙げれば二ヶ月など造作もない」
それは心配ないとは思うけど………。
既成事実って…………。
でも、確かに、婚約式のみならず婚姻式まで終えてしまえば、俺とティナは正式な夫婦になり、そう簡単には割って入ることは出来なくなる。
父さんたちは、あのときみたいに俺たちの間を切り裂かれないようにと考えてるんだろう。
あれだけ大勢の前でティナを振っておいてまた言い寄ってくるとは思えないが、できるだけ早く確かな契約を結んでおきたい気持ちは分かる。
「そて、そうと決まれは俺はイリーネを説得しなくてはな……」
ベルおじさんが、そう言って重いため息を吐いた。
「では私は、婚姻腕輪や装束の支度に取りかかるとしようか。ヴィクトール、以前作った婚約腕輪を、私に預けてくれるかい?」
「はい、父さん。俺の寝室の文机の一番上の引き出しに入っています」
「わかった。ありがとう。ああ、安心してね、少し手直しをしてもらうだけだし、カイに依頼するから」
「カイさんに………」
本来、婚約腕輪も、婚姻腕輪も相手を迎え入れる側の家の当主が用意するもの。
だが、最初の婚約のとき、俺はどうしても自分で用意したくて、勝手にカイさんに依頼しに行ってあの腕輪を作った。
当時は父さんは
『私の役目が取られてしまったね』などと言って笑ってくれたが、こと婚姻ともなれば話は別だ。
家同士の一大事なため、婚姻腕輪には家格や身分に見合った意匠が求められると聞いたことがある。
それをたった二ヶ月で仕上げろと言われた時のカイさんの顔が目に浮かぶ。
ごめん。カイさん。心の中で謝っとく。
「カイさんによろしくお伝え下さい。父さん」
「うん。カイもきっと喜んで引き受けてくれるよ」
その日から、俺とティナを含めコール家、ヒルシュ家の全員が二ヶ月後に向けて慌ただしく動き出した。
「ヴィクトール様、ティアナ様。仕立て屋が参っておりますが、こちらにお通ししてよろしいでしょうか」
翌朝、相変わらず上半身を起こすのもやっとの俺は、部屋着のままベットの上で手伝って貰いながら朝食を終えたところだった。
もともとの利き腕が左だったから不便なんてもんじゃない。
片手しか満足に動かせないってヤバいな。
おっと、そうだ来客だった。
傷口が安定するまでの二週間、ティナの家に世話になることになった俺に、ベルおじさんが付けてくれた執事見習いのクリフ。
突然俺なんかに付けられて大変だろうけど、すごい良くしてくれる。将来有望。
「仕立て屋?用件は」
「はい。婚約式の御装束と、婚姻式の御装束の採寸とのことです」
「そうか…」
父さん仕事早ッ!?
昨日の今日でもう仕立て屋呼んだの!?
本気だ…………。父さん本気だよ………。
内心俺は焦ったが、動揺は包み隠した。
「クリフ。通してくれて構わない」
ポーカーフェイスは基本技能だからね。
「かしこまりました」
クリフが下がったのを見送ると、ティナが上着を肩に掛けてくれた。
寒くはないけど、さすがに部屋着丸出しはまずいと思ったんだろう。ありがたい。
「ありがとう、ティナ」
「どういたしまして、ヴィル」
ほどなくして、再び扉が叩かれた。
クリフが仕立て屋を連れてきてくれたんだろう。
「どうぞ」
「失礼致します」
「やあ!久しぶりだねっ!ヴィル君!ティナちゃん!」
クリフが扉を開けて半歩下がると、そんな明るい声と共に見知った顔が入ってきた。
「ユリウスさんじゃないですか」
「お久しぶりですわ。ユリウスさん」
彼はユリウス。
今の王都の流行を作り出していると言っても過言ではない、服飾工房の工房主であり凄腕の装衣師だ。
父さんの古くからの知りあいの一人で、あの食堂の常連でもある。
「いやー、二人とも大きくなっちゃって!私が歳をとるはずだね!」
はははは。と、笑うユリウスさんは昔とちっとも変わらない。いわゆる年齢不詳というやつだ。
貴族の御婦人方からの人気も納得の美形っぷり。もちろん、ユリウスさんの腕前が人気なんだけどね。
「ユリウスさん。忙しいのにすみません」
「ははっ!いいの!いいの!他ならぬヴィル君とティナちゃんの婚約式と婚姻式だからね!他の仕事はぜーんぶ後回しにしてきたよ!」
全然後回しって………、いいんだろうか………王都一と言ってもいい装衣師を……。
何だか申し訳なくてチラリと周りにいる職人さん達を見ると、一様に当然とばかりにうなずいていた。
「あっ!そうそう!二人とも!婚約おめでとう!」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます。ユリウスさん」
「気合い入れて装束作るから!楽しみにしててね!」
「よろしくお願いします」
ユリウスさんは自分の事のように俺たちの婚約を喜んでくれる。
俺たちは幸せ者だな。
「さあさ!そうと決まれば早速採寸しようか!」
「お待ちなさい!」
バターン!
と、およそこの邸の中では聞いたことのない音をたてて扉が開かれ、巻き尺を手にしたユリウスさんは驚いて振り向いた。
俺とティナも、何事かと扉の方を見る。
「ティナの装束は私が決めます!!」
両手で観音開きの扉を押し開いたのは、
「お母様!?」
ティナの母さん。イリーネおばさんだ。
それこそ五年ぶりに顔を見た。変わらないなぁ……。
「や、やあイリーネ。元気そうだね、、、どうしたのさ、血相変えて」
「お久しぶりね、ユリウス。聞いてくださる?」
イリーネおばさんの笑顔が笑ってない。
これ、あれだ、昔さんざん怒られたときに見てた顔だ。本能的に恐い。
チラリとベッド脇に立つティナを見上げると、背筋をビシリと伸ばして、顔を強張らせていた。
うん。わかる。
「うん?なんだい」
「ベルったら、私になんの相談もなくティナの婚約を決めたんですのよ。もちろん、反対なんてしませんわ、相手は他ならぬヴィルですもの」
ありがとうイリーネおばさん。
でも、恐いです。
「あまりにも私抜きで話を進めてしまわれたものだから、せめて娘の装束に口を出そうと思いましたの」
「そ、そう。私は全然構わないよ」
「そう言ってくださると思ってましたわ」
そうは言うものの、公爵位の装束はだいたい型が決まってるし………、口出すこともないと思うけど、まあ、とにかく何でもいいから口出したかったんだろうな。
「さあ!気をとりなおして採寸しようか!」
ぱんぱんっ、とユリウスさんがそう言って手を叩くと、ティナはイリーネおばさんと職人さん達と衝立の向こうへ。
俺の周りにもユリウスさんをはじめとした職人さんたちが集合した。
圧巻。
うん、おとなしく採寸されよう。
「さあヴィル君採寸するよ!」
「あ、ユリウスさん、ご存知かと思いますが俺、この有り様なんで、左腕はなるべく動かさないで下さい、トビアス先生に怒られるんで」
一応、父さんから聞いてるだろうけど、俺は右手で左手をぶらぶらさせながらそう言っておいた。
すると、さっきまでニコニコしてたユリウスさんの表情が一変した。
「うん。バルトから聞いてるよ、大変だったね………」
そっと、俺の肩を撫でてくれるユリウスさんは、今にも泣きそうな表情になってしまった。
そんな顔をさせたかった訳じゃないのに………。
「ごめん、ユリウスさん。そんな顔しないでください、これは俺の油断が招いたことだから……」
「私のほうこそ、ごめんね?ヴィル君に気をつかわせて……。さ、気をとりなおして採寸しよう。ヴィル君はそのままにしててくれればいいからね」
巻き尺を手にしたユリウスさん達の言われるがまま、俺はベッドに横になり、あちらこちらを測られていく。
ぶっちゃけ恥ずかしい、俺はまな板の上の魚かなんかか?
「おつかれさま。ヴィル君、終わったよ」
巻き尺を手にしたユリウスさんと、側でメモを取る職人さんを大人しく眺めてたら、あっと言う間に終わってしまった。
「さあっ!あとはデザインを選んでよ!バルトから、ヴィル君の好きにしていいって言われてるからさ!遠慮しないで!」
ユリウスさんの手を借りて、再び上体を起こした俺の前に広げられたのは四枚のデザイン画。
すげえ、これ一晩で仕上げて来たのかよ。
「とは言っても、さすがに筆頭公爵家の盛装ともなるとあんまりいじくり回すわけにもいかなくってさ。あ、こっちの二枚が婚約式用で、こっちの二枚が婚姻式用ね」
四択が二択に狭まった。ありがたい。
さーて、どっちにしようかなー。
とか思いながらデザイン画を眺めていると、衝立の向こうからティナとイリーネおばさんの声が聞こえてきた。
「お母様、それはちょっと……」
「何を言うのです。一生に一度の装束なのですよ、貴女はまだ若いのだから、このくらい攻めたデザインの方がいいのです」
攻めたデザインてどんなんですか。
イリーネおばさんイキイキしてんなー。
おっと、俺も選ばないと。
「………」
じっと、真面目にデザイン画を眺める。
…………ちょっとこっちは派手すぎかなー。
「ユリウスさん。婚約式はこっち、婚姻式はこっちでお願いします」
「あ、やっぱそっち?相変わらずだねーヴィル君。若いんだからこのくらい派手でも全然いいと思うけど」
「いや………、それはちょっと……」
いくら見た目は若くても、精神年齢はオッサンなんで、リボンタイは我慢しますからフリルだけは勘弁してください。
「地味好きなとこ、ホントにバルトにそっくりだよね」
「そ、そうですか?」
「うん、親子だよね」
なんか照れるな。
確かに父さんもシンプルなコーディネートが好きだけど。
「父さん?」
「ああ、そうだな。準備を急がなくてはな」
「お父様?」
俺たちの困惑をよそに、父さんたちはどんどん話を進めていく。
「ヴィル。ティナちゃん。早速二ヶ月後には婚約式と婚姻式をしよう」
「「ええっ!?」」
そんなに早く準備ができるのかという心配と、急すぎることへの驚きで、そんな反応しかできない俺とティナ。
当然だろうその反応に、父さんたちは困った様に表情を変えた。
「急かすようでごめんね?でも、アルベルト殿下の気が変わらない内に既成事実を作っておきたいんだ」
「なに、心配はいらん。ヒルシュ家とコール家の総力を挙げれば二ヶ月など造作もない」
それは心配ないとは思うけど………。
既成事実って…………。
でも、確かに、婚約式のみならず婚姻式まで終えてしまえば、俺とティナは正式な夫婦になり、そう簡単には割って入ることは出来なくなる。
父さんたちは、あのときみたいに俺たちの間を切り裂かれないようにと考えてるんだろう。
あれだけ大勢の前でティナを振っておいてまた言い寄ってくるとは思えないが、できるだけ早く確かな契約を結んでおきたい気持ちは分かる。
「そて、そうと決まれは俺はイリーネを説得しなくてはな……」
ベルおじさんが、そう言って重いため息を吐いた。
「では私は、婚姻腕輪や装束の支度に取りかかるとしようか。ヴィクトール、以前作った婚約腕輪を、私に預けてくれるかい?」
「はい、父さん。俺の寝室の文机の一番上の引き出しに入っています」
「わかった。ありがとう。ああ、安心してね、少し手直しをしてもらうだけだし、カイに依頼するから」
「カイさんに………」
本来、婚約腕輪も、婚姻腕輪も相手を迎え入れる側の家の当主が用意するもの。
だが、最初の婚約のとき、俺はどうしても自分で用意したくて、勝手にカイさんに依頼しに行ってあの腕輪を作った。
当時は父さんは
『私の役目が取られてしまったね』などと言って笑ってくれたが、こと婚姻ともなれば話は別だ。
家同士の一大事なため、婚姻腕輪には家格や身分に見合った意匠が求められると聞いたことがある。
それをたった二ヶ月で仕上げろと言われた時のカイさんの顔が目に浮かぶ。
ごめん。カイさん。心の中で謝っとく。
「カイさんによろしくお伝え下さい。父さん」
「うん。カイもきっと喜んで引き受けてくれるよ」
その日から、俺とティナを含めコール家、ヒルシュ家の全員が二ヶ月後に向けて慌ただしく動き出した。
「ヴィクトール様、ティアナ様。仕立て屋が参っておりますが、こちらにお通ししてよろしいでしょうか」
翌朝、相変わらず上半身を起こすのもやっとの俺は、部屋着のままベットの上で手伝って貰いながら朝食を終えたところだった。
もともとの利き腕が左だったから不便なんてもんじゃない。
片手しか満足に動かせないってヤバいな。
おっと、そうだ来客だった。
傷口が安定するまでの二週間、ティナの家に世話になることになった俺に、ベルおじさんが付けてくれた執事見習いのクリフ。
突然俺なんかに付けられて大変だろうけど、すごい良くしてくれる。将来有望。
「仕立て屋?用件は」
「はい。婚約式の御装束と、婚姻式の御装束の採寸とのことです」
「そうか…」
父さん仕事早ッ!?
昨日の今日でもう仕立て屋呼んだの!?
本気だ…………。父さん本気だよ………。
内心俺は焦ったが、動揺は包み隠した。
「クリフ。通してくれて構わない」
ポーカーフェイスは基本技能だからね。
「かしこまりました」
クリフが下がったのを見送ると、ティナが上着を肩に掛けてくれた。
寒くはないけど、さすがに部屋着丸出しはまずいと思ったんだろう。ありがたい。
「ありがとう、ティナ」
「どういたしまして、ヴィル」
ほどなくして、再び扉が叩かれた。
クリフが仕立て屋を連れてきてくれたんだろう。
「どうぞ」
「失礼致します」
「やあ!久しぶりだねっ!ヴィル君!ティナちゃん!」
クリフが扉を開けて半歩下がると、そんな明るい声と共に見知った顔が入ってきた。
「ユリウスさんじゃないですか」
「お久しぶりですわ。ユリウスさん」
彼はユリウス。
今の王都の流行を作り出していると言っても過言ではない、服飾工房の工房主であり凄腕の装衣師だ。
父さんの古くからの知りあいの一人で、あの食堂の常連でもある。
「いやー、二人とも大きくなっちゃって!私が歳をとるはずだね!」
はははは。と、笑うユリウスさんは昔とちっとも変わらない。いわゆる年齢不詳というやつだ。
貴族の御婦人方からの人気も納得の美形っぷり。もちろん、ユリウスさんの腕前が人気なんだけどね。
「ユリウスさん。忙しいのにすみません」
「ははっ!いいの!いいの!他ならぬヴィル君とティナちゃんの婚約式と婚姻式だからね!他の仕事はぜーんぶ後回しにしてきたよ!」
全然後回しって………、いいんだろうか………王都一と言ってもいい装衣師を……。
何だか申し訳なくてチラリと周りにいる職人さん達を見ると、一様に当然とばかりにうなずいていた。
「あっ!そうそう!二人とも!婚約おめでとう!」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます。ユリウスさん」
「気合い入れて装束作るから!楽しみにしててね!」
「よろしくお願いします」
ユリウスさんは自分の事のように俺たちの婚約を喜んでくれる。
俺たちは幸せ者だな。
「さあさ!そうと決まれば早速採寸しようか!」
「お待ちなさい!」
バターン!
と、およそこの邸の中では聞いたことのない音をたてて扉が開かれ、巻き尺を手にしたユリウスさんは驚いて振り向いた。
俺とティナも、何事かと扉の方を見る。
「ティナの装束は私が決めます!!」
両手で観音開きの扉を押し開いたのは、
「お母様!?」
ティナの母さん。イリーネおばさんだ。
それこそ五年ぶりに顔を見た。変わらないなぁ……。
「や、やあイリーネ。元気そうだね、、、どうしたのさ、血相変えて」
「お久しぶりね、ユリウス。聞いてくださる?」
イリーネおばさんの笑顔が笑ってない。
これ、あれだ、昔さんざん怒られたときに見てた顔だ。本能的に恐い。
チラリとベッド脇に立つティナを見上げると、背筋をビシリと伸ばして、顔を強張らせていた。
うん。わかる。
「うん?なんだい」
「ベルったら、私になんの相談もなくティナの婚約を決めたんですのよ。もちろん、反対なんてしませんわ、相手は他ならぬヴィルですもの」
ありがとうイリーネおばさん。
でも、恐いです。
「あまりにも私抜きで話を進めてしまわれたものだから、せめて娘の装束に口を出そうと思いましたの」
「そ、そう。私は全然構わないよ」
「そう言ってくださると思ってましたわ」
そうは言うものの、公爵位の装束はだいたい型が決まってるし………、口出すこともないと思うけど、まあ、とにかく何でもいいから口出したかったんだろうな。
「さあ!気をとりなおして採寸しようか!」
ぱんぱんっ、とユリウスさんがそう言って手を叩くと、ティナはイリーネおばさんと職人さん達と衝立の向こうへ。
俺の周りにもユリウスさんをはじめとした職人さんたちが集合した。
圧巻。
うん、おとなしく採寸されよう。
「さあヴィル君採寸するよ!」
「あ、ユリウスさん、ご存知かと思いますが俺、この有り様なんで、左腕はなるべく動かさないで下さい、トビアス先生に怒られるんで」
一応、父さんから聞いてるだろうけど、俺は右手で左手をぶらぶらさせながらそう言っておいた。
すると、さっきまでニコニコしてたユリウスさんの表情が一変した。
「うん。バルトから聞いてるよ、大変だったね………」
そっと、俺の肩を撫でてくれるユリウスさんは、今にも泣きそうな表情になってしまった。
そんな顔をさせたかった訳じゃないのに………。
「ごめん、ユリウスさん。そんな顔しないでください、これは俺の油断が招いたことだから……」
「私のほうこそ、ごめんね?ヴィル君に気をつかわせて……。さ、気をとりなおして採寸しよう。ヴィル君はそのままにしててくれればいいからね」
巻き尺を手にしたユリウスさん達の言われるがまま、俺はベッドに横になり、あちらこちらを測られていく。
ぶっちゃけ恥ずかしい、俺はまな板の上の魚かなんかか?
「おつかれさま。ヴィル君、終わったよ」
巻き尺を手にしたユリウスさんと、側でメモを取る職人さんを大人しく眺めてたら、あっと言う間に終わってしまった。
「さあっ!あとはデザインを選んでよ!バルトから、ヴィル君の好きにしていいって言われてるからさ!遠慮しないで!」
ユリウスさんの手を借りて、再び上体を起こした俺の前に広げられたのは四枚のデザイン画。
すげえ、これ一晩で仕上げて来たのかよ。
「とは言っても、さすがに筆頭公爵家の盛装ともなるとあんまりいじくり回すわけにもいかなくってさ。あ、こっちの二枚が婚約式用で、こっちの二枚が婚姻式用ね」
四択が二択に狭まった。ありがたい。
さーて、どっちにしようかなー。
とか思いながらデザイン画を眺めていると、衝立の向こうからティナとイリーネおばさんの声が聞こえてきた。
「お母様、それはちょっと……」
「何を言うのです。一生に一度の装束なのですよ、貴女はまだ若いのだから、このくらい攻めたデザインの方がいいのです」
攻めたデザインてどんなんですか。
イリーネおばさんイキイキしてんなー。
おっと、俺も選ばないと。
「………」
じっと、真面目にデザイン画を眺める。
…………ちょっとこっちは派手すぎかなー。
「ユリウスさん。婚約式はこっち、婚姻式はこっちでお願いします」
「あ、やっぱそっち?相変わらずだねーヴィル君。若いんだからこのくらい派手でも全然いいと思うけど」
「いや………、それはちょっと……」
いくら見た目は若くても、精神年齢はオッサンなんで、リボンタイは我慢しますからフリルだけは勘弁してください。
「地味好きなとこ、ホントにバルトにそっくりだよね」
「そ、そうですか?」
「うん、親子だよね」
なんか照れるな。
確かに父さんもシンプルなコーディネートが好きだけど。
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