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前編
一応自己紹介から入ったほうがいいのかな(父親視点)
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少し………。
いや、かなり長い話しになるが、私の話をしよう。
私は、バルトルト。
バルトルト・アードリゲ・ヘルツォーク・ヴァイゼ・レーンスヘル・コール。
親しい人からは、バルトと呼ばれることが多いかな。
私はこの国に仕える四大公爵家筆頭、コール家の次男として生まれ、学院を卒業する歳までなに不自由なく過ごし、兄が優秀で、家を継ぐ必要がないのをいいことに、学院を卒業後は幼馴染だった同じ公爵位の家のベルと共に狩人として各地を飛び回っていた。
今でも狩人だった頃のクセで、頭に血がのぼるととんでもない口調が飛びだす。
まあ、それは置いといて。
何年か自由にさせて貰ってて、五年目にはさすがに嫡男だったベルは実家に帰り、九年目になろうかってくらいに、とある場所で出会った女性と恋に落ち、彼女との間に子どもができたことが分かった。
彼女の周囲からは強く反対されたが、なんとか彼女との結婚を許してもらい、これも反対されたけど、半ば無理矢理に彼女を故郷から連れ出して、彼女と、生まれた子と一緒に、十年ぶりに実家に帰った。
「今、何て言ったんだ……?父さん……」
しかし、実家に帰った私を待っていたのは、残酷すぎる現実だった。
邸の門をくぐった私に、父は、
「エルンストが、死んだ」
と、兄が、私の留守中に急死した事を告げた。
悲しかった?
そうだね。
でも、筆頭公爵家の嫡男が亡くなったという事実が、私に悲しむ暇など与えてはくれなかった。
私は、妻と、生まれたばかりの子と、一日一度も顔を合わせないこともあるくらい多忙になり、次男だからと自由にしすぎていた事を思い知らされた。
我がコール家は、四大公爵の筆頭であり、代々宰相と司書長官を務める名門だ。
コール家を継ぐということは、この国の建国以来続く歴史を背負い、国の中枢を担うという重圧に耐えなければならないということだ。
そのためその頃の私は、狩人あがりの口調の矯正や、記憶の彼方に飛んでいた貴族としての振る舞いやマナーやしきたり等の基礎的なことから勉強しなおし、兄の代わりに家を継ぐことで頭がいっぱいだった。
「若様!!ナディア様が!!」
そう、妻の変化にも、気づけなかったくらいに。
「ナディア!!」
妻が臥せる側には、三歳になった息子が居た。
「ナディア………!ヴィクトール………!」
恥ずかしい話しだが、そのとき、とても久しぶりに妻子とまともに顔を合わせた。
本当に。
私は夫として、父親として最低な男だった。
「あなた…………」
「とうさん………」
寝台に駆け寄った私を見上げてくる妻。
妻は………ナディアは信じられないくらい急激に老いてしまっていて、まるで彼女だけ何十年もの月日を一瞬で駆け抜けてしまったかのようだった。
やせ細り、起き上がることもできなくなった彼女は、それでも私の手をそっと握ってくれた。
「ナディア………、やはり君をあそこから出すべきじゃなかったのか………?すまない………私のせいだ………」
「何を言うの………?私が貴方に……付いて行きたいと………願ったのじゃない………」
「ナディア………」
妻は、我々人族の技術では手の施しようがなく、数ヵ月の後、眠るように息をひきとった。
彼女は最期まで、私の側を離れたくないと、故郷に帰る事を拒んだ。
私は最期まで、彼女を連れ出したことを後悔した。
しかし、
「バルト…………、ありがとう。私………幸せだったわ…………、だって…………外の世界に……出れたんだもの………」
そう、最期に彼女が遺してくれた一言で、私は救われた気がした。
葬儀は、彼女の故郷の風習に従い、簡素に行った。
亡骸は、冷たい墓石の下ではなく、我が領地内に樹木を植え、その下に。
本当は亡骸だけでも故郷に帰してあげたかったが、彼女の意向で領地内に眠って貰った。
「とうさん、だいじょうぶだよ。おれがいるから」
彼女を埋葬し、しばらく呆然とその場に立ち尽くしていた私の手をしっかりと握ったのは、当時まだ三歳の息子だった。
「ヴィクトール………」
その、小さな小さな手がすこししっかりとしてきた頃。父が亡くなり、母も後を追うように亡くなり、爵位の相続やら諸々こなし、私はようやく公爵位に落ちついた。
いや、かなり長い話しになるが、私の話をしよう。
私は、バルトルト。
バルトルト・アードリゲ・ヘルツォーク・ヴァイゼ・レーンスヘル・コール。
親しい人からは、バルトと呼ばれることが多いかな。
私はこの国に仕える四大公爵家筆頭、コール家の次男として生まれ、学院を卒業する歳までなに不自由なく過ごし、兄が優秀で、家を継ぐ必要がないのをいいことに、学院を卒業後は幼馴染だった同じ公爵位の家のベルと共に狩人として各地を飛び回っていた。
今でも狩人だった頃のクセで、頭に血がのぼるととんでもない口調が飛びだす。
まあ、それは置いといて。
何年か自由にさせて貰ってて、五年目にはさすがに嫡男だったベルは実家に帰り、九年目になろうかってくらいに、とある場所で出会った女性と恋に落ち、彼女との間に子どもができたことが分かった。
彼女の周囲からは強く反対されたが、なんとか彼女との結婚を許してもらい、これも反対されたけど、半ば無理矢理に彼女を故郷から連れ出して、彼女と、生まれた子と一緒に、十年ぶりに実家に帰った。
「今、何て言ったんだ……?父さん……」
しかし、実家に帰った私を待っていたのは、残酷すぎる現実だった。
邸の門をくぐった私に、父は、
「エルンストが、死んだ」
と、兄が、私の留守中に急死した事を告げた。
悲しかった?
そうだね。
でも、筆頭公爵家の嫡男が亡くなったという事実が、私に悲しむ暇など与えてはくれなかった。
私は、妻と、生まれたばかりの子と、一日一度も顔を合わせないこともあるくらい多忙になり、次男だからと自由にしすぎていた事を思い知らされた。
我がコール家は、四大公爵の筆頭であり、代々宰相と司書長官を務める名門だ。
コール家を継ぐということは、この国の建国以来続く歴史を背負い、国の中枢を担うという重圧に耐えなければならないということだ。
そのためその頃の私は、狩人あがりの口調の矯正や、記憶の彼方に飛んでいた貴族としての振る舞いやマナーやしきたり等の基礎的なことから勉強しなおし、兄の代わりに家を継ぐことで頭がいっぱいだった。
「若様!!ナディア様が!!」
そう、妻の変化にも、気づけなかったくらいに。
「ナディア!!」
妻が臥せる側には、三歳になった息子が居た。
「ナディア………!ヴィクトール………!」
恥ずかしい話しだが、そのとき、とても久しぶりに妻子とまともに顔を合わせた。
本当に。
私は夫として、父親として最低な男だった。
「あなた…………」
「とうさん………」
寝台に駆け寄った私を見上げてくる妻。
妻は………ナディアは信じられないくらい急激に老いてしまっていて、まるで彼女だけ何十年もの月日を一瞬で駆け抜けてしまったかのようだった。
やせ細り、起き上がることもできなくなった彼女は、それでも私の手をそっと握ってくれた。
「ナディア………、やはり君をあそこから出すべきじゃなかったのか………?すまない………私のせいだ………」
「何を言うの………?私が貴方に……付いて行きたいと………願ったのじゃない………」
「ナディア………」
妻は、我々人族の技術では手の施しようがなく、数ヵ月の後、眠るように息をひきとった。
彼女は最期まで、私の側を離れたくないと、故郷に帰る事を拒んだ。
私は最期まで、彼女を連れ出したことを後悔した。
しかし、
「バルト…………、ありがとう。私………幸せだったわ…………、だって…………外の世界に……出れたんだもの………」
そう、最期に彼女が遺してくれた一言で、私は救われた気がした。
葬儀は、彼女の故郷の風習に従い、簡素に行った。
亡骸は、冷たい墓石の下ではなく、我が領地内に樹木を植え、その下に。
本当は亡骸だけでも故郷に帰してあげたかったが、彼女の意向で領地内に眠って貰った。
「とうさん、だいじょうぶだよ。おれがいるから」
彼女を埋葬し、しばらく呆然とその場に立ち尽くしていた私の手をしっかりと握ったのは、当時まだ三歳の息子だった。
「ヴィクトール………」
その、小さな小さな手がすこししっかりとしてきた頃。父が亡くなり、母も後を追うように亡くなり、爵位の相続やら諸々こなし、私はようやく公爵位に落ちついた。
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