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第一章: 天文部

第9話: 秘め続けた想い

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 高校生になって京都から上京してきた私は一人暮らしを始めてようやく一年が経った。始めて高校に来たときは友達が出来るか不安でコミュニケーションが苦手な私には到底難しいだろうなとまで思っていた。高校に行く道すら分からない始末。
道を聞くにも人見知りの私には聞くに聞けない。道路でただ立っていると一人の少年とぶつかってしまう。

「ごめんなさい…。」
「いやこちらこそ…ごめん。」

 ふと彼を見ると彼は同じ学校の制服を着ていた。安心した私は勇気を出してこの好機を活かすため道を訪ねようとしたがなかなか言い出しづらい。そんなときだった。

「なんか…困ってる?」
「え…えっと…はい。学校までの道…忘れちゃって…。」
「マジか…いいよ。案内する。」

 自然な流れで私が言い出せるように聞いてくれたような気がしてちょっと嬉しかった。それから学校までは特に話はするわけでもなく、連れて行ってもらったが私にとっては優しい彼に好意を抱いていたのだ。俗に言うひと目惚れってやつなのかもしれない。しかし彼は別のクラスで私と話すことは、くっきり無くなった。


 そして高校二年の春。クラス替えで再び彼と会うことになり、名前も知らなかった私の初めて好きになった人と同じクラスになったのだ。クラスの座席表をそっと見て名前を知る。『柊凛音』。それが彼の名前だ。
 でも話しかけるには少し難しくて、何より彼には同じクラスの女子である神崎さんとよく一緒に居るから。神崎さんのウワサは私も知っていたが、それが心配なわけじゃない。彼の彼女ではないかと思うと寂しくて辛かったからだ。
 そんな私は一人暮らしということを教えてからクラスでは溝口さんと同じグループに所属するようになった。彼女は気さくでクラスを引っ張っていくリーダー格のような存在。大人しく人付き合いが苦手な私とは全く真逆の性格だったのです。彼女とは遊ぶことも増えていき、私の家に来ることも多くなっていった。
 最初はそうだったというべきでしょうか。彼女は先生から信頼を得るべく入った委員会である図書委員会の仕事を私に手伝ってと頼んできたのです。快く最初は手伝っていたのですが日に日に彼女は来なくなりました。私はある日、溝口さんにこのことを言及しようとしたのです。すると彼女は。

「莉奈さ。莉奈がわたしらと遊んでるとき代わりにコイツが図書委員会やっててくれたんだよね。友達だったらわたしのこと助けてくれるよね?断るなら友達やめるってことだかんね。」

 最初から溝口さんは自分の周りの友達に仕事を押し付けて自分は遊びに行っていたのです。それはおろか私もそれを知らないで彼女と遊んでいた時点で同罪だと思いました。だから私は黙って仕事をこなすことにしたのです。
 仕事をしていくなかで私は話す機会の無かった柊くんと会話をする時間が一日生まれました。部活勧誘の準備をしている彼が天文部であることも知れて私にとっては溝口さんからの押し付けられた仕事も嫌なこともこの時間があれば我慢できたのです。その翌日もまさか会えるとは思っていなかった彼に会えて神崎さんと付き合っていないことも聞くことができた私は密かに期待を寄せていたのです。
 そしてその後、図書委員を終えた私の元に溝口さんから連絡が来ました。友達を呼んで遊びたいから私の家に呼んで良いかという話でした。私は家賃を払うためにバイトをしていて、その日はたまたまバイトが入っていたため都合がつかないからごめんねと返しました。その返事に溝口さんが機嫌を悪くしたのも分かっていました。その日は何もなく終わったのですが、その翌日から彼女の嫌がらせは本格的に始まったのです。



 最初は些細なものでした。彼女が先生から頼まれた仕事を私がやったりなどの雑用。でもそれは図書委員と同じでいじめではないと私も必死に心に気持ちを押さえ込んで耐えました。信じたくなかったから。どんなときも笑顔だけは絶やしてはいけない。そう自分に言い聞かせて笑い続けました。でもそれは笑ってないと自分がやっていけなかったから…紫ノ宮莉奈という人格を保てなかったから。
 それが日に日に暴力的なものへと変わっていきました。どんなときも笑顔を絶やさなかった私が気に入らなかったのだと周りの生徒の陰口で知ったときは複雑でした。そんなあるとき私は溝口さんに呼び出されトイレに行きました。

「莉奈さ…お前が雑用やらされてるのはお前が下だからなんだよ。」
「うん…そうだね…私は頭も良くないし…運動も苦手だから…。」
「お前そうやってヘラヘラ笑いやがって何が面白いんだよ!」

 その日は制服を着ているため外部からは見えない腹部を殴られたり、蹴られたりなどの暴行を繰り返し受けました。ただそれで終わったわけではなく、その後の体育では腹部に肘打ちされたりと追い打ちをかけられるような暴力を受けました。
 その日はお腹が痛く、頼まれていた図書委員の仕事に行きませんでした。正確にはそれだけではありません。彼にこのことが知れるのが嫌でした。私が前日に『明日もここに来る?』と聞いてしまった以上図書館に来てくれるかもしれない。そのときにこの腹痛を持ったまま彼と話すのはいじめがバレそうで怖かった。


 その翌日は私は溝口さんに下駄箱に呼び出されました。要件は分かっていました。昨日に委員会をサボったことです。暴行が怖かった私に対して溝口さんはお金を渡すように要求してきました。お金を渡せばいじめないでくれると言ったので私は一万円を渡しました。でもそれでいじめが無くなるわけではなく、さっそく上履きを隠されたり朝から無駄に疲れてしまいました。
 その後もトイレに入るときにバケツの水を上からかけられたりしたのです。こんな惨めな思いをするくらいなら死にたいと思いました。
 最悪なのはそれからです。図書館で誰もいなかったため我慢していた涙が自然にこぼれ落ちていきます。涙を必死に堪えてワイシャツの袖で涙を拭います。そのときタイミング悪く私のもとに彼が来てしまったのです。泣いていたことを必死に誤魔化さないとと必死に思い付く言葉を並べていきます。嫌われないように取り繕わないと。必死に誤魔化そうとしました…でも彼は私を見捨てる訳じゃなく心配してくれました。何でもないの一点張りの私を…。
 泣いてるところをこれ以上見られたくなかったのでその場から私は逃げました。自分がこれほど嫌いになったことは無かったのです。正直その場に居るのが限界でした。なんでそんなに優しいの…。
 いじめられっ子の私に自然に接してくれる。些細なことですが私にとっては嬉しいことだったのです。彼の前にいたらきっと今度は嬉しくて涙が止まらなくなってしまう。でもここでそんなことしたら彼に迷惑がかかってしまう。いじめになんて関わらないほうがいいに決まってるんだから…彼の日常まで崩したらいけない。
 その日の夜、自分の家に帰った私は自己嫌悪で自分を責めます。いっそ死のうと思い、ナイフを手に取り手首に傷をつけます。付いた傷からは薄っすらと血が滲み出てきます。逃げてしまったことにより彼は私に対していい感情は持たないでしょう。そう思うと好きな人に嫌われ、これから生きていてもずっといじめに合う。それが堪らなく嫌でした。でもいざ死のうとすると…彼の優しい声が思い出されます。戻れるなら…謝りたい。こんな私でも許してくれるかな?
 

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