FLY HIGH

真山マロウ

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飛翔

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 人の賑わいもなかなかで、放っておくと踏まれそうだったのだけれど、昆虫が苦手な私は手で掴んだりもできなくて。

 知恵を絞り、葉っぱの上に乗せて移動させようと近辺を探って、目当てのものをゲットして戻った頃には、
「あっ……」
 時すでに遅し。青虫の半分は無残に潰れていた。

 ぴくりとも動かない緑色。せめてお花の近くにと葉っぱに乗せ、それごと菜の花の根元におく。

(天寿だったんだ。助けられてたとしても、鳥に食べられたかもだし……)

 しばらくは押しよせる無力感に言い訳をして過ごしたものの、いつしか忘却のかなた。こんな薄情者に、律儀に恩返しなんて。

 ありえない事態なのに信じられるのは、シロのことを浮世離れした青年で片づけるよりもしっくりきたし、なによりこの目で見ているはねがあればこそ。

「ごめん、本当にごめん、ちゃんと助けられなくて」
「ちっとも。助けようとしてくれただけで。ぼく、すごく幸せな気持ちになったんだよ。それで、どうしても悠乃に恩返ししたいって願ったら、神様がチャンスをくれたんだ」
「えっ、神様っているの?」
「いるよ。だから悠乃に会いにこれたよ」

 それほどまでにシロの思いが純粋で、ひたむきだったのだろう。

「ぼく、一緒にいられないし、なにもできないけど、ずっと悠乃の味方だからね」

 シロが透けていく。重なる手の感覚も。

「ばいばい、悠乃。ありがとう。大好きだよ」

 光の粒子に包まれるのがあまりに美しく、悲しさよりも見とれてしまう。

「ほら、ぼく、やっと飛べる」

 本来の姿になったシロが、吸いこまれるようにして景色にとけた。

 空が青く、遠い――。





 夕暮れの風に撫ぜられ我に返る。まるで長い夢からさめたみたいに。

 シロはもう、いない。

 いや、もとからいなかったのかもしれない。その証拠に私しかシロを知らないし、人ひとり消えてしまったのに誰も気づいていない。

(幻だったのかな、私がつくりだした)

 考えたって答えはでないし、なんにしろ、とてつもなく大切なものをもらったことには変わりない。

 しゃんと背筋がのびる。胸の奥が、じんわり熱い。

『うまくいかないかもしれないけど、それでもやろう。休み休みになってもいいから、諦めずに』

 さなぎ未満な私だって、いつか飛びたてるんだと夢みて。
 大きな目標だけじゃなく、まずは身近なことから。学業、生活、アルバイト、そして……。

 お花を買って帰ろう。シロと同じに小さくて白い、健気な、愛おしい花を。



               〈おしまい〉
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