16 / 16
飛翔
4
しおりを挟む
人の賑わいもなかなかで、放っておくと踏まれそうだったのだけれど、昆虫が苦手な私は手で掴んだりもできなくて。
知恵を絞り、葉っぱの上に乗せて移動させようと近辺を探って、目当てのものをゲットして戻った頃には、
「あっ……」
時すでに遅し。青虫の半分は無残に潰れていた。
ぴくりとも動かない緑色。せめてお花の近くにと葉っぱに乗せ、それごと菜の花の根元におく。
(天寿だったんだ。助けられてたとしても、鳥に食べられたかもだし……)
しばらくは押しよせる無力感に言い訳をして過ごしたものの、いつしか忘却のかなた。こんな薄情者に、律儀に恩返しなんて。
ありえない事態なのに信じられるのは、シロのことを浮世離れした青年で片づけるよりもしっくりきたし、なによりこの目で見ている翅があればこそ。
「ごめん、本当にごめん、ちゃんと助けられなくて」
「ちっとも。助けようとしてくれただけで。ぼく、すごく幸せな気持ちになったんだよ。それで、どうしても悠乃に恩返ししたいって願ったら、神様がチャンスをくれたんだ」
「えっ、神様っているの?」
「いるよ。だから悠乃に会いにこれたよ」
それほどまでにシロの思いが純粋で、ひたむきだったのだろう。
「ぼく、一緒にいられないし、なにもできないけど、ずっと悠乃の味方だからね」
シロが透けていく。重なる手の感覚も。
「ばいばい、悠乃。ありがとう。大好きだよ」
光の粒子に包まれるのがあまりに美しく、悲しさよりも見とれてしまう。
「ほら、ぼく、やっと飛べる」
本来の姿になったシロが、吸いこまれるようにして景色にとけた。
空が青く、遠い――。
夕暮れの風に撫ぜられ我に返る。まるで長い夢からさめたみたいに。
シロはもう、いない。
いや、もとからいなかったのかもしれない。その証拠に私しかシロを知らないし、人ひとり消えてしまったのに誰も気づいていない。
(幻だったのかな、私がつくりだした)
考えたって答えはでないし、なんにしろ、とてつもなく大切なものをもらったことには変わりない。
しゃんと背筋がのびる。胸の奥が、じんわり熱い。
『うまくいかないかもしれないけど、それでもやろう。休み休みになってもいいから、諦めずに』
さなぎ未満な私だって、いつか飛びたてるんだと夢みて。
大きな目標だけじゃなく、まずは身近なことから。学業、生活、アルバイト、そして……。
お花を買って帰ろう。シロと同じに小さくて白い、健気な、愛おしい花を。
〈おしまい〉
知恵を絞り、葉っぱの上に乗せて移動させようと近辺を探って、目当てのものをゲットして戻った頃には、
「あっ……」
時すでに遅し。青虫の半分は無残に潰れていた。
ぴくりとも動かない緑色。せめてお花の近くにと葉っぱに乗せ、それごと菜の花の根元におく。
(天寿だったんだ。助けられてたとしても、鳥に食べられたかもだし……)
しばらくは押しよせる無力感に言い訳をして過ごしたものの、いつしか忘却のかなた。こんな薄情者に、律儀に恩返しなんて。
ありえない事態なのに信じられるのは、シロのことを浮世離れした青年で片づけるよりもしっくりきたし、なによりこの目で見ている翅があればこそ。
「ごめん、本当にごめん、ちゃんと助けられなくて」
「ちっとも。助けようとしてくれただけで。ぼく、すごく幸せな気持ちになったんだよ。それで、どうしても悠乃に恩返ししたいって願ったら、神様がチャンスをくれたんだ」
「えっ、神様っているの?」
「いるよ。だから悠乃に会いにこれたよ」
それほどまでにシロの思いが純粋で、ひたむきだったのだろう。
「ぼく、一緒にいられないし、なにもできないけど、ずっと悠乃の味方だからね」
シロが透けていく。重なる手の感覚も。
「ばいばい、悠乃。ありがとう。大好きだよ」
光の粒子に包まれるのがあまりに美しく、悲しさよりも見とれてしまう。
「ほら、ぼく、やっと飛べる」
本来の姿になったシロが、吸いこまれるようにして景色にとけた。
空が青く、遠い――。
夕暮れの風に撫ぜられ我に返る。まるで長い夢からさめたみたいに。
シロはもう、いない。
いや、もとからいなかったのかもしれない。その証拠に私しかシロを知らないし、人ひとり消えてしまったのに誰も気づいていない。
(幻だったのかな、私がつくりだした)
考えたって答えはでないし、なんにしろ、とてつもなく大切なものをもらったことには変わりない。
しゃんと背筋がのびる。胸の奥が、じんわり熱い。
『うまくいかないかもしれないけど、それでもやろう。休み休みになってもいいから、諦めずに』
さなぎ未満な私だって、いつか飛びたてるんだと夢みて。
大きな目標だけじゃなく、まずは身近なことから。学業、生活、アルバイト、そして……。
お花を買って帰ろう。シロと同じに小さくて白い、健気な、愛おしい花を。
〈おしまい〉
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
希望が丘駅前商店街 in 『居酒屋とうてつ』とその周辺の人々
饕餮
ライト文芸
ここは東京郊外松平市にある商店街。
国会議員の重光幸太郎先生の地元である。
そんな商店街にある、『居酒屋とうてつ』やその周辺で繰り広げられる、一話完結型の面白おかしな商店街住人たちのひとこまです。
★このお話は、鏡野ゆう様のお話
『政治家の嫁は秘書様』https://www.alphapolis.co.jp/novel/210140744/354151981
に出てくる重光先生の地元の商店街のお話です。当然の事ながら、鏡野ゆう様には許可をいただいております。他の住人に関してもそれぞれ許可をいただいてから書いています。
★他にコラボしている作品
・『桃と料理人』http://ncode.syosetu.com/n9554cb/
・『青いヤツと特別国家公務員 - 希望が丘駅前商店街 -』http://ncode.syosetu.com/n5361cb/
・『希望が丘駅前商店街~透明人間の憂鬱~』https://www.alphapolis.co.jp/novel/265100205/427152271
・『希望が丘駅前商店街 ―姉さん。篠宮酒店は、今日も平常運転です。―』https://www.alphapolis.co.jp/novel/172101828/491152376
・『日々是好日、希望が丘駅前商店街-神神飯店エソ、オソオセヨ(にいらっしゃいませ)』https://www.alphapolis.co.jp/novel/177101198/505152232
・『希望が丘駅前商店街~看板娘は招き猫?喫茶トムトム元気に開店中~』https://ncode.syosetu.com/n7423cb/
・『Blue Mallowへようこそ~希望が丘駅前商店街』https://ncode.syosetu.com/n2519cc/
推理の果てに咲く恋
葉羽
ミステリー
高校2年生の神藤葉羽が、日々の退屈な学校生活の中で唯一の楽しみである推理小説に没頭する様子を描く。ある日、彼の鋭い観察眼が、学校内で起こった些細な出来事に異変を感じ取る。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
~巻き込まれ少女は妖怪と暮らす~【天命のまにまに。】
東雲ゆゆいち
ライト文芸
選ばれた七名の一人であるヒロインは、異空間にある偽物の神社で妖怪退治をする事になった。
パートナーとなった狛狐と共に、封印を守る為に戦闘を繰り広げ、敵を仲間にしてゆく。
非日常系日常ラブコメディー。
※両想いまでの道のり長めですがハッピーエンドで終わりますのでご安心ください。
※割りとダークなシリアス要素有り!
※ちょっぴり性的な描写がありますのでご注意ください。
猫と幼なじみ
鏡野ゆう
ライト文芸
まこっちゃんこと真琴と、家族と猫、そして幼なじみの修ちゃんとの日常。
ここに登場する幼なじみの修ちゃんは『帝国海軍の猫大佐』に登場する藤原三佐で、こちらのお話は三佐の若いころのお話となります。藤原三佐は『俺の彼女は中の人』『貴方と二人で臨む海』にもゲストとして登場しています。
※小説家になろうでも公開中※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる