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勝手知ったる
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一方のチームロラン側では、隠し通路からおりてきたチヨとライゴが、とり囲んでいた兵士らを、それぞれ一気に三四人ほどブッ飛ばしたところでした。
「おお、チヨではないか!」
りんご腹の大臣が兵を制します。
五年前、彼もチヨの虜になったひとり。まわりの兵らとともに、少女から大人の女性に変貌をとげた彼女へ熱い視線を送ります。
が、そこにロラン王子の頓狂な叫び。
「なにその格好! チヨちゃん、下どうしたの!」
「ああ、これかい。狭くて動きづらかったからね、しゃらくさくて脱いじまったよ」
隠し通路の序盤で袴を脱ぎすてたチヨが、ほどよい肉づきの脚線美を惜しげもなく披露します。上衣は太腿あたりまで長さがありますが、ちょっとでも前屈みになれば丸出し必至です。
「じゃあ真後ろにいたライゴは、ずっとチヨちゃんのお尻見えてたってことじゃん!」
「暗かったからそうでもない。見えたとしても身内の尻なぞ、おもしろくもなんともないが」
すまし顔のライゴが、回収していた袴をチヨに投げ渡します。
兵士らが「羨ましすぎる」「身内でもアリだろ」「あいつマジか」「なに布きれ返してんだよ」などとくちぐちに言うなか、りんご野郎が舌なめずり。
「あらためてどうだチヨ、わたしの妾にならぬか。さすればお前だけは……いや、その身内とやらも助けよう。悪い話ではあるまい。うんと贅沢させてやるし、かわいがってやるぞ」
三下男に好色豚野郎よばわりされるだけあって、テンプレのような下衆っぷりです。
「笑えない冗談さね。忠義も尽くせないのに囲われるなんざまっぴらだよ」
「俺もこんなのに世話になるのはごめんだ」
大胆不敵に笑んだチヨが、足元に転がる兵士から剣をとります。ライゴもすらりと刀を抜きました。
かわいさあまって憎さ百倍、りんご大臣は頭頂から湯気でもださんばかりに憤ります。
「ぐぬぬ、優しくしてやればつけあがりおって! 後悔しても知らんからな! おいボサッとするな、早くこいつらを捕らえろ!」
胴間声に兵たちが構えます。ライゴとチヨが、丸腰のロラン王子をかばうように前に出ました。数のうえでは劣勢でも、負けてやる気はさらさらありません。
どちらが先にしかけるか、高まる緊迫感。ところが、とつとしてギャッと悲鳴が聞こえたかと思うと、後方より次々と兵が倒れていくではありませんか。
人垣が割れ、見えてきた顔ぶれにロラン王子が度肝をぬかれます。
「アルマン、モモちゃ……うひえぇ? 兄上!」
「ロラン、無事か」
敵がロラン王子らへ気をとられているうちに、レオン王太子は王と王妃を救出していました。かたっぱしから兵がのされるのは、アルマンと武人の青年によるものです。
これを好機、ライゴとチヨも参戦して形勢逆転。
と、両陛下とモモを結界術で守っていた魔術師が鼻をくんと鳴らし天井を見あげました。
「あ、コルトだ。なにしてんの?」
「うげっ!」
いざというときの隠し玉として辛抱強く身をひそめていたのに、ばらされてしまっては台なしです。
観念して天井裏からおりてきたコルトに、ロラン王子がヒソヒソ。
「知りあい?」
「……兄弟子です」
術を維持したまま寄ってきた兄弟子は切りそろえられた前髪の下、大きな目をギョロギョロさせてコルトを覗きこみます。
「元気そうだね。なんでここにいるの?」
「ええと、ロラン様のお供で」
「へえ、知らなかった。いつから? 旅も一緒にしてた?」
「すみません、今ちょっと忙しいんで」
「そんな冷たいこと言うとコルトの秘密ばらしちゃうぞ」
あからさま邪険にするコルトと、つきまとう兄弟子。そこに「なにそれ聞かせて!」とロラン王子が参加しわちゃわちゃですが、その間にも周囲の決着はほとんどつき、大臣たちと数人ぽっちの兵が残るだけとなりました。
「もういいだろう。諦めて投降しろ」
レオン王太子が剣をむけると、長鼻の大臣が頬をひくつかせて抵抗します。
「そうはいきませんよ、こちらにもまだ奥の手がありますからね。先生、先生ェ!」
声をはりあげ呼びつけると、どこからともなく生ぬるい風が漂い、瞬きするまもなく杖を持つ人物が出現しました。
漆黒のローブを頭からすっぽり。同色のつるりとした仮面で素顔を隠しているので性別も年齢もわかりません。背丈も百六十センチほど。大人にも子どもにも、はたまた女性にも男性にも見えます。
「よろしくお願いしますよ、高いお金を払ってるんですから」
長鼻がいじましく念押しするあいま、ロラン王子がコルトにたずねます。
「あの人も知りあい?」
「面識はありませんが、どんな連中かは知っています」
報酬次第では非道なことも辞さない魔術師集団がいる、というのは業界内で有名な話でした。
一般的な魔術師と真反対、挑発するように黒いローブをまとった彼らは実力者ばかり。邪魔だてした者は、ことごとく始末されたとの報告も多数です。
先ほどコルトや兄弟子が感知した不穏な気配は、この魔術師の魔力でした。外法や禁忌も用いているため禍々しく異質で、ケタはずれに強力。なので臨戦態勢のコルトと違い兄弟子は、はなから兜をぬぎます。
「とんでもないのが来ちゃった。もうお手あげだね。コルトも降参しなよ」
「嫌です。魔術を悪用する者は、誰だろうと許せません」
「そんなこと言ったって、俺たちが束になっても敵わないよ」
「やってみなきゃわからないじゃないですか。兄弟弟子のうちで一番優秀なんですから、そんな情けないこと言わないでください」
「って言われてもなぁ。コルトも今日なんでか魔力足りてないみたいだし」
「問題ありません。アレをつかいます」
懐から青い小瓶。なかの液体をひと思いに飲みほしコルトが姿勢を戻すと、すでに人相が変化していました。
眉の増量は一割程度ですが、眼は光線でも放ちそうな迫力。その場にいた大半が、声にこそだしませんでしたが「うわ、きっついなぁ……」と思うほどです。
「その薬キライじゃなかったっけ?」
「非常事態です。眉毛なんて気にしてられません」
「てゆうか、眼力のがエグイよ」
無邪気に笑った兄弟子が「弟弟子を見捨てるわけにもいかないか」と杖を構えます。王たちを守りながらの戦いは完全不利ですが、レオン王子に信頼されるだけあってその心意気には立派なところがあります。
主君たちを逃がすためにも、ともかく相手の動きを封じようと先制攻撃。コルトと兄弟子が力をあわせて術を発動すると、黒い魔術師は四肢をひきつらせました。
確実な手応えに、王子サイドに希望の光。
が、それもつかのま、黒い魔術師の手から離れた杖は倒れることなく空中で回転し、コルトと兄弟子は息をのむ暇もなく石化。彼らのほどこした術も無効となってしまいました。
「ああっ、コルトたちが!」
「……まいったね。こんな芸当ができんのは、ハクレンくらいのもんだと思ってたよ」
「なにそれ、めちゃめちゃヤバいじゃん!」
大概のことはハナにもひっかけないチヨが苦い表情。深刻さにロラン王子は総毛だちます。
ほかに助けもない、絶体絶命の大ピンチ。
それでもモモだけは守りたいと、ロラン王子は彼女のそばに駆けよりました。
と前後して、自由の身となった黒い魔術師が宙に浮かんでいた杖を掴み、大きくふりかざしました。
天をひき裂くような轟音。地が割れんばかりの衝撃。悲鳴と断末魔。
すべてが、まばゆいばかりの白光に包まれました。
「おお、チヨではないか!」
りんご腹の大臣が兵を制します。
五年前、彼もチヨの虜になったひとり。まわりの兵らとともに、少女から大人の女性に変貌をとげた彼女へ熱い視線を送ります。
が、そこにロラン王子の頓狂な叫び。
「なにその格好! チヨちゃん、下どうしたの!」
「ああ、これかい。狭くて動きづらかったからね、しゃらくさくて脱いじまったよ」
隠し通路の序盤で袴を脱ぎすてたチヨが、ほどよい肉づきの脚線美を惜しげもなく披露します。上衣は太腿あたりまで長さがありますが、ちょっとでも前屈みになれば丸出し必至です。
「じゃあ真後ろにいたライゴは、ずっとチヨちゃんのお尻見えてたってことじゃん!」
「暗かったからそうでもない。見えたとしても身内の尻なぞ、おもしろくもなんともないが」
すまし顔のライゴが、回収していた袴をチヨに投げ渡します。
兵士らが「羨ましすぎる」「身内でもアリだろ」「あいつマジか」「なに布きれ返してんだよ」などとくちぐちに言うなか、りんご野郎が舌なめずり。
「あらためてどうだチヨ、わたしの妾にならぬか。さすればお前だけは……いや、その身内とやらも助けよう。悪い話ではあるまい。うんと贅沢させてやるし、かわいがってやるぞ」
三下男に好色豚野郎よばわりされるだけあって、テンプレのような下衆っぷりです。
「笑えない冗談さね。忠義も尽くせないのに囲われるなんざまっぴらだよ」
「俺もこんなのに世話になるのはごめんだ」
大胆不敵に笑んだチヨが、足元に転がる兵士から剣をとります。ライゴもすらりと刀を抜きました。
かわいさあまって憎さ百倍、りんご大臣は頭頂から湯気でもださんばかりに憤ります。
「ぐぬぬ、優しくしてやればつけあがりおって! 後悔しても知らんからな! おいボサッとするな、早くこいつらを捕らえろ!」
胴間声に兵たちが構えます。ライゴとチヨが、丸腰のロラン王子をかばうように前に出ました。数のうえでは劣勢でも、負けてやる気はさらさらありません。
どちらが先にしかけるか、高まる緊迫感。ところが、とつとしてギャッと悲鳴が聞こえたかと思うと、後方より次々と兵が倒れていくではありませんか。
人垣が割れ、見えてきた顔ぶれにロラン王子が度肝をぬかれます。
「アルマン、モモちゃ……うひえぇ? 兄上!」
「ロラン、無事か」
敵がロラン王子らへ気をとられているうちに、レオン王太子は王と王妃を救出していました。かたっぱしから兵がのされるのは、アルマンと武人の青年によるものです。
これを好機、ライゴとチヨも参戦して形勢逆転。
と、両陛下とモモを結界術で守っていた魔術師が鼻をくんと鳴らし天井を見あげました。
「あ、コルトだ。なにしてんの?」
「うげっ!」
いざというときの隠し玉として辛抱強く身をひそめていたのに、ばらされてしまっては台なしです。
観念して天井裏からおりてきたコルトに、ロラン王子がヒソヒソ。
「知りあい?」
「……兄弟子です」
術を維持したまま寄ってきた兄弟子は切りそろえられた前髪の下、大きな目をギョロギョロさせてコルトを覗きこみます。
「元気そうだね。なんでここにいるの?」
「ええと、ロラン様のお供で」
「へえ、知らなかった。いつから? 旅も一緒にしてた?」
「すみません、今ちょっと忙しいんで」
「そんな冷たいこと言うとコルトの秘密ばらしちゃうぞ」
あからさま邪険にするコルトと、つきまとう兄弟子。そこに「なにそれ聞かせて!」とロラン王子が参加しわちゃわちゃですが、その間にも周囲の決着はほとんどつき、大臣たちと数人ぽっちの兵が残るだけとなりました。
「もういいだろう。諦めて投降しろ」
レオン王太子が剣をむけると、長鼻の大臣が頬をひくつかせて抵抗します。
「そうはいきませんよ、こちらにもまだ奥の手がありますからね。先生、先生ェ!」
声をはりあげ呼びつけると、どこからともなく生ぬるい風が漂い、瞬きするまもなく杖を持つ人物が出現しました。
漆黒のローブを頭からすっぽり。同色のつるりとした仮面で素顔を隠しているので性別も年齢もわかりません。背丈も百六十センチほど。大人にも子どもにも、はたまた女性にも男性にも見えます。
「よろしくお願いしますよ、高いお金を払ってるんですから」
長鼻がいじましく念押しするあいま、ロラン王子がコルトにたずねます。
「あの人も知りあい?」
「面識はありませんが、どんな連中かは知っています」
報酬次第では非道なことも辞さない魔術師集団がいる、というのは業界内で有名な話でした。
一般的な魔術師と真反対、挑発するように黒いローブをまとった彼らは実力者ばかり。邪魔だてした者は、ことごとく始末されたとの報告も多数です。
先ほどコルトや兄弟子が感知した不穏な気配は、この魔術師の魔力でした。外法や禁忌も用いているため禍々しく異質で、ケタはずれに強力。なので臨戦態勢のコルトと違い兄弟子は、はなから兜をぬぎます。
「とんでもないのが来ちゃった。もうお手あげだね。コルトも降参しなよ」
「嫌です。魔術を悪用する者は、誰だろうと許せません」
「そんなこと言ったって、俺たちが束になっても敵わないよ」
「やってみなきゃわからないじゃないですか。兄弟弟子のうちで一番優秀なんですから、そんな情けないこと言わないでください」
「って言われてもなぁ。コルトも今日なんでか魔力足りてないみたいだし」
「問題ありません。アレをつかいます」
懐から青い小瓶。なかの液体をひと思いに飲みほしコルトが姿勢を戻すと、すでに人相が変化していました。
眉の増量は一割程度ですが、眼は光線でも放ちそうな迫力。その場にいた大半が、声にこそだしませんでしたが「うわ、きっついなぁ……」と思うほどです。
「その薬キライじゃなかったっけ?」
「非常事態です。眉毛なんて気にしてられません」
「てゆうか、眼力のがエグイよ」
無邪気に笑った兄弟子が「弟弟子を見捨てるわけにもいかないか」と杖を構えます。王たちを守りながらの戦いは完全不利ですが、レオン王子に信頼されるだけあってその心意気には立派なところがあります。
主君たちを逃がすためにも、ともかく相手の動きを封じようと先制攻撃。コルトと兄弟子が力をあわせて術を発動すると、黒い魔術師は四肢をひきつらせました。
確実な手応えに、王子サイドに希望の光。
が、それもつかのま、黒い魔術師の手から離れた杖は倒れることなく空中で回転し、コルトと兄弟子は息をのむ暇もなく石化。彼らのほどこした術も無効となってしまいました。
「ああっ、コルトたちが!」
「……まいったね。こんな芸当ができんのは、ハクレンくらいのもんだと思ってたよ」
「なにそれ、めちゃめちゃヤバいじゃん!」
大概のことはハナにもひっかけないチヨが苦い表情。深刻さにロラン王子は総毛だちます。
ほかに助けもない、絶体絶命の大ピンチ。
それでもモモだけは守りたいと、ロラン王子は彼女のそばに駆けよりました。
と前後して、自由の身となった黒い魔術師が宙に浮かんでいた杖を掴み、大きくふりかざしました。
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