婿入り志願の王子さま

真山マロウ

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トラブルメーカー

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 翌日、ロラン王子たちは釈放されるトウヤを迎えに、老婆と城へ赴きました。
「ばあちゃん!」
 彼女を見るなり、トウヤが駆けよります。
 そして、チトセ女王からの贈りものである車椅子に驚喜。自分をかばったロラン王子には、何度もお礼をのべました。
「とにかく無事でよかったよ。さあ、帰ろう。おばあちゃんとトウヤのおうちに」
 ロラン王子がコルトに合図。空間移動で彼らの自宅の庭へ到着します。と、枯れ木の前には思わぬ人物が。
「あれ? ハクレンちゃん?」
「おまえたち、もう帰ってきたよ」
「ちょうどよかった、お礼言いたかったんだ。俺の傷なおしてくれてありがとう。命の恩人だよ」
「あのくらい簡単よ。そういう殊勝な態度なら、また助けてやるよ」
「ほんとに? さっすがハクレンちゃん!」
 和気あいあいとする背後からプレッシャー。嫉妬まみれのコルトの視線に気づいたロラン王子は、いちもにもなく軌道修正をはかります。
「で、どしたの、こんなとこで」
「チトセ様の命令できたよ」
「げっ、まさか釈放とり消しとかじゃないよね。あの女王様、突然とんでもないこと言いだすから」
「……おまえ、チトセ様を誤解してるよ」
 ハクレンによれば、トウヤ処罰のとき腕を斬りおとしたら即治癒できるよう、チトセ女王の命令で密かに待機していたとのこと。
「ライゴさんに刑を執行させたのも、彼の腕前をみこんでですか」
 アルマンの問いに、そういうことよ、と答えるハクレン。
「ここにきたのは、その枯れた桜をどうにかできないか見てこいって言われたからよ」
「なるほど。それでどうです、復活させられそうですか」
「いいや、その必要ないよ」
 ハクレンが杖の先で根本付近をさします。そこには数枚の小さな若葉が。
ひこばえ・・・・よ。この木、新しい命をのこしたよ」
 ロラン王子の顔がぱっと輝きます。
「おばあちゃん、トウヤ、よかったね! 思い出の木、大丈夫だったよ!」
「でも、こんな小さいので花咲くんすか」
「だったら咲くまでは、みくも屋のを見ようよ。おばあちゃん、庭の桜すごく気に入ってたからさ。みんなでお花見すんの。楽しみだな」
 どこまでも楽観的なロラン王子に、アルマンが釘。
「そのころまで俺たちが滞在しているとはかぎりませんが」
「そしたらまたニリオンに来ればいいよ。コルトがいればいつでもすぐだし」
「それこそどうなるか。彼は修行の旅の途中ですから」
「あ、そっか。じゃあハクレンちゃんにお願いしようよ。それで一緒に」
 辛抱の限界、コルトがしゃしゃりでます。
「ハクレン様のお手をわずらわせるわけにはまいりません! たとえいずこにいようとも必ず私がはせ参じます!」
「う、うん、そうしてくれると助かるかな……」
 圧倒されるロラン王子。ですが、頭の中は来年のことに彩られます。
「もちろん、チヨちゃんやモモちゃんも。ライゴはどうしよう。でも、のけ者にするのは趣味じゃないから、声はかけよう」
 ハクレンも口を挟みます。
「ミヤ姫とチトセ様も招待するよ」
「えー、ミヤ姫は大歓迎だけど」
「おまえもっと審美眼を養うよ」
 主役をさしおき話を進めるロラン王子たちに、トウヤが苦笑い。
「すごいことになりそうだな、ばあちゃん」
 言われた老婆はむろん、なにがなにやらですが、
「桜が咲いたねェ……」
 しわに囲まれた目を細めると、くり返しくり返し、そう呟いたのでした。

「本当によかった。ふんふふーん」
 数日後、アルマンに手伝ってもらいながら掃除をこなしていたロラン王子は、鼻歌まじりでご機嫌でした。
「ハクレンさんが若芽の育成をサポートをしてくれるそうですし、安心ですね」
「だね。たまに遊びいってもいい?」
「仕事をサボらないなら、お好きにどうぞ」
「あ、その前にミヤ姫にお礼言いたい。チヨちゃんにお願いしたら会わせてもらえるかな」
「ライゴさんのほうが早いですよ」
「ええー、頼みにくいんだけど」
 と、雑巾ぞうきんがけの手をとめロラン王子が上目づかい。
「チトセ女王にもお礼言うべきかな」
「そのほうが心証いいでしょうね」
「俺、あの人苦手だ。兄上っぽいんだもん」
「ミヤ姫との結婚を本気で考えるなら、そうも言ってられないですよ」
「……だよね。気乗りしないけど」
 ふう、とため息。ふたたび手を動かします。
「手土産なににしようかな」
「必要ないでしょう。形式上あちらは王族で俺たちは平民ですし」
「けど、ミヤ姫にはお世話になったから、なにかプレゼントしたいな。この国の女の子ってどんなもの喜ぶんだろ」
「俺にきかれましても」
「そうだ、様子見がてらあとでモモちゃんにきいてみよう。最近ちょっと元気ないから心配だよ」
 老婆が去って以来モモはどこか寂しげで、それが目下ロラン王子の気がかりでした。
「ミヤ姫はお城ちかくの『もちもち堂』ってお店の、もちもちしたお菓子が好きみたいですよぉ」
 午後、縁側で庭の桜を眺めていたモモにたずねたところ、彼女は思いのほか有益なことを教えてくれました。
「助かるよ、モモちゃんが情報通で」
「ここにいると、みなさんがいろんなこと教えてくれるんですぅ」
 モモがにこにこ笑います。ロラン王子は彼女の笑顔がとても好きでした。見ると、なぜだか優しい気持ちになれるのです。
「いつもありがとね。それと、はいこれ。遅くなったけど、俺の看病と、かわりにおばあちゃんのお世話してくれたお礼。開けてみて」
 ロラン王子が紙包みを渡します。中身は、髪にも服にもつけられる八重桜を模した花飾り。包装やリボンまでも桃色なのは、モモの一番好きな色だと店の子たちに教えてもらったためです。
 きっと喜んでもらえるというお墨つきもあり、ロラン王子もすっかりその気だったのですが、
「……ごめん。あんまり気に入らなかったかな」
 おし黙ってしまったモモに、ロラン王子が眉を曇らせます。
 しかし、やがて彼女はおもむろに顔をあげ、
「とっても嬉しいです。大切にしますね。ありがとうございます……」
 瞳を潤ませほころぶと、ロラン王子の心臓はドキンと激しく跳ねました。
「よ、よかった。それじゃあ俺、コルトの洗濯を手伝ってくるから」
 急いでその場を離れます。
 わけもわからず、こんなにも胸がバクバクするのは、生まれて初めてのこと。ロラン王子は、なんだか恐ろしくなってしまったのでした。
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