婿入り志願の王子さま

真山マロウ

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お仕事生活

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 翌日から使用人となった三名は、掃除をロラン王子、洗濯をコルト、買いだしその他の雑務をアルマンで分担し、めいめい滞りなくこなしていました。
 そうして三日たった朝。例のごとく彼らが、ほかの者たちよりも早い食事をとっていたときのことです。
「で、どうなのコルト」
 慣れない仕事に時間をとられ、いっこう進展しない桜の犯人探しに業を煮やしたロラン王子は魔術での即時解決をもくろみ、おりをみてコルトに打診していました。
「次の日に持ちこさないようにしてはいますが、天気が崩れると厳しいかもしれません」
「……いや、洗濯じゃなくて、犯人探しの話をしてるんだけど」
敷布シーツがくると厄介なんです。手間も場所もとるので」
 聞く耳をもたず呟くコルト。根っからマジメな彼は妥協や手ぬきという言葉を知らず、のべつ全力。そのため、店の女の子らがおもしろがって必要以上に洗濯物をだすので非常にお疲れでした。
「それだと探しあてたのがコルトになってしまいますよ。ロラン様自身が動かないと意味ないでしょう」
 会話をひきとりアルマンが正論。ロラン王子も賛同します。
「たしかに。手柄の横どりになっちゃうから良くないよね。それに、好きな子のためなら労力を惜しまないっていう俺の主義に反するし」
「ロラン様のそういうところ、俺は評価してますよ」
「ありがと。けど、どこから手をつければいいんだろ。目撃者を探すとか?」
「そのあたりはライゴさんがすませてるでしょう」
「それで捕まってないんなら収穫なしだったってことだよね」
 考えをめぐらせるロラン王子。ですが味噌汁に口をつけた瞬間、根こそぎ吹っとんでしまいます。
「わっ、美味しい! 使う味噌を具材によって変えてるんだ。さっすがモモちゃんだね」
 絶賛で箸を進めていると、当人がひょっこり顔をだします。
「また褒めてくれてるなんて、ロランさんいい人ですねぇ」
「あ、モモちゃん。今日も本当に美味しいよ。ありがと」
「モモのほうこそ、みなさんのおかげで助ってますぅ」
 三人が仕事をうけおったことで得意の料理に専念できるようになったモモは、手のこんだものを作ることが増えました。
 リアルに使用人にならなくても書面上そうするだけでよかったのでは、と思っていたロラン王子でしたが、毎度の食事がグレードアップするのなら面倒な掃除もやぶさかではありません。
「よし、お仕事ちゃちゃっとすませて犯人探し頑張るぞ!」
 すっかりやる気のロラン王子に、モモが満面の笑みですり寄ります。
「もしかしたら桜を折った犯人、わかるかもしれませんよぉ。ゆうべ、お客さまから聞いたんですけどぉ……」
 情報を提供しおえ、モモがくりやへ戻っていきます。ロラン王子たちはさっそく作戦会議です。
「明日は天気が崩れるかもしれないから、なるだけ今日のうちに洗濯ものをだしてもらえるようお願いしないと」
 ぶつぶつ呟くコルトは放置することにして、モモに教わった人物のもとへは二人で向かうことに決めます。
「でかけるのは自分の仕事がすんでからにしましょう」
「一日くらい休んでもよくない?」
「毎日ってことで契約をかわしてしまったので。でもロラン様、掃除の才能ありますよ。これまでやらずにいたのが惜しいくらいです」
「ほんと? じゃあミヤ姫と駆け落ちしたあとは掃除屋さんになっちゃおうかな」
 褒められなれないロラン王子がエヒヒと気色悪く笑って調子をこきますが、ことがことだけに簡単には流されません。
「けど、もたもたして犯人に逃げられたくないから、やっぱり今日だけは特別に魔法で片づけちゃおうよ。そのくらいは手伝ってくれるよね?」
 ねだられたコルトはウンともスンとも言わず、俯きかげんでスッと両手をあげます。
 どういう意味の回答だろう、とロラン王子が首をかしげていると、それは勢いよくふりおろされ、耳をつんざくような音で食卓を打ちました。
「そんなことのために私は魔術の勉強をしたんじゃありませんッ!」
 魂の叫びをほとばしらせ、コルトの目が対象を鋭く貫きます。
「ずっと言おうと思ってたんですが、ロラン様は魔法魔法とおっしゃいますけど、私は魔術師であって魔法使いじゃないんです! いや、べつにどっちでもいいっちゃいいんですけども!」
 気をつかう人たちと旅をしているうえ、慣れない場所で暮らすことになり、さらには店の者たちにからかわれつづけ、コルトのストレスは限界でした。
 しかも我慢するだけで解消もかなわず、とうとうひょんなきっかけでブチギレてしまったのです。
「ご、ごめん、次からは気をつけるよ……」
 さわらぬ神にたたりなし。ひき気味で謝ったロラン王子は食事をかっこんで「掃除してくる」と早々に退散。
 残されたアルマンが、激しく上下する肩にポンと手をおきます。
「コルトのほうこそ、一日くらい休んだら? よければ、俺がチヨさんに話つけるけど」
 穏やかな語調でもロラン王子と違って独特のすごみがあるせいか、ほどなくコルトも冷静さをとり戻します。
「……すみません、大丈夫です。自分の力できちんとやりとげます」
「わかった。頑張って」
 予想どおりの答えに頷き、アルマンは食事を再開。
 それから、この不器用な少年の心をやわらげるため、以前に好きだと言っていた猫モチーフのなにかしらを外出ついでに買ってきてやろうと考えたのでした。
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