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運命の出会い
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したくを終えた一行が町へくりだします。
なにかしらミヤ姫に関する行動をおこすのかと思いきや、ロラン王子の目的は別方面。
「とりあえず町を散策しようよ。おすすめグルメとか気になるし」
「まだ食べるんですか。さっき朝食をとったばかりでしょう」
コルトのぶんまでたいらげたロラン王子は、それでも「甘いものと美味しいものは別腹!」と言いはります。
アルマンはあきれ顔ですが、説得よりも譲歩が有利とふんで妥協案を提示しました。
「その前に腹ごなしでもしましょう。聞くところによると今の時期は桜という植物が見頃のようですよ」
「そうなんだ。どれのことだろ」
「庭にあった桃色の花の樹木です。モモさんの話だと、この国には桜の花を観賞する花見という風習があって、城のあたりは名所だそうです」
「だったら、そこいってみようよ」
「そうですね。団子という菓子や弁当などを持参するのが一般らしいので、あとで買っていきましょう。評判の店も教えてもらいましたし」
「さっすが! 俺、アルマンのそういうとこすごい好きだよ」
「奇遇ですね、俺もです」
一歩さがって彼らの会話を聞いていたコルトは、それはただの自己愛じゃないのか、と心の中で呟きます。アルマンと出会って数か月、手放しでうちとけるにはまだ至っておりません。
まず彼らは、昨日行きそびれた城下町の中心へ向かいました。
柔らかそうな雲が適度に日よけをつくり、暑すぎず寒すぎず、出歩くにはもってこいの好天気です。
チヨの店である『みくも屋』の近辺は年代物の建物が多かったのに比べて、中心部は新しいものが目立ちます。
ほとんどが観光用でなく生活に直結した店ですが、それでも建物の様式や行きかう人の様子、売られている品々は母国と異なり、旅人の心をおどらせます。
「ロラン様、買うのはさしあたって必要なものだけにしましょう」
「えー、珍しいものばかりだから全部お土産にしたいよ」
「しばらく滞在するんですから、また来ればいいじゃないですか」
「それはそうだけど……」
店から店、欲しいものを片っぱしから購入しようとするロラン王子の興味を、うまい具合にアルマンがそらします。
「そういえばモモさんに教えてもらった団子の店、たしかここらにあるはずですよ。ついでですから買っていきましょうか」
「もしかして、あの看板のとこかな」
「そのようですね。とても美味しいとのことですが」
「よし、行ってみよう!」
団子を入手した彼らの次の目的地は、桜の名所です。
アルマンが教わったのは城のある丘の中腹、王家の敷地の一部を民衆のために開放している広場でした。
「うちの城も、こういう場所をもうけるべきだよね」
桜色に染まるだらだら坂をのぼり、ロラン王子が感心しきりに頷きます。
「そうはいってもにニリオンとエトワルンでは規模が。人もずっと多いでしょうし、そうなれば警備兵の確保だとか、それにともなう予算だとか……」
「いいよ、言ってみただけ。俺の意見は現実味がないんでしょ、兄上と違って。大臣たちが言ってたの知ってるもん」
エトワルンの重臣たちは、ほとんどがレオン王子を支持していました。
みな口では能力の差をあげつらっていましたが、それ以上の理由は、地位の高低関係なく誰とも等しく接するロラン王子の姿勢にありました。『相当の位にある自分と、どこの馬の骨ともしれない者を同等に扱うなんてとんでもない!』と。
ロラン王子は理由こそとり違えども、自分が好かれていないことをしっかり理解していました。
だからこそ、彼らを見返す意味もあって、たったひとつ、なんでもかまわないのでレオン王子に勝りたかったのです。
「すぐそこにミヤ姫がいるんだよね」
ふわり舞い散る花びらのなか、丘の上を見たロラン王子がこぼします。
「そうですね」
「どうにかして会いたいなぁ」
「公式な訪問ではないので無理ですよ。チヨさんからの報告を待ちましょう」
城は、立派な石垣と塀で囲われていました。
町の城壁と二重に守られているのは、攻めいられることの多かった極小国の歴史が形になった結果です。
とはいえ、そんなこととは知らないロラン王子にしてみれば、頑強なへだたりは自分とミヤ姫を邪魔するだけのもの。
「そうだ、コルトどうにかしてよ」
蚊帳の外だと油断していたコルトは、いきなりそんなことを言われすっ頓狂な声がでました。
「私ですか!」
「魔法で忍びこむとかさ」
「そういうのはちょっと……」
アルマンの眉がひくりと動きます。
「どうせ捕まって処罰をうけるのがオチですよ」
声色からも『余計なことするな』の意思を感じとったロラン王子が早急に、躾という名の制裁を回避します。
「だから、言ってみただけだってば。どう考えても現実味ないじゃん。俺だってそのくらいわかってるよ」
「どうだか」
「あ、ほら、見えてきた。人いっぱいだね」
雑にとりつくろい、我先とロラン王子が広場に入ります。
桜にふちどられた一帯は老若男女がいりまじり、そこここで宴が催されていました。
さながら桃源郷。誰もが楽しそうにすごしていて、見ているだけで胸がはずみます。
「わあ、すごい! 俺たちもどこか座ろうよ」
ロラン王子を筆頭、手頃な場所を探します。
と、三人の足が示しあわせたように止まりました。広場の奥に人だかりができていたのです。
なにかしらミヤ姫に関する行動をおこすのかと思いきや、ロラン王子の目的は別方面。
「とりあえず町を散策しようよ。おすすめグルメとか気になるし」
「まだ食べるんですか。さっき朝食をとったばかりでしょう」
コルトのぶんまでたいらげたロラン王子は、それでも「甘いものと美味しいものは別腹!」と言いはります。
アルマンはあきれ顔ですが、説得よりも譲歩が有利とふんで妥協案を提示しました。
「その前に腹ごなしでもしましょう。聞くところによると今の時期は桜という植物が見頃のようですよ」
「そうなんだ。どれのことだろ」
「庭にあった桃色の花の樹木です。モモさんの話だと、この国には桜の花を観賞する花見という風習があって、城のあたりは名所だそうです」
「だったら、そこいってみようよ」
「そうですね。団子という菓子や弁当などを持参するのが一般らしいので、あとで買っていきましょう。評判の店も教えてもらいましたし」
「さっすが! 俺、アルマンのそういうとこすごい好きだよ」
「奇遇ですね、俺もです」
一歩さがって彼らの会話を聞いていたコルトは、それはただの自己愛じゃないのか、と心の中で呟きます。アルマンと出会って数か月、手放しでうちとけるにはまだ至っておりません。
まず彼らは、昨日行きそびれた城下町の中心へ向かいました。
柔らかそうな雲が適度に日よけをつくり、暑すぎず寒すぎず、出歩くにはもってこいの好天気です。
チヨの店である『みくも屋』の近辺は年代物の建物が多かったのに比べて、中心部は新しいものが目立ちます。
ほとんどが観光用でなく生活に直結した店ですが、それでも建物の様式や行きかう人の様子、売られている品々は母国と異なり、旅人の心をおどらせます。
「ロラン様、買うのはさしあたって必要なものだけにしましょう」
「えー、珍しいものばかりだから全部お土産にしたいよ」
「しばらく滞在するんですから、また来ればいいじゃないですか」
「それはそうだけど……」
店から店、欲しいものを片っぱしから購入しようとするロラン王子の興味を、うまい具合にアルマンがそらします。
「そういえばモモさんに教えてもらった団子の店、たしかここらにあるはずですよ。ついでですから買っていきましょうか」
「もしかして、あの看板のとこかな」
「そのようですね。とても美味しいとのことですが」
「よし、行ってみよう!」
団子を入手した彼らの次の目的地は、桜の名所です。
アルマンが教わったのは城のある丘の中腹、王家の敷地の一部を民衆のために開放している広場でした。
「うちの城も、こういう場所をもうけるべきだよね」
桜色に染まるだらだら坂をのぼり、ロラン王子が感心しきりに頷きます。
「そうはいってもにニリオンとエトワルンでは規模が。人もずっと多いでしょうし、そうなれば警備兵の確保だとか、それにともなう予算だとか……」
「いいよ、言ってみただけ。俺の意見は現実味がないんでしょ、兄上と違って。大臣たちが言ってたの知ってるもん」
エトワルンの重臣たちは、ほとんどがレオン王子を支持していました。
みな口では能力の差をあげつらっていましたが、それ以上の理由は、地位の高低関係なく誰とも等しく接するロラン王子の姿勢にありました。『相当の位にある自分と、どこの馬の骨ともしれない者を同等に扱うなんてとんでもない!』と。
ロラン王子は理由こそとり違えども、自分が好かれていないことをしっかり理解していました。
だからこそ、彼らを見返す意味もあって、たったひとつ、なんでもかまわないのでレオン王子に勝りたかったのです。
「すぐそこにミヤ姫がいるんだよね」
ふわり舞い散る花びらのなか、丘の上を見たロラン王子がこぼします。
「そうですね」
「どうにかして会いたいなぁ」
「公式な訪問ではないので無理ですよ。チヨさんからの報告を待ちましょう」
城は、立派な石垣と塀で囲われていました。
町の城壁と二重に守られているのは、攻めいられることの多かった極小国の歴史が形になった結果です。
とはいえ、そんなこととは知らないロラン王子にしてみれば、頑強なへだたりは自分とミヤ姫を邪魔するだけのもの。
「そうだ、コルトどうにかしてよ」
蚊帳の外だと油断していたコルトは、いきなりそんなことを言われすっ頓狂な声がでました。
「私ですか!」
「魔法で忍びこむとかさ」
「そういうのはちょっと……」
アルマンの眉がひくりと動きます。
「どうせ捕まって処罰をうけるのがオチですよ」
声色からも『余計なことするな』の意思を感じとったロラン王子が早急に、躾という名の制裁を回避します。
「だから、言ってみただけだってば。どう考えても現実味ないじゃん。俺だってそのくらいわかってるよ」
「どうだか」
「あ、ほら、見えてきた。人いっぱいだね」
雑にとりつくろい、我先とロラン王子が広場に入ります。
桜にふちどられた一帯は老若男女がいりまじり、そこここで宴が催されていました。
さながら桃源郷。誰もが楽しそうにすごしていて、見ているだけで胸がはずみます。
「わあ、すごい! 俺たちもどこか座ろうよ」
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