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はじまりはじまり
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「……は?」
思わぬことで正気づいたロラン王子にアルマンが、ミヤ姫についての詳細情報を補足します。
ニリオン国を統治するチトセ女王のたった一人の妹君であること。早くにご両親を亡くしたためチトセ女王はミヤ姫を溺愛し、いかなる理由でも手放さないだろうこと。ましてや遠く離れたエトワルン国へ嫁がせるなぞ天地がひっくり返ってもありえないこと、など。
「じゃあ、もし結婚するなら俺が婿入りしなきゃいけないってことか。国を離れるのに未練はないけど、この離宮は惜しいかな。おばあさまとの思い出もあるし。それにやっぱ小姑付きはなぁ。いろいろ面倒くさそうだよね」
ため息のロラン王子。アルマンが手早く魔術画を回収します。
「では諦めましょう。ほかにも候補者はいます」
「え、嫌だよ。俺の運命的直感どうしてくれんのって話になるじゃん」
「ですがチトセ女王は、自分のもとからミヤ姫を奪う輩が現れようものなら迷わず処刑台おくりにするかもしれません」
「なにその女王様、めちゃめちゃ怖いんだけど」
不満げに腕組みをしたロラン王子。やがて思案顔がぱっと晴れやかになりました。
「そうだ、駆け落ちしちゃえばいいよ! 憧れてたんだよね。ドラマチックじゃん。もちろんアルマンはついてきてくれるよね」
「その前にミヤ姫に好いてもらえないと、ただの誘拐になってしまいますよ」
アルマンの指摘をロラン王子が鼻で笑います。
「心配ないって。だって俺だよ? ゆうても王子だよ? 地位も名誉もお金もあるんだよ? 好かれて嫌がる女の子なんているわけないじゃーん!」
「殿下」
「そりゃ駆け落ちしたら全部なくなるけど、顔だってイケメン言われる部類だし、それに……」
「殿下」
言うが早いか、アルマンの指がロラン王子の腕のつけ根に食いこみます。
「痛い痛いっ、なにすんの!」
「聞いてください、殿下」
「聞くよ! でも、グッてすることないじゃん!」
「そこを押すと肩が楽になるそうですよ」
「なるそうですよ、じゃないよ! こういうの良くないっていつも言ってんでしょ。誰かに見られたらどうすんの。アルマン懲罰もんだよ。俺ってば腐っても王子なんだから」
「大丈夫です。時と場所と相手を選んでますので」
「よけい悪いよ! そもそも、なんでも力業で解決しようとするのアルマンの悪い癖だからね。前に俺が隣国に忍びこもうとした時も……」
面倒な過去をむし返される予感に、アルマンが皿にあった小ぶりな楕円形をロラン王子の口に押しこめました。料理長の最近の新作でダ・コワアズという焼き菓子です。
ロラン王子はむぐぅと唸り目を白黒。そうして、さっくりとしたアーモンド風味の生地と、それに挟まれたクリームの絶妙な調和が口腔内に広がったところでバタンとテーブルにつっぷしました。
「ううう……腹立つのにお菓子が美味しすぎて怒るに怒れない!」
嘆く背中を切れ長の目がとらえます。
「私は結構ですから残り全部どうぞ。殿下、これ気に入っていらっしゃいますよね」
「えっ、いいの? ありがと! そうなんだよ、本当に美味しくてさ。初めて食べたとき俺は震えたね。うちの料理長天才すぎる……じゃなくて!」
「なんですか」
「なんですかじゃないよ、まんまと餌付けされるところだったよ! あのね、俺はね、お菓子でつられるほど安い男じゃないんだからね!」
「いらないなら私が食べますけど」
「いるよ食べるよ!」
お菓子を頬張るロラン王子に、計算づくと言わんばかりアルマンが横目。
「ところで、殿下」
「なに」
「しんどいです」
「なにが」
「ナルシストっぷりです。さすがの慈愛の姫君も看板をおろすレベルかもしれません」
「えっ、俺ってそんなヤバイの!」
「はい、自覚してください。あと、もうひとつ」
「まだあんの!」
「みんながイケメン扱いしてくれるのは殿下に気をつかってです。察しましょう、大人なんですから」
「うっそ、それ一番ショックだよ!」
周囲の言葉をまにうけ自分はイケてるんだと信じて疑わなかっただけに、ここ数年で三本の指に入るダメージです。
「でも、さっき騎士団の人が笑顔で『殿下、今日も男前っすね』って言ってくれたじゃん。あれはなんだったわけ」
「笑顔もいろんな種類があるんです」
「もうムリ、心折れちゃう……!」
涙声で叫んだロラン王子がうなだれ、頭を抱えます。
「じゃあ、俺どうすればいいの」
「まずはミヤ姫と会いましょう」
「どうやって他国の姫君と。公式なのとかセッティングする権限、俺にないし」
「得意のお忍びがあるじゃないですか」
「つっても相手は東の果てじゃん。ここからだと全力の馬車でも数か月かかるじゃん」
と、アルマンの頬が待ってましたと言うかわり、にんまりと持ちあがりました。
「じつは先日、おもしろい人物と知りあいになりまして」
思わぬことで正気づいたロラン王子にアルマンが、ミヤ姫についての詳細情報を補足します。
ニリオン国を統治するチトセ女王のたった一人の妹君であること。早くにご両親を亡くしたためチトセ女王はミヤ姫を溺愛し、いかなる理由でも手放さないだろうこと。ましてや遠く離れたエトワルン国へ嫁がせるなぞ天地がひっくり返ってもありえないこと、など。
「じゃあ、もし結婚するなら俺が婿入りしなきゃいけないってことか。国を離れるのに未練はないけど、この離宮は惜しいかな。おばあさまとの思い出もあるし。それにやっぱ小姑付きはなぁ。いろいろ面倒くさそうだよね」
ため息のロラン王子。アルマンが手早く魔術画を回収します。
「では諦めましょう。ほかにも候補者はいます」
「え、嫌だよ。俺の運命的直感どうしてくれんのって話になるじゃん」
「ですがチトセ女王は、自分のもとからミヤ姫を奪う輩が現れようものなら迷わず処刑台おくりにするかもしれません」
「なにその女王様、めちゃめちゃ怖いんだけど」
不満げに腕組みをしたロラン王子。やがて思案顔がぱっと晴れやかになりました。
「そうだ、駆け落ちしちゃえばいいよ! 憧れてたんだよね。ドラマチックじゃん。もちろんアルマンはついてきてくれるよね」
「その前にミヤ姫に好いてもらえないと、ただの誘拐になってしまいますよ」
アルマンの指摘をロラン王子が鼻で笑います。
「心配ないって。だって俺だよ? ゆうても王子だよ? 地位も名誉もお金もあるんだよ? 好かれて嫌がる女の子なんているわけないじゃーん!」
「殿下」
「そりゃ駆け落ちしたら全部なくなるけど、顔だってイケメン言われる部類だし、それに……」
「殿下」
言うが早いか、アルマンの指がロラン王子の腕のつけ根に食いこみます。
「痛い痛いっ、なにすんの!」
「聞いてください、殿下」
「聞くよ! でも、グッてすることないじゃん!」
「そこを押すと肩が楽になるそうですよ」
「なるそうですよ、じゃないよ! こういうの良くないっていつも言ってんでしょ。誰かに見られたらどうすんの。アルマン懲罰もんだよ。俺ってば腐っても王子なんだから」
「大丈夫です。時と場所と相手を選んでますので」
「よけい悪いよ! そもそも、なんでも力業で解決しようとするのアルマンの悪い癖だからね。前に俺が隣国に忍びこもうとした時も……」
面倒な過去をむし返される予感に、アルマンが皿にあった小ぶりな楕円形をロラン王子の口に押しこめました。料理長の最近の新作でダ・コワアズという焼き菓子です。
ロラン王子はむぐぅと唸り目を白黒。そうして、さっくりとしたアーモンド風味の生地と、それに挟まれたクリームの絶妙な調和が口腔内に広がったところでバタンとテーブルにつっぷしました。
「ううう……腹立つのにお菓子が美味しすぎて怒るに怒れない!」
嘆く背中を切れ長の目がとらえます。
「私は結構ですから残り全部どうぞ。殿下、これ気に入っていらっしゃいますよね」
「えっ、いいの? ありがと! そうなんだよ、本当に美味しくてさ。初めて食べたとき俺は震えたね。うちの料理長天才すぎる……じゃなくて!」
「なんですか」
「なんですかじゃないよ、まんまと餌付けされるところだったよ! あのね、俺はね、お菓子でつられるほど安い男じゃないんだからね!」
「いらないなら私が食べますけど」
「いるよ食べるよ!」
お菓子を頬張るロラン王子に、計算づくと言わんばかりアルマンが横目。
「ところで、殿下」
「なに」
「しんどいです」
「なにが」
「ナルシストっぷりです。さすがの慈愛の姫君も看板をおろすレベルかもしれません」
「えっ、俺ってそんなヤバイの!」
「はい、自覚してください。あと、もうひとつ」
「まだあんの!」
「みんながイケメン扱いしてくれるのは殿下に気をつかってです。察しましょう、大人なんですから」
「うっそ、それ一番ショックだよ!」
周囲の言葉をまにうけ自分はイケてるんだと信じて疑わなかっただけに、ここ数年で三本の指に入るダメージです。
「でも、さっき騎士団の人が笑顔で『殿下、今日も男前っすね』って言ってくれたじゃん。あれはなんだったわけ」
「笑顔もいろんな種類があるんです」
「もうムリ、心折れちゃう……!」
涙声で叫んだロラン王子がうなだれ、頭を抱えます。
「じゃあ、俺どうすればいいの」
「まずはミヤ姫と会いましょう」
「どうやって他国の姫君と。公式なのとかセッティングする権限、俺にないし」
「得意のお忍びがあるじゃないですか」
「つっても相手は東の果てじゃん。ここからだと全力の馬車でも数か月かかるじゃん」
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「じつは先日、おもしろい人物と知りあいになりまして」
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