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10 討伐①
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到着した日はもう夕方になっていたので、村の宿屋に泊まって明日の朝討伐に向かう事になった。
宿屋の主人は熊のような体格で強面だが、気さくな人物だった。
「大魔法使い様が来てくれるなんて光栄です。大魔法使い様が泊まった宿屋として宣伝できますよ」
主人はやたらと俺に話しかけ、冗談を言いながら宿を案内したのだが、俺はどう返答すればいいのか悩むような内容ばかりだ。
助けてくれとニールスの方を見ても助けてくれる様子もなく、不愉快そうな表情を宿屋の主人に向けるだけだった。
「僕の部屋はこの方の隣にしてください」
この言葉が宿屋の主人に対して初めて発せられた言葉だ。
最初に案内された部屋は俺とかなり離れた部屋だった。しかし、建物はあまり大きくないので、距離がある訳でもなんでもない。
「部屋の場所なんてどこでもいいだろ」
「師匠の身になにかあったらと思うと夜も眠れません」
「そんなに言うなら同じ部屋で寝るか?」
「いや、それはちょっと…」
ニールスの本当に嫌そうな顔に少し胸が痛んだ。昔はあんなに一緒に寝たがってたのに。
でもまぁ、思春期の子どもが父親と一緒に寝るなんて嫌なのが普通か。
結局、ニールスとは隣合った部屋を使うことになった。
「ニールス、余力があるなら力のない人の助けになる様にしなさい」
宿屋の主人が立ち去ってからそう諭したが納得できていなそうだ。
未来がどんな風になっていくのかは分からないが、少なくとも元の本ではニールスは皇帝になっていた。民に寄り添えないのではまずい。本の内容も暴君っぽかったから元来の気性もあるのだろうか。
「人には際限がありません。要求するものを差し出していたら、いつか何も無くなってしまう気がするんです」
ニールスの口調に反論という感じはなく、俺も一理あるかなと思った。
「無理にとは言わない。あくまで余力があるなら力を貸すようにした方がいい」
「師匠がそう言うならそうします」
なんか含みのある言い方だな。本当に反抗期か?
ニールスはこんな風に貧しい村を見たのは初めてだろう。いい勉強になると考えていたが、返って国民に対する嫌悪が増してしまったようだ。
「もう部屋に行って寝なさい。明日も早いから」
「はい。いつも通り日が昇る頃に起こしに伺います」
翌朝ー
「魔族が住み着いていると言うのはこの洞窟だな」
見つけた洞窟の中は狭く暗い。俺が中指と親指を軽く擦ると光が出て少しは先が見えるようになった。
「僕が先に行きます」
「いや、危ないだろ」
ニールスを制止して先に洞窟に足を踏み入れると、違和感を覚えた。
「入ってくるな!」
そう叫んだ時には手遅れでニールスも洞窟内に足を踏み入れていた。
明かりも消え、辺りは真っ暗になる。
「どうしたんですか?」
「洞窟内に魔法陣が敷いてある。魔法の発動を封じられた」
ニールスは踵を返して洞窟の外に出ようとしたが、見えない何かに阻まれた。
「どうすれば…」
少し狼狽えたニールスに俺は励ますように声をかけた。
「どうってことない。いい方法がある。短刀を貸してくれ」
ニールスに野営用の短刀を持たせたはずだ。
「何に使うんですか?」
「髪を切ろうと思って。魔法使いは髪にも魔力が巡ってるだろ?魔法が発動できなくても、何か媒介にできる物があれば陣を破れる」
実を言うとこういう時の為に髪を伸ばしてる。そうでなければ邪魔だし、面倒だしさっさと切ってしまっていただろう。
右サイドに結われた髪を掴むみ、切る気満々だったが、中々短刀を渡してくれない。
「早く短刀をだしてくれ」
「嫌です、他にも方法はあるでしょ!」
えぇ、どうしてそんなに拒否するんだ。
「何がそんなに嫌なんだ?」
「師匠の綺麗な髪が好きなのに…」
「すまない、そんなに気に入ってるとは思わなかった。余った分はお前にあげるよ」
「違います!」
暗くて表情は読めないが、ニールスは相当機嫌が悪くなったらしい。
「分かったから、前に進みながら考えよう」
暗い中、闇雲に動くのも得策ではないが、入り口付近で騒いでいても何も解決しない。
「師匠、怒ってますか?」
黙って後ろをついてきていたニールスが突然そんなことを言い出した。
「微塵も怒ってない。どうしてそう思うんだ」
「師匠の役にたててないし、あと、さっきは声を荒げてごめんなさい…」
ニールスの性格は出会った時と比べ、格段に明るくなったが、情緒不安なところも、俺に見捨てられかもしれないという不安を抱えているところも少しも変化が無かった。
もしかして一生こんな感じなのか?と考える若干恐怖を感じるのだが、どうにも突き放すことが出来ない。
「俺は黙って怒ったりしない。何に怒ってるのか伝えて反省してほしい時はそう言う」
長く生きてきて感情的になることが少なくなったが、俺は本当に怒ったら無視したり無言になったりするようなタイプではなかったと思う。
感情的になりにくいだけで冷静ではなく、怒ると本当にガタが外れたかのように思っていることがそのまま口に出るのだ。
「ごめんなさい…アルネ様の側から離れたくない」
「好きなだけ側にいたらいいだろ」
子どもの頃はしょっちゅうしていた会話だが、最近はあまりしなくなっていた。人の気持ちは移り変わるが、根本までは変わらないのかもしれない。
宿屋の主人は熊のような体格で強面だが、気さくな人物だった。
「大魔法使い様が来てくれるなんて光栄です。大魔法使い様が泊まった宿屋として宣伝できますよ」
主人はやたらと俺に話しかけ、冗談を言いながら宿を案内したのだが、俺はどう返答すればいいのか悩むような内容ばかりだ。
助けてくれとニールスの方を見ても助けてくれる様子もなく、不愉快そうな表情を宿屋の主人に向けるだけだった。
「僕の部屋はこの方の隣にしてください」
この言葉が宿屋の主人に対して初めて発せられた言葉だ。
最初に案内された部屋は俺とかなり離れた部屋だった。しかし、建物はあまり大きくないので、距離がある訳でもなんでもない。
「部屋の場所なんてどこでもいいだろ」
「師匠の身になにかあったらと思うと夜も眠れません」
「そんなに言うなら同じ部屋で寝るか?」
「いや、それはちょっと…」
ニールスの本当に嫌そうな顔に少し胸が痛んだ。昔はあんなに一緒に寝たがってたのに。
でもまぁ、思春期の子どもが父親と一緒に寝るなんて嫌なのが普通か。
結局、ニールスとは隣合った部屋を使うことになった。
「ニールス、余力があるなら力のない人の助けになる様にしなさい」
宿屋の主人が立ち去ってからそう諭したが納得できていなそうだ。
未来がどんな風になっていくのかは分からないが、少なくとも元の本ではニールスは皇帝になっていた。民に寄り添えないのではまずい。本の内容も暴君っぽかったから元来の気性もあるのだろうか。
「人には際限がありません。要求するものを差し出していたら、いつか何も無くなってしまう気がするんです」
ニールスの口調に反論という感じはなく、俺も一理あるかなと思った。
「無理にとは言わない。あくまで余力があるなら力を貸すようにした方がいい」
「師匠がそう言うならそうします」
なんか含みのある言い方だな。本当に反抗期か?
ニールスはこんな風に貧しい村を見たのは初めてだろう。いい勉強になると考えていたが、返って国民に対する嫌悪が増してしまったようだ。
「もう部屋に行って寝なさい。明日も早いから」
「はい。いつも通り日が昇る頃に起こしに伺います」
翌朝ー
「魔族が住み着いていると言うのはこの洞窟だな」
見つけた洞窟の中は狭く暗い。俺が中指と親指を軽く擦ると光が出て少しは先が見えるようになった。
「僕が先に行きます」
「いや、危ないだろ」
ニールスを制止して先に洞窟に足を踏み入れると、違和感を覚えた。
「入ってくるな!」
そう叫んだ時には手遅れでニールスも洞窟内に足を踏み入れていた。
明かりも消え、辺りは真っ暗になる。
「どうしたんですか?」
「洞窟内に魔法陣が敷いてある。魔法の発動を封じられた」
ニールスは踵を返して洞窟の外に出ようとしたが、見えない何かに阻まれた。
「どうすれば…」
少し狼狽えたニールスに俺は励ますように声をかけた。
「どうってことない。いい方法がある。短刀を貸してくれ」
ニールスに野営用の短刀を持たせたはずだ。
「何に使うんですか?」
「髪を切ろうと思って。魔法使いは髪にも魔力が巡ってるだろ?魔法が発動できなくても、何か媒介にできる物があれば陣を破れる」
実を言うとこういう時の為に髪を伸ばしてる。そうでなければ邪魔だし、面倒だしさっさと切ってしまっていただろう。
右サイドに結われた髪を掴むみ、切る気満々だったが、中々短刀を渡してくれない。
「早く短刀をだしてくれ」
「嫌です、他にも方法はあるでしょ!」
えぇ、どうしてそんなに拒否するんだ。
「何がそんなに嫌なんだ?」
「師匠の綺麗な髪が好きなのに…」
「すまない、そんなに気に入ってるとは思わなかった。余った分はお前にあげるよ」
「違います!」
暗くて表情は読めないが、ニールスは相当機嫌が悪くなったらしい。
「分かったから、前に進みながら考えよう」
暗い中、闇雲に動くのも得策ではないが、入り口付近で騒いでいても何も解決しない。
「師匠、怒ってますか?」
黙って後ろをついてきていたニールスが突然そんなことを言い出した。
「微塵も怒ってない。どうしてそう思うんだ」
「師匠の役にたててないし、あと、さっきは声を荒げてごめんなさい…」
ニールスの性格は出会った時と比べ、格段に明るくなったが、情緒不安なところも、俺に見捨てられかもしれないという不安を抱えているところも少しも変化が無かった。
もしかして一生こんな感じなのか?と考える若干恐怖を感じるのだが、どうにも突き放すことが出来ない。
「俺は黙って怒ったりしない。何に怒ってるのか伝えて反省してほしい時はそう言う」
長く生きてきて感情的になることが少なくなったが、俺は本当に怒ったら無視したり無言になったりするようなタイプではなかったと思う。
感情的になりにくいだけで冷静ではなく、怒ると本当にガタが外れたかのように思っていることがそのまま口に出るのだ。
「ごめんなさい…アルネ様の側から離れたくない」
「好きなだけ側にいたらいいだろ」
子どもの頃はしょっちゅうしていた会話だが、最近はあまりしなくなっていた。人の気持ちは移り変わるが、根本までは変わらないのかもしれない。
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