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執務室で貯まる一方の遠征懇願書を見ていると、扉が勢いよく開けられ、少し暗かった部屋が一気に明るくなった。
「アルネ師匠、ただいま戻りました!」
入ってきたのはニールスだった。16になったニールスは本当に太陽のようだと思うほど明るく朗らかな青年に成長していた。昔はもっと落ち着きがあったと思うくらいだ。
「お忙しい所失礼いたします。魔獣討伐を完了したので報告に参りました」
後ろから出てきたクラウス兄さんの弟子であるエルフリーデが今回の帝都周辺にあらわれた魔獣の討伐であったことを報告してくれる。どうやらニールス1人で村周辺の魔獣を一掃したらしい。
その報告に密かに溜息をついた。子どもは親がいなくても育つというのは本当らしい。
俺は攻撃魔法は教えたくなかったのにニールスは勝手に学んで勝手に強くなってしまった。
俺自身も魔力量は魔法使いの中で上から5本の指に入るほど多いが、最近のニールスは俺に並ぶほどの魔力量だ。経験の差から戦えば負けることは無いだろうが、俺は既に魔力が成熟している。これは成長の余地がないということだ。比べて、ニールスの魔力は増加し続けている。数年後には戦えば勝てなくなるだろう。
そんな事を考えて、もう原作とは違ってニールスは十分良い子なんだから戦うようなことはないと自分に言い聞かせた。
「エルフリーデ、ご苦労だった。ニールスもよく頑張ったな」
椅子から立ち上がり2人を労うと、ニールスはすかさず頭を下げた。
今のニールスの身長は俺より3寸ほど高い。手を伸ばさなければ頭に届かないのだが、最近では褒められると頭を下げたり、屈んだりするのだ。
仕方なくニールスの頭を撫でると、エルフリーデは咳払いをした。
「私はこれで失礼します」
「あぁ、お疲れ様」
気まずそうにしているエルフリーデを見て申し訳なくなる。俺も辞めたいと思っているのだが、出会った頃からの習慣は変えることができていない。
この間もクラウス兄さんに見られて叱責されたばかりなのだ。
「師匠、何を見ていらっしゃったんですか?」
「遠征懇願書だよ。一つ気になるものがあるから明後日から行ってこようと思う」
ここ6年で新星リーア教の動きは相変わらず激しくなる一方で、エルヴィン兄さんもクラウス兄さんも俺も忙しく過ごしている。
俺は新星リーア教の件には関わっていない代わりに細々とした魔族や魔獣討伐をこなす羽目になっている。
「僕もご一緒します!」
「えー、…分かった。一緒に行こう」
少し迷ったが、ニールスも連れて行くことにした。今回の遠征は帝国の端も端の地方で、随分遠い。転移魔法は距離がひらくほど消費する魔力も大きいため、無闇に使う事ができない。魔力が少ない状態で魔族と遭遇する状態を避けるためだ。
しかし、2人以上で行くなら転移魔法を使っても問題ないだろう。ニールスの魔力で転移魔法を使おうと打算的に考えた。
長い時間歩くのも、馬に乗るのも俺は大嫌いだ。こういう時はニールスが居てくれて本当に良かったと都合よく思ってしまう。まぁ、都合がいいところが好きだと伝えてもニールスは喜んで「もっとお役に立ちます」とかいい出しそうだ。
出発当日、俺は苦戦しながら書斎に魔法陣を書いた。
「南東に230里?」
「234里です」
「さっきクラウス兄さんに呼ばれてただろ。なんて言われたんだ?」
「アルネの事を頼むぞ、と」
「…そう」
これでは師匠としての尊厳なんてあったもんじゃない。弟子に師が面倒をみてもらうなんてどうかしている。
「描けたから魔力を流してくれ」
「はい」
ニールスが魔力を流すと魔法陣は光り輝き、瞬きした間に転移が完了した。
見事に何も無い一本道の途中だ。
「ここが目的地ですか?」
「もう少し先だ。一応関所を通って行こう」
到着した村は想像した以上に寂れていた。村人に事情を説明すると、村人全員が出てきたのではないかと思うほど俺たちの周辺に群がってきた。
「大魔法使い様!どうかお願いします、魔法で食料をだしてください!」
「どうか水を!」
村人たちの鬼気迫る様子にニールスは眉をひそめ、少し屈んで耳打ちをしてくる。
「この村周辺の洞窟に魔族が住み着いているから討伐してこいという話でしたよね?」
村の復興に来た訳ではないよな?という確認だ。
「その話で間違いない。どうやら南方の地域では近年雨が振らないらしいな」
村人が俺に触れそうになった所でニールスは間に入った。
「魔法で食料や水を出すことはできない」
ニールスのどこか冷たい対応にこっちが肝を冷やす。
確かに魔法は実際、無から有を生み出すようなことはほとんど出来ない。これが出来たら貧困も飢餓も存在しない世界だっただろう。
「井戸は無いんですか?」
「何箇所かは枯れてしまって。川も干上がっていますし」
「水は出せませんが、魔法で水源は探せます。あと、山を見かけましたが、禿山になっていますね」
「木を切って売りはらってしまったんです」
「直ぐに植えなおしてください。これからは無闇に木を切らないでください」
軽くアドバイスした後に水源を探す魔法を地面に展開すると、ニールスが止めに入った。
「こんなことをしに来た訳じゃありませんよね。早く魔族を討伐して帰りましょう」
ニールスに制止されたのは初めてかもしれない。普段は俺のすることは全肯定しているのに。
「少しくらいいいだろ」
「でも、アルネ師匠…」
「お前は休んでいて構わない」
「いえ…」
まだ少し嫌そうな顔をしているニールスを見て遂に反抗期なのかと呑気に考えた。
「アルネ師匠、ただいま戻りました!」
入ってきたのはニールスだった。16になったニールスは本当に太陽のようだと思うほど明るく朗らかな青年に成長していた。昔はもっと落ち着きがあったと思うくらいだ。
「お忙しい所失礼いたします。魔獣討伐を完了したので報告に参りました」
後ろから出てきたクラウス兄さんの弟子であるエルフリーデが今回の帝都周辺にあらわれた魔獣の討伐であったことを報告してくれる。どうやらニールス1人で村周辺の魔獣を一掃したらしい。
その報告に密かに溜息をついた。子どもは親がいなくても育つというのは本当らしい。
俺は攻撃魔法は教えたくなかったのにニールスは勝手に学んで勝手に強くなってしまった。
俺自身も魔力量は魔法使いの中で上から5本の指に入るほど多いが、最近のニールスは俺に並ぶほどの魔力量だ。経験の差から戦えば負けることは無いだろうが、俺は既に魔力が成熟している。これは成長の余地がないということだ。比べて、ニールスの魔力は増加し続けている。数年後には戦えば勝てなくなるだろう。
そんな事を考えて、もう原作とは違ってニールスは十分良い子なんだから戦うようなことはないと自分に言い聞かせた。
「エルフリーデ、ご苦労だった。ニールスもよく頑張ったな」
椅子から立ち上がり2人を労うと、ニールスはすかさず頭を下げた。
今のニールスの身長は俺より3寸ほど高い。手を伸ばさなければ頭に届かないのだが、最近では褒められると頭を下げたり、屈んだりするのだ。
仕方なくニールスの頭を撫でると、エルフリーデは咳払いをした。
「私はこれで失礼します」
「あぁ、お疲れ様」
気まずそうにしているエルフリーデを見て申し訳なくなる。俺も辞めたいと思っているのだが、出会った頃からの習慣は変えることができていない。
この間もクラウス兄さんに見られて叱責されたばかりなのだ。
「師匠、何を見ていらっしゃったんですか?」
「遠征懇願書だよ。一つ気になるものがあるから明後日から行ってこようと思う」
ここ6年で新星リーア教の動きは相変わらず激しくなる一方で、エルヴィン兄さんもクラウス兄さんも俺も忙しく過ごしている。
俺は新星リーア教の件には関わっていない代わりに細々とした魔族や魔獣討伐をこなす羽目になっている。
「僕もご一緒します!」
「えー、…分かった。一緒に行こう」
少し迷ったが、ニールスも連れて行くことにした。今回の遠征は帝国の端も端の地方で、随分遠い。転移魔法は距離がひらくほど消費する魔力も大きいため、無闇に使う事ができない。魔力が少ない状態で魔族と遭遇する状態を避けるためだ。
しかし、2人以上で行くなら転移魔法を使っても問題ないだろう。ニールスの魔力で転移魔法を使おうと打算的に考えた。
長い時間歩くのも、馬に乗るのも俺は大嫌いだ。こういう時はニールスが居てくれて本当に良かったと都合よく思ってしまう。まぁ、都合がいいところが好きだと伝えてもニールスは喜んで「もっとお役に立ちます」とかいい出しそうだ。
出発当日、俺は苦戦しながら書斎に魔法陣を書いた。
「南東に230里?」
「234里です」
「さっきクラウス兄さんに呼ばれてただろ。なんて言われたんだ?」
「アルネの事を頼むぞ、と」
「…そう」
これでは師匠としての尊厳なんてあったもんじゃない。弟子に師が面倒をみてもらうなんてどうかしている。
「描けたから魔力を流してくれ」
「はい」
ニールスが魔力を流すと魔法陣は光り輝き、瞬きした間に転移が完了した。
見事に何も無い一本道の途中だ。
「ここが目的地ですか?」
「もう少し先だ。一応関所を通って行こう」
到着した村は想像した以上に寂れていた。村人に事情を説明すると、村人全員が出てきたのではないかと思うほど俺たちの周辺に群がってきた。
「大魔法使い様!どうかお願いします、魔法で食料をだしてください!」
「どうか水を!」
村人たちの鬼気迫る様子にニールスは眉をひそめ、少し屈んで耳打ちをしてくる。
「この村周辺の洞窟に魔族が住み着いているから討伐してこいという話でしたよね?」
村の復興に来た訳ではないよな?という確認だ。
「その話で間違いない。どうやら南方の地域では近年雨が振らないらしいな」
村人が俺に触れそうになった所でニールスは間に入った。
「魔法で食料や水を出すことはできない」
ニールスのどこか冷たい対応にこっちが肝を冷やす。
確かに魔法は実際、無から有を生み出すようなことはほとんど出来ない。これが出来たら貧困も飢餓も存在しない世界だっただろう。
「井戸は無いんですか?」
「何箇所かは枯れてしまって。川も干上がっていますし」
「水は出せませんが、魔法で水源は探せます。あと、山を見かけましたが、禿山になっていますね」
「木を切って売りはらってしまったんです」
「直ぐに植えなおしてください。これからは無闇に木を切らないでください」
軽くアドバイスした後に水源を探す魔法を地面に展開すると、ニールスが止めに入った。
「こんなことをしに来た訳じゃありませんよね。早く魔族を討伐して帰りましょう」
ニールスに制止されたのは初めてかもしれない。普段は俺のすることは全肯定しているのに。
「少しくらいいいだろ」
「でも、アルネ師匠…」
「お前は休んでいて構わない」
「いえ…」
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