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城の中に入ると、中にいた貴族や役人らしき人達がざわめきだした。
「帝国魔法使いのローブだが、どなただ?」
「知らないのか?大魔法使いヨナス様の3番目の弟子だ」
「大魔法使いアルネ様か!?初めて見た!」
「魔塔の外に滅多に出ないみたいだしな。相当な変わり者って噂だぞ」
「若く見えるな」
「魔法使いは魔力が成熟した段階で成長が止まるから若い方が優秀なんだよ」
「では、3人の中で1番目優秀なのか?」
そんな会話を聞いて既に帰りたくなってきた。かなり小声で話しているが、俺は地獄耳なんだよな。
引きこもりも変わり者もほぼ事実だから何とも言い難い。しかし、見た目が若い方が優秀というのは出鱈目だ。魔法使いにも大器晩成な人間はいくらでもいる。
使用人の案内通りに謁見室に入ると、皇帝は既に玉座に腰をかけていた。当代の皇帝は重厚な雰囲気のある人物で、簡素な椅子に腰をかけていても玉座にいるように錯覚するだろう。
現在のエルドラニア帝国は世界の中心と謳われるほどの大帝国である。このくらいの威厳がないとやっていけないのかもしれない。
「帝国の太陽たる陛下にご挨拶申し上げます。」
俺は深々と頭を下げた。
「面を上げよ」
顔を上げたのを確認すると適当に二言、三言の世間話をして皇帝は早速本題に入った。
「実は折り入って頼みがあってな」
「師兄ではなくわざわざ私に頼みとは、何でしょう」
俺は白々しく小首を傾げる。
「単刀直入に言うと、朕の甥は魔法の素質があるようだ。」
「それはそれは…」
魔力を持つ子どもは100人に1人いるかいないかで魔法使いと言えるほどになるのは数千人に1人だ。魔力があるのは目出度いが、魔法使いになれるかどうかは分からない。俺は下手に祝辞を述べるような真似は控えた。
まぁ、主人公だし才能はあるんだろうけど…。
「そこでだ。甥を貴殿の弟子にしてもらえないか」
遂にきたか…。皇帝の頼みともなれば断ることはできないが、一応やんわり拒否はしてみよう。
「私は魔法使いとして未熟です。甥御様を預かる名誉は身に余ります」
「君はヨナス様に1番才能を見込まれていたと聞く。それだけで他の魔法使いとは別格だ。それに貴殿は弟子もいなければ、今のところなんの任務も請け負っていないだろう」
遠回しに「お前暇だろ?」と言われたようで気分が悪い。
他の魔法使いとは別格に関しては何とも否定しづらいことだ。大魔法使いヨナスは800年近く生きて、たった3人しか弟子をとらなかった。それは俺たちに箔をつけ、今もなお尊厳の維持に役立っている。
「ですが…」
「ニールス、こっちに来てアルネ殿に挨拶しなさい」
玉座の裏から出てきた少年は原作から換算すると9歳になる筈だが、痩せていてどう見ても7歳程度に見える。それに明らかに大き過ぎる服のせいで不格好だ。本の中で美しいと描写されていた黒髪は艶がなく、赤い瞳を覆い隠していた。
この子が将来暴君になる主人公か?とてもそうは見えないな。
「…」
ニールスは俯いたままで何も言わない。
「少々人見知りするんだ。この年頃の子どもにはよくある」
皇帝は引きつった笑顔を見せた。
子どもには詳しくないが、人見知りは2、3歳まででこれくらいの子は特に男の子だと活発になるものじゃないのか?
甥だと言ったな…。主人公の出生について読んだのは昔のことだから記憶が曖昧だ。
「この子の母君や父君は?了承してるんですか?」
弟子入りすれば、親元を離れて帝都の端に位置する魔法区で生活する事になる。この帝国では魔法使いは魔法区と呼ばれる特別区域で生活をしている。魔法区と皇城は大した距離はなく、馬車を使えば30分程度だが、魔法区の管理は厳重で一度入ってしまえば子どもが自由に親元へは帰れない。
まだ幼いし両親だって心配するだろう。
「母親は亡くなった。父親は…気にしなくていい」
皇帝の言葉で多少思い出した。皇帝の妹である王女は2年間ほど失踪していたことがある。このあたりは師兄も協力して捜索したのでよく覚えている。王女が帰ってきた時に抱えていたのがニールスだ。皇帝は妹の起こした醜聞に激怒し、妹と子どもを長い事幽閉していた。
つまり、母親が亡くなって俺の所に厄介払いしたいってわけか。
「…分かりました。ニールスは私の弟子にします」
これ以上拒否しても無駄どころかニールスの俺に対する印象が悪くなりかねない。
「そうか。貴殿ならそう言ってくれると信じていたぞ」
皇帝の少し安心した様な顔が心底不愉快だった。
子どもには罪がない。いくらなんでも追い出す必要はないだろ。
「おいで、一緒に行こう」
俺が手を差し出すと意外にも素直に近くに寄ってきておずおずと手を握ってきた。
こうしてると可愛いな。俺は昔から性悪説より性善説を信じてきたので、弟子の接し方を変えれば、きっと優しい子に育つ。殺されずに済むと気楽に考える事にした。
まずは「暴君の誠心」のアルネ・フェリディオンに学ぼう。彼の反省点はなんだ?やっぱり素直じゃない不器用な性格だろう。この性格のせいでニールスは師匠に愛されていないと思い、孤独な幼少期となってしまった。
よし、俺は今日から素直になる。
俺は心の中で固く誓った。出来るだけ素直に思いを伝える。そして、前世の実兄や今生の師兄のように愛情深く接してやろう。
「帝国魔法使いのローブだが、どなただ?」
「知らないのか?大魔法使いヨナス様の3番目の弟子だ」
「大魔法使いアルネ様か!?初めて見た!」
「魔塔の外に滅多に出ないみたいだしな。相当な変わり者って噂だぞ」
「若く見えるな」
「魔法使いは魔力が成熟した段階で成長が止まるから若い方が優秀なんだよ」
「では、3人の中で1番目優秀なのか?」
そんな会話を聞いて既に帰りたくなってきた。かなり小声で話しているが、俺は地獄耳なんだよな。
引きこもりも変わり者もほぼ事実だから何とも言い難い。しかし、見た目が若い方が優秀というのは出鱈目だ。魔法使いにも大器晩成な人間はいくらでもいる。
使用人の案内通りに謁見室に入ると、皇帝は既に玉座に腰をかけていた。当代の皇帝は重厚な雰囲気のある人物で、簡素な椅子に腰をかけていても玉座にいるように錯覚するだろう。
現在のエルドラニア帝国は世界の中心と謳われるほどの大帝国である。このくらいの威厳がないとやっていけないのかもしれない。
「帝国の太陽たる陛下にご挨拶申し上げます。」
俺は深々と頭を下げた。
「面を上げよ」
顔を上げたのを確認すると適当に二言、三言の世間話をして皇帝は早速本題に入った。
「実は折り入って頼みがあってな」
「師兄ではなくわざわざ私に頼みとは、何でしょう」
俺は白々しく小首を傾げる。
「単刀直入に言うと、朕の甥は魔法の素質があるようだ。」
「それはそれは…」
魔力を持つ子どもは100人に1人いるかいないかで魔法使いと言えるほどになるのは数千人に1人だ。魔力があるのは目出度いが、魔法使いになれるかどうかは分からない。俺は下手に祝辞を述べるような真似は控えた。
まぁ、主人公だし才能はあるんだろうけど…。
「そこでだ。甥を貴殿の弟子にしてもらえないか」
遂にきたか…。皇帝の頼みともなれば断ることはできないが、一応やんわり拒否はしてみよう。
「私は魔法使いとして未熟です。甥御様を預かる名誉は身に余ります」
「君はヨナス様に1番才能を見込まれていたと聞く。それだけで他の魔法使いとは別格だ。それに貴殿は弟子もいなければ、今のところなんの任務も請け負っていないだろう」
遠回しに「お前暇だろ?」と言われたようで気分が悪い。
他の魔法使いとは別格に関しては何とも否定しづらいことだ。大魔法使いヨナスは800年近く生きて、たった3人しか弟子をとらなかった。それは俺たちに箔をつけ、今もなお尊厳の維持に役立っている。
「ですが…」
「ニールス、こっちに来てアルネ殿に挨拶しなさい」
玉座の裏から出てきた少年は原作から換算すると9歳になる筈だが、痩せていてどう見ても7歳程度に見える。それに明らかに大き過ぎる服のせいで不格好だ。本の中で美しいと描写されていた黒髪は艶がなく、赤い瞳を覆い隠していた。
この子が将来暴君になる主人公か?とてもそうは見えないな。
「…」
ニールスは俯いたままで何も言わない。
「少々人見知りするんだ。この年頃の子どもにはよくある」
皇帝は引きつった笑顔を見せた。
子どもには詳しくないが、人見知りは2、3歳まででこれくらいの子は特に男の子だと活発になるものじゃないのか?
甥だと言ったな…。主人公の出生について読んだのは昔のことだから記憶が曖昧だ。
「この子の母君や父君は?了承してるんですか?」
弟子入りすれば、親元を離れて帝都の端に位置する魔法区で生活する事になる。この帝国では魔法使いは魔法区と呼ばれる特別区域で生活をしている。魔法区と皇城は大した距離はなく、馬車を使えば30分程度だが、魔法区の管理は厳重で一度入ってしまえば子どもが自由に親元へは帰れない。
まだ幼いし両親だって心配するだろう。
「母親は亡くなった。父親は…気にしなくていい」
皇帝の言葉で多少思い出した。皇帝の妹である王女は2年間ほど失踪していたことがある。このあたりは師兄も協力して捜索したのでよく覚えている。王女が帰ってきた時に抱えていたのがニールスだ。皇帝は妹の起こした醜聞に激怒し、妹と子どもを長い事幽閉していた。
つまり、母親が亡くなって俺の所に厄介払いしたいってわけか。
「…分かりました。ニールスは私の弟子にします」
これ以上拒否しても無駄どころかニールスの俺に対する印象が悪くなりかねない。
「そうか。貴殿ならそう言ってくれると信じていたぞ」
皇帝の少し安心した様な顔が心底不愉快だった。
子どもには罪がない。いくらなんでも追い出す必要はないだろ。
「おいで、一緒に行こう」
俺が手を差し出すと意外にも素直に近くに寄ってきておずおずと手を握ってきた。
こうしてると可愛いな。俺は昔から性悪説より性善説を信じてきたので、弟子の接し方を変えれば、きっと優しい子に育つ。殺されずに済むと気楽に考える事にした。
まずは「暴君の誠心」のアルネ・フェリディオンに学ぼう。彼の反省点はなんだ?やっぱり素直じゃない不器用な性格だろう。この性格のせいでニールスは師匠に愛されていないと思い、孤独な幼少期となってしまった。
よし、俺は今日から素直になる。
俺は心の中で固く誓った。出来るだけ素直に思いを伝える。そして、前世の実兄や今生の師兄のように愛情深く接してやろう。
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