ヒロイン不在の世界で気づいたら攻略対象に執着されていた

春野ゆき

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19 少年の願い

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 魔核を取り出すことは苦しいのか?結論は全く苦しくなかった。腹を切る訳でもなく、心臓をえぐられる訳でもない。身体に魔核が定着していないなら魔法具を用いて容易に取り出せる。魔法具は高価で一般には出回っていない。
 冷たい鉄の台座で横になった時、僕の魔核が適合し、この冷たい台座で絶望と共に眠るのが僕で最後であってほしいと願った。無理ならいっそのこと魔法がない世界にしてくれ。僕の運命ごと世界が滅んだっていい。
 今思えば、願いは叶えられなかった。俺の魔核は適合した。しかし、魔核を取り出される子どもは俺で最後だったか?未だに黒魔術士が子どもの魔核を売っている。体の一部を失い、何も守れなかった。思い出して過去の感情と現在の感情が重なり、空虚感が残された。
 ここからはまるでモヤがかかったかのように曖昧な半年だった。気がつくぼんやりした意識で自室の窓からよく空を見ていた。相変わらず美しい晴天だ。あぁ、僕の感情を反映して、雨でも降ってくれ。掌に魔力を込めるが、なにも起こせない。
 それから半年、待ち望んでいた嵐がやってきて、俺は前世の記憶を取り戻した。前世はこんな風の強い日に事故に巻き込まれて死んだんだ。
 そこからは俺のよく知る「リュカ」としての生活だった。ある日、見知らぬベッドで目覚めるような感覚から始まっている。


 俺が目を開けると木の椅子に座ったまま机に突っ伏して寝ていた。
 周りは随分騒がしく、アリアは俺に構わず店を開けたらしい。酒に酔ったのか俺と同じような体勢の人もいる。これじゃあ、俺も酔っ払いみたいだ。
 料理を運びにきたアリアが起きた俺を見つけて近寄ってくる。

「やっと目覚めたのね、体調はどう?」

 記憶が戻ったせいで最悪だよ。俺は笑顔が引きつった。

「はぁ、自分が犠牲になれば他の人が助かるなんて馬鹿らしいよな」

 前世の記憶が戻る前の「僕」は相当純粋な人間らしい。アリアをいつか頭お花畑と思ったが、ブーメランだ。

「なんだ、やっと気づいたの」
「俺はずっとそう思ってたよ。今気づいたわけじゃない」
「貴方は出会った時から一貫して自己犠牲の塊だったけど。それを優しいとは言わないのよ。リュカは本当に自己中心的」

 アリアの口調はまるで子どもにコンコンと言い聞かせる母親のようだ。

「うん」
「ちゃんと分かってる?誰にでも優しいってことは誰にとっても不誠実なの。大切にしたい人だけ大切にしなさい」
「アリアの言葉、胸に刻んでおくよ」
「ふざけてんの?」

 別に巫山戯たつもりはなかったが、アリアは不機嫌になった。

「その点、ライオネルは誠実なのかもしれないわ」
「あっ、そうだライオネル!どこにいるか知らない?」 
「さぁ、店の前には流石にいないけど。別にそんな慌てなくてもいいじゃない」
「ライオネルに謝らないと」
「勝手にして」

 外に出る前にアリアの方へ振り返った。

「アリア、今日はありがとう。また必ず会いにくるよ」
「もう来ないで」

 そう言ってそっぽ向くアリアを見て、少し気分が晴れた。アリアは口では嫌がっていても、何だかんだ助けてくれる。その事がたまらなく嬉しかった。

 
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