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18 4年前②
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「坊ちゃん、起きてください」
クリフが僕の身体を少し揺する。
「なに…?」
クリフが朝起こしにくるようなことは滅多にない。僕は普段から眠りが浅く、朝日が昇る頃には目が覚めるからだ。
「もうお昼ですよ。午後から王城に行くから降りてこいと旦那様が仰せです」
僕は渋々ベッドから這い起きて、できるだけゆっくりと着替えた。ボタンを留める手が震えている。
邸宅の外の馬車に乗ると、お父様がすでに馬車に座っていた。文句の一つでも言われるかと身構えていたが、僕を一瞥して目線をそらした。
王城にどり着くまでずっと気まずい空気で酔ったのか吐きそうだった。
「陛下に挨拶してくるからここで待っていなさい」
門を入ったところで置いていかれたが、落ち着いて待っていることなんてできなかった。これからどんなことをされるのか、恐怖と不安で鼓動が激しくなって耳鳴りが聴こえる。自分を落ち着かせるために王城の庭園を意味もなく歩きまわった。
その日は気持ちのいい気温によく晴れた空だった。それに加えて城の庭園には美しい花が咲き乱れている。だが、
管理が行き届いていて雑多な雰囲気はない。
こういう時って心情に合わせてどんより重たい雲、とか今にも雨が降り出しそうとかいう天気になるもんじゃないのか…。天は僕のこと何も考えていない。当たり前のことが今日は悲しくてならなかった。
ぐす、うっ…。僕は誰かが泣いていることに気づいた。驚いて自分が泣いているのか?と頬を拭ってみたが、濡れていない。
垣根をかき分けると12、13歳くらいの少年が膝を抱えて泣いていた。
「どうかしたの?」
僕は少年に声をかけた。もしも彼が僕よりも悲惨な状況で泣いていたら自分の心はどんなに慰められるだろうと打算的に考えていた。
「…だれ」
少年はついさっきまで泣いていたのに目線がぶつかった途端に睨んできた。僕は少し腹がたったが、めげずに少年の隣に座った。
「僕はリュカ」
「名前なんか聞いてない」
そっぽを向く少年をみて、そうか。身分を明かせってことかと思いなおす。でも、マリニー家の人間だと知られたら話なんか聞けそうにない。少年は簡素な服をきていたから使用人の子どもかとおもったが、よく見ると上質な布で、赤い髪もよく手入れされている。なんだ、貴族の子息かと落胆する。
「どうして泣いてるの?」
僕は結局、身分を名乗らず、しつこく少年に話しかけ続けた。
「五月蠅い!僕にかまうな!」
少年は涙を無理矢理我慢して叫んだせいか咳き込み始めてしまった。
僕は可哀そうになって背中をさする。
「無理せず泣いたらいいのに、どういて我慢するの」
「…男が泣くなんて恥ずかしいだろ」
声を殺していても涙が止まらないようで大きなエメラルドグリーンの瞳からとめどなくあふれだす。
僕は手のひらに魔力を集めた。一瞬魔法陣が展開して消え、2人が座っている周辺にだけ雨が降り出した。
「これなら泣いてても分からないよ」
少年はポカンとした顔をして空を見上げている。
「これから君が落ち込んでいたら僕が雨を降らせるよ。だからその間は泣いてもいいんじゃない?」
少し雨に濡れた少年の赤い髪をなでた。小雨にしたつもりだったが、少年の髪は雨を吸い込んでしっとりとしている。
「どこにいるんだ!」
そこでお父様の声が聞こえて僕は立ち上がった。その時少年が僕の手首を掴んだ。
「これからずっと?」
その時の少年は泣いてはいかなかった。
「うん、約束だ」
僕はそう言って立ち去った。守れるはずもない約束を残して。
クリフが僕の身体を少し揺する。
「なに…?」
クリフが朝起こしにくるようなことは滅多にない。僕は普段から眠りが浅く、朝日が昇る頃には目が覚めるからだ。
「もうお昼ですよ。午後から王城に行くから降りてこいと旦那様が仰せです」
僕は渋々ベッドから這い起きて、できるだけゆっくりと着替えた。ボタンを留める手が震えている。
邸宅の外の馬車に乗ると、お父様がすでに馬車に座っていた。文句の一つでも言われるかと身構えていたが、僕を一瞥して目線をそらした。
王城にどり着くまでずっと気まずい空気で酔ったのか吐きそうだった。
「陛下に挨拶してくるからここで待っていなさい」
門を入ったところで置いていかれたが、落ち着いて待っていることなんてできなかった。これからどんなことをされるのか、恐怖と不安で鼓動が激しくなって耳鳴りが聴こえる。自分を落ち着かせるために王城の庭園を意味もなく歩きまわった。
その日は気持ちのいい気温によく晴れた空だった。それに加えて城の庭園には美しい花が咲き乱れている。だが、
管理が行き届いていて雑多な雰囲気はない。
こういう時って心情に合わせてどんより重たい雲、とか今にも雨が降り出しそうとかいう天気になるもんじゃないのか…。天は僕のこと何も考えていない。当たり前のことが今日は悲しくてならなかった。
ぐす、うっ…。僕は誰かが泣いていることに気づいた。驚いて自分が泣いているのか?と頬を拭ってみたが、濡れていない。
垣根をかき分けると12、13歳くらいの少年が膝を抱えて泣いていた。
「どうかしたの?」
僕は少年に声をかけた。もしも彼が僕よりも悲惨な状況で泣いていたら自分の心はどんなに慰められるだろうと打算的に考えていた。
「…だれ」
少年はついさっきまで泣いていたのに目線がぶつかった途端に睨んできた。僕は少し腹がたったが、めげずに少年の隣に座った。
「僕はリュカ」
「名前なんか聞いてない」
そっぽを向く少年をみて、そうか。身分を明かせってことかと思いなおす。でも、マリニー家の人間だと知られたら話なんか聞けそうにない。少年は簡素な服をきていたから使用人の子どもかとおもったが、よく見ると上質な布で、赤い髪もよく手入れされている。なんだ、貴族の子息かと落胆する。
「どうして泣いてるの?」
僕は結局、身分を名乗らず、しつこく少年に話しかけ続けた。
「五月蠅い!僕にかまうな!」
少年は涙を無理矢理我慢して叫んだせいか咳き込み始めてしまった。
僕は可哀そうになって背中をさする。
「無理せず泣いたらいいのに、どういて我慢するの」
「…男が泣くなんて恥ずかしいだろ」
声を殺していても涙が止まらないようで大きなエメラルドグリーンの瞳からとめどなくあふれだす。
僕は手のひらに魔力を集めた。一瞬魔法陣が展開して消え、2人が座っている周辺にだけ雨が降り出した。
「これなら泣いてても分からないよ」
少年はポカンとした顔をして空を見上げている。
「これから君が落ち込んでいたら僕が雨を降らせるよ。だからその間は泣いてもいいんじゃない?」
少し雨に濡れた少年の赤い髪をなでた。小雨にしたつもりだったが、少年の髪は雨を吸い込んでしっとりとしている。
「どこにいるんだ!」
そこでお父様の声が聞こえて僕は立ち上がった。その時少年が僕の手首を掴んだ。
「これからずっと?」
その時の少年は泣いてはいかなかった。
「うん、約束だ」
僕はそう言って立ち去った。守れるはずもない約束を残して。
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