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5 大会③
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空一面にドラゴンが吐いた火の息で埋め尽くされている。火の粉の雨が降り注ぎ、木々に火をつけた。呆然とその景色を眺めていると、オリヴィエが腕を掴んだ。
「とりあえず逃げるぞ」
スローモーションかのようにゆっくりと地面から足が離れていく。先輩一人ならもっと軽やかに飛べているはずだ。
「このままだと先輩も逃げ遅れますよ。降ろしてください」
「正気か!?」
そもそもこの恰好で長時間飛行するのは難しそうだ。
「はい。大丈夫ですから」
押し問答をしている暇はないと思ったのかオリヴィエはあっさり手を離した。
「いいか、変なモノを拾うなよ。自分の身の安全を優先しろ」
そう言い残すとさっさと飛んでいった。
俺は高台から降りて自身も火の粉から逃れる為に走り出した。その途中、木の幹に寄りかかり倒れている人がいるのを見つけた。呼吸を確認すると問題はなく、魔力切れで気を失っているだけのようだった。
このままでは焼死体になると思い、脇に手を滑り込ませ立ち上がる。
周りが燃えているのと気絶した青年の身体が重いので汗が止まらない。結局、拾ってしまったなとオリヴィエの忠告の意味が理解できて笑いが込み上げてくる。しかし、損得関係なしに見捨てることはできなかった。見知らぬ人が溺れているのを発見して助けようと飛び込んで双方が死んでしまうようなことは馬鹿らしいと頭では分かっているのに、溺れいる人がいたら結局、飛び込んでしまうのだ。
いきなり陽が遮られたので嫌な予感がして恐る恐る見上げると、真上をドラゴンが飛んでいた。バサリと羽が動き、大きな音をたてている。
気の所為かもしれないが、ドラゴンと目が合った気がした。身体が硬直して動けずにいると、ドラゴンはこちらに急降下し、降りたった。ドラゴンが動きを見せるのと同時にまばゆい光を放ち、目を閉じた。もう一度目を開けると、ドラゴンが魔物を拘束する魔法によって繩でぐるぐる巻になっていた。
暴れているドラゴンの首の付け根辺りに赤髪の青年が剣を突き刺すとドラゴンは大人しくなった。
「ライオネル…」
無表情で顔に飛び散った血を拭っているライオネルに声をかけると、たちまち瞳に涙が溜まりだした。
「リュカ~!心配した!」
ライオネルが勢いよく抱きついてきて、担いでいた人は地面に落としてしまった。
「ごめん、心配かけて…。とりあえず火から逃げないと」
「それなら問題ないよ。多分ユスタフが、」
ライオネルがいいかけたところでバケツをひっくり返したかのような雨が突然降り出した。
「始まったみたいだ。ユスタフの魔法」
晴天に土砂降りの雨が降り注ぐ様子はなんとも美しい。ライオネルの方を見ると濡れることも意に介さず真っ直ぐに空を見上げていた。ぼんやりとその様子を眺めていると、鎮火を終えて雨は止んだ。
「行こうか」
視界に入っていないのかと思っていた気絶している青年をライオネルが背負った。俺が下山中どんなに「変わろう」と言っても聞かず、結局最後までライオネルが背負って下山した。
麓まで行くと参加者が集まっていた。ざわざわと皆口々にドラゴンについて話している。
ライオネルを見つけると、「ライオネル様はドラゴンをご覧になりましたか?」「ユスタフ殿下が倒されたのですか?」と詰め寄った。
「ユスタフ殿下がドラゴンを倒したのでもう大丈夫です」
ライオネルが面倒そうに話すのを聞いて思わず彼の方を2度見した。
お前はそれでいいの!?
「そんな目でみないで?リュカを助けようと思ってやったことに手柄や称賛なんかいらないよ」
そうは言っているが、ライオネルは他人から褒められる苦手なのだ。俺はほんの少しいたずら心が芽生えた。
「ライオネル、助けてくれてありがとう。格好良かった」
ライオネルは慌てて顔を背けたが、耳が赤くなっている。
「あっ、ユスタフ殿下」
そこでユスタフも下山してきたが、どうにも顔色が悪い。
「大丈夫ですか?」
俺が近づくとユスタフが倒れ込んだ。
「とりあえず逃げるぞ」
スローモーションかのようにゆっくりと地面から足が離れていく。先輩一人ならもっと軽やかに飛べているはずだ。
「このままだと先輩も逃げ遅れますよ。降ろしてください」
「正気か!?」
そもそもこの恰好で長時間飛行するのは難しそうだ。
「はい。大丈夫ですから」
押し問答をしている暇はないと思ったのかオリヴィエはあっさり手を離した。
「いいか、変なモノを拾うなよ。自分の身の安全を優先しろ」
そう言い残すとさっさと飛んでいった。
俺は高台から降りて自身も火の粉から逃れる為に走り出した。その途中、木の幹に寄りかかり倒れている人がいるのを見つけた。呼吸を確認すると問題はなく、魔力切れで気を失っているだけのようだった。
このままでは焼死体になると思い、脇に手を滑り込ませ立ち上がる。
周りが燃えているのと気絶した青年の身体が重いので汗が止まらない。結局、拾ってしまったなとオリヴィエの忠告の意味が理解できて笑いが込み上げてくる。しかし、損得関係なしに見捨てることはできなかった。見知らぬ人が溺れているのを発見して助けようと飛び込んで双方が死んでしまうようなことは馬鹿らしいと頭では分かっているのに、溺れいる人がいたら結局、飛び込んでしまうのだ。
いきなり陽が遮られたので嫌な予感がして恐る恐る見上げると、真上をドラゴンが飛んでいた。バサリと羽が動き、大きな音をたてている。
気の所為かもしれないが、ドラゴンと目が合った気がした。身体が硬直して動けずにいると、ドラゴンはこちらに急降下し、降りたった。ドラゴンが動きを見せるのと同時にまばゆい光を放ち、目を閉じた。もう一度目を開けると、ドラゴンが魔物を拘束する魔法によって繩でぐるぐる巻になっていた。
暴れているドラゴンの首の付け根辺りに赤髪の青年が剣を突き刺すとドラゴンは大人しくなった。
「ライオネル…」
無表情で顔に飛び散った血を拭っているライオネルに声をかけると、たちまち瞳に涙が溜まりだした。
「リュカ~!心配した!」
ライオネルが勢いよく抱きついてきて、担いでいた人は地面に落としてしまった。
「ごめん、心配かけて…。とりあえず火から逃げないと」
「それなら問題ないよ。多分ユスタフが、」
ライオネルがいいかけたところでバケツをひっくり返したかのような雨が突然降り出した。
「始まったみたいだ。ユスタフの魔法」
晴天に土砂降りの雨が降り注ぐ様子はなんとも美しい。ライオネルの方を見ると濡れることも意に介さず真っ直ぐに空を見上げていた。ぼんやりとその様子を眺めていると、鎮火を終えて雨は止んだ。
「行こうか」
視界に入っていないのかと思っていた気絶している青年をライオネルが背負った。俺が下山中どんなに「変わろう」と言っても聞かず、結局最後までライオネルが背負って下山した。
麓まで行くと参加者が集まっていた。ざわざわと皆口々にドラゴンについて話している。
ライオネルを見つけると、「ライオネル様はドラゴンをご覧になりましたか?」「ユスタフ殿下が倒されたのですか?」と詰め寄った。
「ユスタフ殿下がドラゴンを倒したのでもう大丈夫です」
ライオネルが面倒そうに話すのを聞いて思わず彼の方を2度見した。
お前はそれでいいの!?
「そんな目でみないで?リュカを助けようと思ってやったことに手柄や称賛なんかいらないよ」
そうは言っているが、ライオネルは他人から褒められる苦手なのだ。俺はほんの少しいたずら心が芽生えた。
「ライオネル、助けてくれてありがとう。格好良かった」
ライオネルは慌てて顔を背けたが、耳が赤くなっている。
「あっ、ユスタフ殿下」
そこでユスタフも下山してきたが、どうにも顔色が悪い。
「大丈夫ですか?」
俺が近づくとユスタフが倒れ込んだ。
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