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2 ヒロイン様は
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リュカに憑依転生したのは今から4年前のことだ。リュカが13歳の時だった。(この世界では学園の入学は17歳からの3年間)それまでは吉田遥斗という名前の普通のサラリーマンとしてなんの代わり映えもなくすごしていた。たてこんでいた仕事をやっと終えて帰ろうとした時、目眩がしてその場に倒れ込んだ。目を覚ますと、この世界の悪役令息であるリュカ・マリニーになっていた。
未だに鏡を見ると不思議な気持ちになる。リュカはカラスの羽のような黒髪と灰色の瞳で、小物の悪役にしては容姿も悪くない。しかし、ヒロインのアリアに出会った時は自分の顔が醜く感じたほどだった。
アリアに出会った1年前ののとは今でも鮮明に思い出せる。リュカの婚約者として家にやって来た日のことだ。
「アリア・ボアソナードです」
アリアとリュカの親がいた時は本当に天使のように微笑んで見せたというのに、二人きりになるとアリアは気に食わなそうにフンと鼻を鳴らして俺に背を向けた。ここでもうおかしいと思っていた。ゲームでのアリアは裏表のない正確なのだ。
「ボアソナード伯爵令嬢?」
彼女は背を向けたままだ。
「アリアお嬢様」
まだ返事がない。
「アリアさん」
「リュカ様、どうか私のことは放っておいてください。貴方だって親に言われて仕方なく私と婚約したんでしょう?」
ここでやっとアリアは返事をしたが、挑発的な態度だった。その時、小声でかすかに「直ぐに退場するモブが」という声が聞こえた。聞かれてもどうせ意味が分からないだろうと口にしたようだ。この言葉は俺に確信を与えた。
「アリア様、『華の君と』をご存知ですか?」
何気ない風を装って質問してみた。何もなければ、怪訝そうな顔をされるだけで終わるのだから。
「…はぁ!?なんで知ってるの!」
少しの間を置いてから勢いよく肩を掴んできた。やっぱり本来のアリアの性格とあまりに違いすぎる。予想はしていたが、俺も相当驚いた。
「俺も転生者だ!」
「うそ!?いつから?」
「13歳から」
「うそっ、こっちは幼児の頃から転生したせいで継母や弟に虐められて大変だったっていうのに!」
こういった物語には、不遇な環境から救い出してくれるヒーローが鉄則で、アリアも決して例外ではなかった。
「それは確かに辛かったな…。でも俺にあたるなよ。リュカなんて殺されるんだぞ。それよりもましだろ」
加えて、リュカも家族に恵まれているわけでもなく、おまけに魔法がありふれた世界で魔力を生成できない身体なのだ。しかし、家族に関しては前世もそうだったので大して気にならなかった。
「まし?冗談でしょ。このゲーム、平気でヒロインのことを監禁したりするじゃない!」
「ユスタフルートで失敗するとそうなるな」
「あんたは元の世界に戻りたくないわけ?」
「転生してから1年くらいは…。でももう諦めもついた。こっちの世界で平和に暮らす方法を考えた方がずっといい」
「理解不能だわ。それに転生、転生って私は死んだ覚えはないわ」
アリアは不機嫌そうに舌打ちをした。本当に今のアリアはいい性格をしている。可愛らしい容姿とあいまって面白さすらある。
「そっか。理解し合えないならしかたないな。でも、短い付き合いだけど、表面上は婚約者だから」
「仲良くしようって?今すぐ婚約破棄したっていいのよ。貴方に乱暴されたって騒ぐわよ?」
本当にいい性格している。結局アリアはそんなことはしなかった。家柄は良いが借金のあるアリアの親と家柄は悪いがお金はあるリュカの親が利害の為に結婚に必死だったから、アリアが騒いでも無意味だと分かっていたのだろう。
なんだかんだアリアとは貴族のパーティーに同行したりして、婚約は周知の事実となった。
◇◇◇
「ただいま~」
なんとか初登校のいじめイベントはユスタフに助けてもらった礼を言って逃げ出してきた。
普通に家に入ろうとすると、長年マリニー家に仕えている老齢の執事が慌てて駆け寄ってきた。
「坊っちゃん!旦那様が帰っていらしゃっいます!」
「父上が?」
隣国との貿易とかなんとか言って3ヶ月は家を開けていたのにいきなり帰ってきたので驚いた。
いつもは帰る前に連絡があるのに、面倒くさいな~。
俺はそのまま父親の書斎に向かった。
「父上、失礼します」
ノックをすると入ってこいと言われたので、そっとドアを開いた。
「ボアソナードの子娘に逃げられたらしいな」
書斎のイスに腰掛けた男が厳しい声を発する。この人と話をしていると1つ、前世で思い出す人がいる。めちゃくちゃ怖かった課長だ。親子ながら関係性も上司と部下にちかい。
「申し訳ありません。すべて私の責任です。」
気分まですっかり社畜だ。
「私は謝罪など聞いていないが?自分の責任だと言うならどう責任をとるつもりだ?」
俺はなんと答えればいいか分からなかった。まさか「もっと家柄の良い令嬢をつかまえてきます」とでも言ってほしいのか?
「お前に責任をとる機会をやろう。1ヶ月後にお前くらいの年代の子息だけが参加できる魔獣の狩猟大会があるな」
「はい」
「その大会の優秀者には陛下直々に褒美を与えられるそうだ」
結論から話せ!と心の中で叫ぶ。優秀者になれと?絶対無理でしょ。俺、ほぼ魔力もないし。
「父上、狩猟大会は参加者にも厳しい審査があります。魔力のない私では参加者することも許されません」
「そんなことは私から口添えしておく。陛下にはオーレン地方の港の開港を願い出ろ」
完全に無理ゲー。どうバックレようか考える方が得策だ。そもそもリュカの父親は倫理ない。息子に暗に不正を強要してくるのだから。
まぁ、無理だったところでこの人は俺を殺したりはしないんだ。適当に参加して、無理でした!でも次はもっと無理難題を言ってくるだけだし…。
何か対策を練らなければと憂鬱になりながら書斎を後にした。
未だに鏡を見ると不思議な気持ちになる。リュカはカラスの羽のような黒髪と灰色の瞳で、小物の悪役にしては容姿も悪くない。しかし、ヒロインのアリアに出会った時は自分の顔が醜く感じたほどだった。
アリアに出会った1年前ののとは今でも鮮明に思い出せる。リュカの婚約者として家にやって来た日のことだ。
「アリア・ボアソナードです」
アリアとリュカの親がいた時は本当に天使のように微笑んで見せたというのに、二人きりになるとアリアは気に食わなそうにフンと鼻を鳴らして俺に背を向けた。ここでもうおかしいと思っていた。ゲームでのアリアは裏表のない正確なのだ。
「ボアソナード伯爵令嬢?」
彼女は背を向けたままだ。
「アリアお嬢様」
まだ返事がない。
「アリアさん」
「リュカ様、どうか私のことは放っておいてください。貴方だって親に言われて仕方なく私と婚約したんでしょう?」
ここでやっとアリアは返事をしたが、挑発的な態度だった。その時、小声でかすかに「直ぐに退場するモブが」という声が聞こえた。聞かれてもどうせ意味が分からないだろうと口にしたようだ。この言葉は俺に確信を与えた。
「アリア様、『華の君と』をご存知ですか?」
何気ない風を装って質問してみた。何もなければ、怪訝そうな顔をされるだけで終わるのだから。
「…はぁ!?なんで知ってるの!」
少しの間を置いてから勢いよく肩を掴んできた。やっぱり本来のアリアの性格とあまりに違いすぎる。予想はしていたが、俺も相当驚いた。
「俺も転生者だ!」
「うそ!?いつから?」
「13歳から」
「うそっ、こっちは幼児の頃から転生したせいで継母や弟に虐められて大変だったっていうのに!」
こういった物語には、不遇な環境から救い出してくれるヒーローが鉄則で、アリアも決して例外ではなかった。
「それは確かに辛かったな…。でも俺にあたるなよ。リュカなんて殺されるんだぞ。それよりもましだろ」
加えて、リュカも家族に恵まれているわけでもなく、おまけに魔法がありふれた世界で魔力を生成できない身体なのだ。しかし、家族に関しては前世もそうだったので大して気にならなかった。
「まし?冗談でしょ。このゲーム、平気でヒロインのことを監禁したりするじゃない!」
「ユスタフルートで失敗するとそうなるな」
「あんたは元の世界に戻りたくないわけ?」
「転生してから1年くらいは…。でももう諦めもついた。こっちの世界で平和に暮らす方法を考えた方がずっといい」
「理解不能だわ。それに転生、転生って私は死んだ覚えはないわ」
アリアは不機嫌そうに舌打ちをした。本当に今のアリアはいい性格をしている。可愛らしい容姿とあいまって面白さすらある。
「そっか。理解し合えないならしかたないな。でも、短い付き合いだけど、表面上は婚約者だから」
「仲良くしようって?今すぐ婚約破棄したっていいのよ。貴方に乱暴されたって騒ぐわよ?」
本当にいい性格している。結局アリアはそんなことはしなかった。家柄は良いが借金のあるアリアの親と家柄は悪いがお金はあるリュカの親が利害の為に結婚に必死だったから、アリアが騒いでも無意味だと分かっていたのだろう。
なんだかんだアリアとは貴族のパーティーに同行したりして、婚約は周知の事実となった。
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「ただいま~」
なんとか初登校のいじめイベントはユスタフに助けてもらった礼を言って逃げ出してきた。
普通に家に入ろうとすると、長年マリニー家に仕えている老齢の執事が慌てて駆け寄ってきた。
「坊っちゃん!旦那様が帰っていらしゃっいます!」
「父上が?」
隣国との貿易とかなんとか言って3ヶ月は家を開けていたのにいきなり帰ってきたので驚いた。
いつもは帰る前に連絡があるのに、面倒くさいな~。
俺はそのまま父親の書斎に向かった。
「父上、失礼します」
ノックをすると入ってこいと言われたので、そっとドアを開いた。
「ボアソナードの子娘に逃げられたらしいな」
書斎のイスに腰掛けた男が厳しい声を発する。この人と話をしていると1つ、前世で思い出す人がいる。めちゃくちゃ怖かった課長だ。親子ながら関係性も上司と部下にちかい。
「申し訳ありません。すべて私の責任です。」
気分まですっかり社畜だ。
「私は謝罪など聞いていないが?自分の責任だと言うならどう責任をとるつもりだ?」
俺はなんと答えればいいか分からなかった。まさか「もっと家柄の良い令嬢をつかまえてきます」とでも言ってほしいのか?
「お前に責任をとる機会をやろう。1ヶ月後にお前くらいの年代の子息だけが参加できる魔獣の狩猟大会があるな」
「はい」
「その大会の優秀者には陛下直々に褒美を与えられるそうだ」
結論から話せ!と心の中で叫ぶ。優秀者になれと?絶対無理でしょ。俺、ほぼ魔力もないし。
「父上、狩猟大会は参加者にも厳しい審査があります。魔力のない私では参加者することも許されません」
「そんなことは私から口添えしておく。陛下にはオーレン地方の港の開港を願い出ろ」
完全に無理ゲー。どうバックレようか考える方が得策だ。そもそもリュカの父親は倫理ない。息子に暗に不正を強要してくるのだから。
まぁ、無理だったところでこの人は俺を殺したりはしないんだ。適当に参加して、無理でした!でも次はもっと無理難題を言ってくるだけだし…。
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