ヒロイン不在の世界で気づいたら攻略対象に執着されていた

はじまり

「私ね、結婚したい人ができたの」

　ピンク髪の可愛らしい少女が恥じらうように顔を手で覆う。その姿に俺は持っていたカップが割れそうなほど力を入れた。

「何バカなこと言ってんだ！ゲーム本編はまだ始まってないぞ！」

　ここは前世で俺がプレイしていた乙女ゲーム「華の君と」の世界の中だ。俺は悪役であるリュカ。そして俺の目の前にいるのがそのヒロインであるアリアだ。ゲーム本編は1ヶ月後にひかえた王立学園の入学からスタートする。

「ゲーム本編なんて知らないわよ！だいたいこのゲームは攻略キャラみんなメンヘラのヤンデレ男ばっかりで、そんな奴と恋愛とか無理！私は運命の人に出会ったのよ！」

　アリアは俺の３倍は大きい声で怒鳴った。1年ほど前に発覚したのだが、アリアも転生者だった。俺は「華の君と」が大好きなゲームだったが、アリアは違うらしい。

「俺との婚約はどうするつもりだ？アリアの両親も認めてくれないだろ」

　自分のことを引き合いに出すのは避けたかったが仕方がない。本編では婚約者をとられ、怒り狂った末にヒロインを殺そうとするリュカだが、俺が転生したからには大人しく身を引いて、推しを眺めながら貴族のボンボンとして楽しく暮らすつもりだったのに。

「駆け落ちする」
「い、一応聞くが、相手って…」
「レオン」

　俺は震えた。アリアはこのゲームを最後までやってないから知らない。レオンはこのゲームのラスボスだ！ヒロイン不在でシナリオはどうなる？俺はどうすればいい？
　そもそもこのゲームはヒロインが世界を救う鍵を握っている聖女なのだから、アリアが悪役の手に落ちたら世界が終わる。

「悪いことは言わないからやめてくれ。レオンはこのゲームのラスボスだぞ」
「そんな嘘言っても無駄！私とレオンを引き裂こうったってそうはいかないわ」

　なんだこれ。頭お花畑なのか？

　　　　　　　　◇
その日の夜の内にアリアは駆け落ちをし、姿をくらませましたとさ。