悪役の寵愛回避

春野ゆき

文字の大きさ
上 下
5 / 5

4 同情①

しおりを挟む
「助けていただきありがとうございます!そして申し訳ありませんでした…」

 ナーシャは俺の前で深々と頭を下げた。ナーシャの解雇を取り下げてほしいと公爵に伝えてから僅か数分で俺の部屋に飛び込んで謝罪しに来てくれたのだ。

「もういいから、顔を上げて」

 ナーシャは恐る恐るといった様子で顔を上げるので、できるだけ怖がられないように笑顔を作る。

「この恩は忘れません!」

 少し大げさな子だな…。

「それと、クロード様より伝言を預かっております」

 ナーシャが伝えた内容は今夜は一緒に夕食をとれという事だった。
 どうして急に。気が乗らないどころじゃないが、これ以上クロードの機嫌も損ねたくないし、仕方ないか…。

 食事の席に着くと、直ぐに料理が運ばれてきた。2人だけの食事には不釣り合いなほど大きなテーブルが料理で埋まっていく。テーブルにはL字の位置で座った。
 クロードが食べ始めたので仕方なく、スープを口に含む。

「まる1日食事をとっていないと聞いた。食欲がないのか?」
「…いえ、元々少食なんです」
「伯爵は痩せ過ぎだ」

 俺は笑顔で受け流していたが、スープが無くなったので、仕方なく肉をナイフで細かく切って口に入れる。よく噛んだが、それでも喉に激痛が走った。
 自然と顔が強張る。その様子を見ていたクロードがいきなり立ち上がった。俺の横に立つと、片手で俺の顔を勢いよく掴まれた。

「…!?」
「口を開けろ」
「う…えぇ」

 俺は頬を掴まれて上手く話す事ができず、抗議のしようがなかった。大人しく口を開けるとクロードは容赦なく指を突っ込んできた。俺が嗚咽しそうになると、クロードは手を離した。

「口内も喉も酷い荒れ方だ。何をしたらこんな風になる?」
「ゴホッゴホゴホ」

 この男、潔癖そうな顔してよくいきなりこんなことができるな!?

「おい、医者を読んでこい」

 脇に控えていたメイドにクロードが命令すると、メイドは静かに一礼して急いで出ていった。


 それから数十分で駆けつけた医者が真剣な顔つきで診察して、深いため息をついた。

「食事を吐き出す癖がありますね?」
「昔、よく毒を飲んだのでその時に癖がついたのかもしれません」

 俺は軽い口調で答えたが、医者もクロードも複雑そうな表情を浮かべている。

「急に肉類を食べたりするのは良くないでしょう。スープから慣らしてできるだけで吐かないようにしてください。あと薬も出しておきますから毎日飲んでくださいね」 
 薬を取りに戻った医師の背中を確認すると、クロードがこちらに視線を向けた。

「中流貴族の出身だったな?どうして子どもの時に毒を飲むような機会があるんだ」

 確かに、出自だけで考えればカミルは男娼どころか使用人も官僚とも一生縁がない。官僚は貴族の次男三男がやる仕事で、伯爵家の正当な後継者の仕事ではないのだ。

「…私が10歳の頃、子どもの毒見役の求人があって、それに叔父が…私の後見人が勝手に応募したんですよ」

 この頃の事はクロードも知っているはずだ。アンドレには元々、大人の毒見役がいたが、大人の身体ではあまり影響はないが、子どもの身体には影響が出る毒を使われたことがあった。周囲の大人の考えは単純で子どもの毒見役を探そうということになった。
 そして、この国は長男が家を相続する決まりがあり、長男に子どもがいれば、その兄弟は一切財産は受け取ることができない。

「…もう休め」
「え、あぁ、はい」

 クロードの冷たい青い瞳が同情的に揺れたのを見て驚いた。彼は騎士として多くの紛争地に赴き、孤児や貧困に苦しむ人を多く見てきた。俺の境遇が同情するほどのものだとは思えない。

「ほんと、調子狂うよ…」

 閉められたドアに向かって俺は呟いた。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

無自覚美少年のチート劇~ぼくってそんなにスゴいんですか??~

白ねこ
BL
ぼくはクラスメイトにも、先生にも、親にも嫌われていて、暴言や暴力は当たり前、ご飯もろくに与えられない日々を過ごしていた。 そんなぼくは気づいたら神さま(仮)の部屋にいて、呆気なく死んでしまったことを告げられる。そして、どういうわけかその神さま(仮)から異世界転生をしないかと提案をされて―――!? 前世は嫌われもの。今世は愛されもの。 自己評価が低すぎる無自覚チート美少年、爆誕!!! **************** というようなものを書こうと思っています。 初めて書くので誤字脱字はもちろんのこと、文章構成ミスや設定崩壊など、至らぬ点がありすぎると思いますがその都度指摘していただけると幸いです。 暇なときにちょっと書く程度の不定期更新となりますので、更新速度は物凄く遅いと思います。予めご了承ください。 なんの予告もなしに突然連載休止になってしまうかもしれません。 この物語はBL作品となっておりますので、そういうことが苦手な方は本作はおすすめいたしません。 R15は保険です。

攻略対象者に転生したので全力で悪役を口説いていこうと思います

りりぃ
BL
俺、百都 涼音は某歌舞伎町の人気№1ホストそして、、、隠れ腐男子である。 仕事から帰る途中で刺されてわりと呆気なく26年間の生涯に幕を閉じた、、、、、、、、、はずだったが! 転生して自分が最もやりこんでいたBLゲームの世界に転生することとなったw まあ転生したのは仕方ない!!仕方ないから俺の最推し 雅きゅん(悪役)を口説こうではないか(( ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーキリトリーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー タイトルどうりの内容になってます、、、 完全不定期更新でございます。暇つぶしに書き始めたものなので、いろいろゆるゆるです、、、 作者はリバが大好物です。基本的に主人公攻めですが、後々ifなどで出すかも知れません、、、 コメント下さると更新頑張ります。誤字脱字の報告でもいいので、、、 R18は保険です、、、 宜しくお願い致します、、、

悪役令息に転生したけど…俺…嫌われすぎ?

「ARIA」
BL
階段から落ちた衝撃であっけなく死んでしまった主人公はとある乙女ゲームの悪役令息に転生したが...主人公は乙女ゲームの家族から甘やかされて育ったというのを無視して存在を抹消されていた。 王道じゃないですけど王道です(何言ってんだ?)どちらかと言うとファンタジー寄り 更新頻度=適当

転生したら弟がブラコン重傷者でした!!!

Lynne
BL
俺の名前は佐々木塁、元高校生だ。俺は、ある日学校に行く途中、トラックに轢かれて死んでしまった...。 pixivの方でも、作品投稿始めました! 名前やアイコンは変わりません 主にアルファポリスで投稿するため、更新はアルファポリスのほうが早いと思います!

俺が総受けって何かの間違いですよね?

彩ノ華
BL
生まれた時から体が弱く病院生活を送っていた俺。 17歳で死んだ俺だが女神様のおかげで男同志が恋愛をするのが普通だという世界に転生した。 ここで俺は青春と愛情を感じてみたい! ひっそりと平和な日常を送ります。 待って!俺ってモブだよね…?? 女神様が言ってた話では… このゲームってヒロインが総受けにされるんでしょっ!? 俺ヒロインじゃないから!ヒロインあっちだよ!俺モブだから…!! 平和に日常を過ごさせて〜〜〜!!!(泣) 女神様…俺が総受けって何かの間違いですよね? モブ(無自覚ヒロイン)がみんなから総愛されるお話です。

攻略対象の一人だけどお先真っ暗悪役令息な俺が気に入られるってどういうことですか

さっすん
BL
事故にあってBLゲームの攻略対象の一人で悪役令息のカリンに転生してしまった主人公。カリンは愛らしい見た目をしていながら、どす黒い性格。カリンはその見た目から見知らぬ男たちに犯されそうになったところをゲームの主人公に助けられるて恋に落ちるという。犯されるのを回避すべく、他の攻略対象と関わらないようにするが、知らず知らずのうちに気に入られてしまい……? ※パクりでは決してありません。

悪役令嬢の義弟に転生した俺は虐げられる

西楓
BL
悪役令嬢の義弟になったときに俺はゲームの世界に転生したことを知る。ゲームの中で俺は悪役令嬢に虐待される悪役令嬢の義弟で、攻略対象だった。悪役令嬢が断罪するその日まで俺は… 整いすぎた人形のような美貌の義父は… Rシーンには※をつけてます。 ※完結としていたのですが、その後を数話追加しますので連載中に戻しました。

処理中です...