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4 同情①
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「助けていただきありがとうございます!そして申し訳ありませんでした…」
ナーシャは俺の前で深々と頭を下げた。ナーシャの解雇を取り下げてほしいと公爵に伝えてから僅か数分で俺の部屋に飛び込んで謝罪しに来てくれたのだ。
「もういいから、顔を上げて」
ナーシャは恐る恐るといった様子で顔を上げるので、できるだけ怖がられないように笑顔を作る。
「この恩は忘れません!」
少し大げさな子だな…。
「それと、クロード様より伝言を預かっております」
ナーシャが伝えた内容は今夜は一緒に夕食をとれという事だった。
どうして急に。気が乗らないどころじゃないが、これ以上クロードの機嫌も損ねたくないし、仕方ないか…。
食事の席に着くと、直ぐに料理が運ばれてきた。2人だけの食事には不釣り合いなほど大きなテーブルが料理で埋まっていく。テーブルにはL字の位置で座った。
クロードが食べ始めたので仕方なく、スープを口に含む。
「まる1日食事をとっていないと聞いた。食欲がないのか?」
「…いえ、元々少食なんです」
「伯爵は痩せ過ぎだ」
俺は笑顔で受け流していたが、スープが無くなったので、仕方なく肉をナイフで細かく切って口に入れる。よく噛んだが、それでも喉に激痛が走った。
自然と顔が強張る。その様子を見ていたクロードがいきなり立ち上がった。俺の横に立つと、片手で俺の顔を勢いよく掴まれた。
「…!?」
「口を開けろ」
「う…えぇ」
俺は頬を掴まれて上手く話す事ができず、抗議のしようがなかった。大人しく口を開けるとクロードは容赦なく指を突っ込んできた。俺が嗚咽しそうになると、クロードは手を離した。
「口内も喉も酷い荒れ方だ。何をしたらこんな風になる?」
「ゴホッゴホゴホ」
この男、潔癖そうな顔してよくいきなりこんなことができるな!?
「おい、医者を読んでこい」
脇に控えていたメイドにクロードが命令すると、メイドは静かに一礼して急いで出ていった。
それから数十分で駆けつけた医者が真剣な顔つきで診察して、深いため息をついた。
「食事を吐き出す癖がありますね?」
「昔、よく毒を飲んだのでその時に癖がついたのかもしれません」
俺は軽い口調で答えたが、医者もクロードも複雑そうな表情を浮かべている。
「急に肉類を食べたりするのは良くないでしょう。スープから慣らしてできるだけで吐かないようにしてください。あと薬も出しておきますから毎日飲んでくださいね」
薬を取りに戻った医師の背中を確認すると、クロードがこちらに視線を向けた。
「中流貴族の出身だったな?どうして子どもの時に毒を飲むような機会があるんだ」
確かに、出自だけで考えればカミルは男娼どころか使用人も官僚とも一生縁がない。官僚は貴族の次男三男がやる仕事で、伯爵家の正当な後継者の仕事ではないのだ。
「…私が10歳の頃、子どもの毒見役の求人があって、それに叔父が…私の後見人が勝手に応募したんですよ」
この頃の事はクロードも知っているはずだ。アンドレには元々、大人の毒見役がいたが、大人の身体ではあまり影響はないが、子どもの身体には影響が出る毒を使われたことがあった。周囲の大人の考えは単純で子どもの毒見役を探そうということになった。
そして、この国は長男が家を相続する決まりがあり、長男に子どもがいれば、その兄弟は一切財産は受け取ることができない。
「…もう休め」
「え、あぁ、はい」
クロードの冷たい青い瞳が同情的に揺れたのを見て驚いた。彼は騎士として多くの紛争地に赴き、孤児や貧困に苦しむ人を多く見てきた。俺の境遇が同情するほどのものだとは思えない。
「ほんと、調子狂うよ…」
閉められたドアに向かって俺は呟いた。
ナーシャは俺の前で深々と頭を下げた。ナーシャの解雇を取り下げてほしいと公爵に伝えてから僅か数分で俺の部屋に飛び込んで謝罪しに来てくれたのだ。
「もういいから、顔を上げて」
ナーシャは恐る恐るといった様子で顔を上げるので、できるだけ怖がられないように笑顔を作る。
「この恩は忘れません!」
少し大げさな子だな…。
「それと、クロード様より伝言を預かっております」
ナーシャが伝えた内容は今夜は一緒に夕食をとれという事だった。
どうして急に。気が乗らないどころじゃないが、これ以上クロードの機嫌も損ねたくないし、仕方ないか…。
食事の席に着くと、直ぐに料理が運ばれてきた。2人だけの食事には不釣り合いなほど大きなテーブルが料理で埋まっていく。テーブルにはL字の位置で座った。
クロードが食べ始めたので仕方なく、スープを口に含む。
「まる1日食事をとっていないと聞いた。食欲がないのか?」
「…いえ、元々少食なんです」
「伯爵は痩せ過ぎだ」
俺は笑顔で受け流していたが、スープが無くなったので、仕方なく肉をナイフで細かく切って口に入れる。よく噛んだが、それでも喉に激痛が走った。
自然と顔が強張る。その様子を見ていたクロードがいきなり立ち上がった。俺の横に立つと、片手で俺の顔を勢いよく掴まれた。
「…!?」
「口を開けろ」
「う…えぇ」
俺は頬を掴まれて上手く話す事ができず、抗議のしようがなかった。大人しく口を開けるとクロードは容赦なく指を突っ込んできた。俺が嗚咽しそうになると、クロードは手を離した。
「口内も喉も酷い荒れ方だ。何をしたらこんな風になる?」
「ゴホッゴホゴホ」
この男、潔癖そうな顔してよくいきなりこんなことができるな!?
「おい、医者を読んでこい」
脇に控えていたメイドにクロードが命令すると、メイドは静かに一礼して急いで出ていった。
それから数十分で駆けつけた医者が真剣な顔つきで診察して、深いため息をついた。
「食事を吐き出す癖がありますね?」
「昔、よく毒を飲んだのでその時に癖がついたのかもしれません」
俺は軽い口調で答えたが、医者もクロードも複雑そうな表情を浮かべている。
「急に肉類を食べたりするのは良くないでしょう。スープから慣らしてできるだけで吐かないようにしてください。あと薬も出しておきますから毎日飲んでくださいね」
薬を取りに戻った医師の背中を確認すると、クロードがこちらに視線を向けた。
「中流貴族の出身だったな?どうして子どもの時に毒を飲むような機会があるんだ」
確かに、出自だけで考えればカミルは男娼どころか使用人も官僚とも一生縁がない。官僚は貴族の次男三男がやる仕事で、伯爵家の正当な後継者の仕事ではないのだ。
「…私が10歳の頃、子どもの毒見役の求人があって、それに叔父が…私の後見人が勝手に応募したんですよ」
この頃の事はクロードも知っているはずだ。アンドレには元々、大人の毒見役がいたが、大人の身体ではあまり影響はないが、子どもの身体には影響が出る毒を使われたことがあった。周囲の大人の考えは単純で子どもの毒見役を探そうということになった。
そして、この国は長男が家を相続する決まりがあり、長男に子どもがいれば、その兄弟は一切財産は受け取ることができない。
「…もう休め」
「え、あぁ、はい」
クロードの冷たい青い瞳が同情的に揺れたのを見て驚いた。彼は騎士として多くの紛争地に赴き、孤児や貧困に苦しむ人を多く見てきた。俺の境遇が同情するほどのものだとは思えない。
「ほんと、調子狂うよ…」
閉められたドアに向かって俺は呟いた。
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