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2 青藍②
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「正気ですか?」
「ああ」
「本当に神前で誓い、系譜に私の名前を書き入れると?」
「そう言ってる」
俺はガタガタとうるさい馬車に声をかき消されないように声を張り上げたが、向かい側の公爵はよく通る声の助けもあっていつも通りの声量でも聞こえていた。
俺とクロードは城から撤収し、2人でエンデュミオン邸に帰ることになった。
それからクロードに恋人らしさがないからと敬語を辞めるように言ってみたが、余計ぶっきらぼうに聞こえて失敗だったなと反省した。
クロードもヨハネも忙しいからと予定を合わせたら10日後に教会を訪問して神前で誓うことに決まった。それでもかなり急だ。ヨハネからしたら対策を取られる前に少しでも早くしたいようだ。
「ヨハネ殿下の策略ですよ。アンドレ殿下派の私達2人を同時に排除するつもりです」
「分かっているが、この程度で排除されるつもりはない」
平静を保ち、なんてこともなく瞼を閉じて邸宅に着くのを待っているクロードを見ていると、こっちまで落ち着いてきた。
どうせ5年で結婚生活は終わりだし、もしもの時に守ってもらえるようにクロードに取り入った方がいいか。あと、ヨハネ派の勢力を削らないとな。
俺もクロードに倣って瞼を閉じ、エンデュミオン公爵家の邸宅に到着するのを待った。
「少し気になったんだが」
「はい」
聞こえてきたクロードの声に俺は勢いよく目を開いた。クロードから話しかけてきたのはこれが初めてじゃないか?
「どうして偽の恋人役に私を選んだ」
「一番信用できるから…ですかね」
嘘をつくこともできたが、その時は考えるよりも先に本心が口から出ていた。
クロードは何とも言い難い顔をした後、「ふーん」と言った。それに俺は思わず吹き出しそうになった。クロードみたいな人が「ふーん」はキャラクター崩壊じゃないか?笑ったのがバレたら大変だ。
邸宅に着くと、十何人かの使用人が出迎えた。俺の顔をみると皆、表情が固まった。
「公爵様、そちらの方は…?」
メイド長らしき人物が聞きづらいそうに尋ねてくる。
「今のところ私の婚約者だ」
使用人たちの顔色が見る見る内に悪くなっていく。前回訪問した時に顔を見て俺が誰なのか知っている者もいるし、単純に公爵が男と婚約するなんておかしいと怪しんでいる者もいる。
「カミル・ラボラスです。お世話になります」
俺は苦笑いするしかなかった。
「私は政務に戻るからフィンに邸宅を案内してもらえ」
「俺も忙しんだけど」
「命令だ」
フィンと言う男は使用人ではないらしく、エンデュミオン家率いる聖騎士団の黒を基調とした制服を着ていた。薄いクリーム色の金髪に紫の瞳で一見すると上品そうだが、口を開くと粗暴な感じがする。
「よろしくお願いします」
「あー、よろしく。奥様?」
「ちょっと辞めてください!俺が公爵に殺される!」
声を潜めて辺りを見渡すと、使用人も既に解散していて、クロードの姿もない。
「クロードが怖いの?」
「こわっ…いえ、別に」
「クロードには言わないよ」
「…少しだけ」
「ハハハ、正直だね。クロードが怖くない奴なんかいないしね」
俺はから笑いする。クロードは部下には甘いのか。こんな態度を許すなんて。
「自己紹介が遅れたね。俺はフィン・マシェラ。聖騎士団の副団長だ」
「副団長!?本当に大丈夫なんですか?お忙しいのに邸宅の案内なんて」
「いやー、稽古の途中だったんだけど、サボってたところだったから大丈夫」
どこが大丈夫なんだ。俺も普段からヘラヘラしていると言われているが、フィンはヘラヘラしているのに加えてフラフラしている。
「で、ここが図書館なんだけど、覚えられた?」
「だいたい覚えました」
「ふーん、じゃあ最終チェック!」
フィンは図書館のどこからともなく持ってきた大きな紙を広げると、それは邸宅の地図だった。図面だけで、文字は書かれていない。
「ここが書斎、エンデュミオン公爵の自室、使用人の部屋、厨房、応接間、物置部屋、…」
俺は一つ指を指しながら答えていった。
「うわ、全部覚えてるとは思わなかった。カミルさん記憶力いいんだね」
「大したことはありませんが、数少ない特技です」
官僚になる前までは自分の記憶力がいいとは思っていなかった。それはアンドレの方がずっと物覚えが良かったからだ。だからか、古訓や聖典を書き写してこい、といった宿題が嫌いでよく手伝っていた。
「まあ、官僚試験首席合格の秀才だしね」
フィンの言葉に俺はぎこちなく笑顔を作った。フィンも俺のことを知っていたんだな。俺は少しがっかりした。つまり、フィンも俺にいい印象など一つもないのだ。それに、フィンにそんなつもりはないかもしれないが、皇太子の口利きで官僚試験を突破したとか裏金を払ったとか散々言われたから官僚試験にはいい思い出がない。そもそも下働きと毒見の生活が嫌で官僚になったのに官僚になってからの生活の方がずっと辛かった。
「そう言えば官僚の仕事はどうするの?」
「辞めようと思ってます」
「へー」
それ以上何も言ってくることはなかった。
「ああ」
「本当に神前で誓い、系譜に私の名前を書き入れると?」
「そう言ってる」
俺はガタガタとうるさい馬車に声をかき消されないように声を張り上げたが、向かい側の公爵はよく通る声の助けもあっていつも通りの声量でも聞こえていた。
俺とクロードは城から撤収し、2人でエンデュミオン邸に帰ることになった。
それからクロードに恋人らしさがないからと敬語を辞めるように言ってみたが、余計ぶっきらぼうに聞こえて失敗だったなと反省した。
クロードもヨハネも忙しいからと予定を合わせたら10日後に教会を訪問して神前で誓うことに決まった。それでもかなり急だ。ヨハネからしたら対策を取られる前に少しでも早くしたいようだ。
「ヨハネ殿下の策略ですよ。アンドレ殿下派の私達2人を同時に排除するつもりです」
「分かっているが、この程度で排除されるつもりはない」
平静を保ち、なんてこともなく瞼を閉じて邸宅に着くのを待っているクロードを見ていると、こっちまで落ち着いてきた。
どうせ5年で結婚生活は終わりだし、もしもの時に守ってもらえるようにクロードに取り入った方がいいか。あと、ヨハネ派の勢力を削らないとな。
俺もクロードに倣って瞼を閉じ、エンデュミオン公爵家の邸宅に到着するのを待った。
「少し気になったんだが」
「はい」
聞こえてきたクロードの声に俺は勢いよく目を開いた。クロードから話しかけてきたのはこれが初めてじゃないか?
「どうして偽の恋人役に私を選んだ」
「一番信用できるから…ですかね」
嘘をつくこともできたが、その時は考えるよりも先に本心が口から出ていた。
クロードは何とも言い難い顔をした後、「ふーん」と言った。それに俺は思わず吹き出しそうになった。クロードみたいな人が「ふーん」はキャラクター崩壊じゃないか?笑ったのがバレたら大変だ。
邸宅に着くと、十何人かの使用人が出迎えた。俺の顔をみると皆、表情が固まった。
「公爵様、そちらの方は…?」
メイド長らしき人物が聞きづらいそうに尋ねてくる。
「今のところ私の婚約者だ」
使用人たちの顔色が見る見る内に悪くなっていく。前回訪問した時に顔を見て俺が誰なのか知っている者もいるし、単純に公爵が男と婚約するなんておかしいと怪しんでいる者もいる。
「カミル・ラボラスです。お世話になります」
俺は苦笑いするしかなかった。
「私は政務に戻るからフィンに邸宅を案内してもらえ」
「俺も忙しんだけど」
「命令だ」
フィンと言う男は使用人ではないらしく、エンデュミオン家率いる聖騎士団の黒を基調とした制服を着ていた。薄いクリーム色の金髪に紫の瞳で一見すると上品そうだが、口を開くと粗暴な感じがする。
「よろしくお願いします」
「あー、よろしく。奥様?」
「ちょっと辞めてください!俺が公爵に殺される!」
声を潜めて辺りを見渡すと、使用人も既に解散していて、クロードの姿もない。
「クロードが怖いの?」
「こわっ…いえ、別に」
「クロードには言わないよ」
「…少しだけ」
「ハハハ、正直だね。クロードが怖くない奴なんかいないしね」
俺はから笑いする。クロードは部下には甘いのか。こんな態度を許すなんて。
「自己紹介が遅れたね。俺はフィン・マシェラ。聖騎士団の副団長だ」
「副団長!?本当に大丈夫なんですか?お忙しいのに邸宅の案内なんて」
「いやー、稽古の途中だったんだけど、サボってたところだったから大丈夫」
どこが大丈夫なんだ。俺も普段からヘラヘラしていると言われているが、フィンはヘラヘラしているのに加えてフラフラしている。
「で、ここが図書館なんだけど、覚えられた?」
「だいたい覚えました」
「ふーん、じゃあ最終チェック!」
フィンは図書館のどこからともなく持ってきた大きな紙を広げると、それは邸宅の地図だった。図面だけで、文字は書かれていない。
「ここが書斎、エンデュミオン公爵の自室、使用人の部屋、厨房、応接間、物置部屋、…」
俺は一つ指を指しながら答えていった。
「うわ、全部覚えてるとは思わなかった。カミルさん記憶力いいんだね」
「大したことはありませんが、数少ない特技です」
官僚になる前までは自分の記憶力がいいとは思っていなかった。それはアンドレの方がずっと物覚えが良かったからだ。だからか、古訓や聖典を書き写してこい、といった宿題が嫌いでよく手伝っていた。
「まあ、官僚試験首席合格の秀才だしね」
フィンの言葉に俺はぎこちなく笑顔を作った。フィンも俺のことを知っていたんだな。俺は少しがっかりした。つまり、フィンも俺にいい印象など一つもないのだ。それに、フィンにそんなつもりはないかもしれないが、皇太子の口利きで官僚試験を突破したとか裏金を払ったとか散々言われたから官僚試験にはいい思い出がない。そもそも下働きと毒見の生活が嫌で官僚になったのに官僚になってからの生活の方がずっと辛かった。
「そう言えば官僚の仕事はどうするの?」
「辞めようと思ってます」
「へー」
それ以上何も言ってくることはなかった。
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