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第17話

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 続けて二度の絶頂を迎えた樹は、法悦境ほうえつきょうに浸りながら、梗一郎の独白をぼんやりと聞いていた。

(梗一郎さまが俺のことを好きだって……?)

 そんな奇跡が起こる筈がない。だって樹は、どう足掻あがいても『早乙女樹』にはなれないのだから。

 フッと自嘲気味に笑った樹の顔に影が落ちる。それをいぶかしく思うと同時に、樹が横たわっているベッドのスプリングが、ギシッと音を立てた。

(え……?)

 樹がわれに返った時には、もうなにもかもが手遅れだった。

「そなたが不安に思わなくなるくらい、全身全霊で愛してあげよう。……私の愛しい樹。その美しい肢体で、私がどれだけそなたを愛しているか、身を持って知るといい」

 そう言ってあやしく微笑んだ梗一郎は、呼吸ごと奪うように、樹の唇にむしゃぶりついた。

「っん、んん……っ!」

 唐突な口付けに息苦しくなって無理やり唇を話すと、樹が息を吸ったわずかな歯列の隙間から、薄くて熱い舌が入り込んできた。待ち望んでいた梗一郎の愛撫に陶然とうぜんとしかけた樹だったが、ほんの僅かに残っていた理性が、梗一郎の口付けを拒んだ。

 梗一郎の唇から逃れ、ハァッと熱い呼気をこぼした樹は、覚悟を決めた顔つきをして口を開いた。

「梗一郎さま。僕――俺は、早乙女樹じゃありません」

 そう言った瞬間、梗一郎の動きがピタリと止まった。しかし梗一郎の表情は動かない。ただひたすらに、樹の瞳を見つめているだけだ。

 樹はほんの少しだけ怖気付おじけづきつつも、焦げ茶色の瞳を真っ直ぐに見据えて、息を吸い込んだ。

「……信じられないかもしれませんが、本当なんです。俺は別の世界で死んで、魂だけの存在になって、早乙女さんの身体に憑依しました。だから……今、貴方の目の前にいるのは早乙女樹ではなく……山田樹という別の人間なんです」

「気づいていたよ」

「――え?」

 動じること無く言い切った梗一郎を、樹は信じられない思いで見つめた。すると梗一郎は、フッと切なそうに微笑んで、樹の額へ口付けを落とした。

「私は今、私の目の前にいる樹を愛している」

「そ、んな……嘘……だって、」

「嘘じゃない。私の魂にかけて誓おう。花ヶ前はながさき梗一郎は、山田樹に恋い焦がれている。……狂おしいほど愛しているよ。樹」

 その言葉を聞いた途端、樹の両目から、ポロポロと涙が零れ落ちた。

「う、れしい。嬉しいです、梗一郎さま。俺……俺も、梗一郎さまのことを愛しています」

 樹は梗一郎の顔を両手で包み込むと、蕾がほころぶように花笑みを浮かべた。

「梗一郎さま。俺を抱いてください。梗一郎さまのことしか考えられなくなるように……ん、んぅ」

 樹の言葉は梗一郎の口の中に吸い込まれていった。

(俺……凄く、幸せだ……)

 樹は生き物のように口腔内こうくうないを蹂躙する舌に翻弄されながから、もっともっとと、梗一郎の首に両腕を回したのだった。





 薄暗い室内に、ちゅぷちゅぷと淫猥な音が響きわたる。そしてその音に呼応するように、か細く、控えめな喘ぎ声を出しているのは樹だった。

「アッ、アッ、ン、ンン」

 梗一郎に乳首をいじめられて、樹は身をよじりながら自分の手の甲で口を塞ぐ。

「ん、んぅ、ん……っん」

 梗一郎は、むしゃぶりついていた樹の乳首の先端をぺろりと舐めた後、ハァと熱い呼気を吐いて樹の目尻に口付けを落とした。

「樹、声我慢しないで」

「で、でも梗一郎さ……ああ……っ!」

「ん、ちゅ、っはあ。樹の乳首ここは美味しいね。ここを舐めながら、樹の喘ぎ声を聞くと、凄く興奮する」

「なっ、そんなこと言わないでくださ――」

 梗一郎は樹の言葉を封じるように右の乳首をちゅぱちゅぱと吸った後、じゅるじゅると強く吸い付いて、左の乳首を親指の腹でこねくり回す。

「あっ、あっ、ああ……! それダメ。それダメなの……っ」

 感じやすい右の乳首ばかりを責められ、左の乳首をつまんだり押しつぶしたりされると、樹は声を抑えるのも忘れてイヤイヤと首を左右に振った。

 しかし、その姿を楽しげに眺めていた梗一郎に、

「嘘をつくのは良くないなぁ。ここを愛してあげたあと、軽く咬んでやると……」

 乳首の根本を噛んで引っ張られてしまう。痛いのに気持ちが良くて、樹はベッドのシーツを手繰り寄せ、

「ンン、あ~~っ!」

 背中を弓なりに反らし、目を見開いて涙を溢しながらビクビクと痙攣すると、力尽きてベッドに沈み込んだ。

 快楽に酔いしれ、とろけた瞳で天井を見つめる樹の唇に、梗一郎はちゅっと小鳥のように口付ける。そして「もういっかい」と口付けをせがんだ樹と濃厚な口付けを交わしたあと、梗一郎は樹の頭を優しく撫でながら、困ったように微笑みを浮かべた。

「樹の身体は、どこもかしこも敏感だね。とても愛らしいけれど、本番はまだこれからだよ?」

 そう言って、梗一郎は樹の足を開脚させると、尻たぶの奥に隠されていた淡い桃色の菊座きくざをするりと撫で上げる。すると、つい先程まで恍惚としていた樹は、サーッと顔を青ざめさせて飛び起きた。

「お、男同士って、やっぱり肛門ここを使うんですか……?」

「うーん。調べた限りではそのようだよ」

 完全におよび腰になってしまった樹は、ちらりと梗一郎の陰茎を盗み見た。

(で、でかい……! こんなモノアソコに入れるなんて、ぜってー無理だろ!?)

 樹はゴクリと生唾を飲み込むと、黙って梗一郎の様子を窺った。怯えの滲んだ視線に気がついた梗一郎は、樹を安心させるように、にっこりと微笑んだ。

「心配しなくても大丈夫だよ。ちゃんと勉強してきたし、できるだけ痛くないように頑張るからね」

 『ここでやめるのは許しません』と言わんばかりの微笑みに、樹は戦慄しながらも、素直にこくりと頷いた。
 
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