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弐
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「春節の宴の指揮をとっていたのはお義母様よ。そして、お義母様が手配なさった花火の火薬が原因で、あのような火災が起こった。……ということにすれば、罰を受けるのは劉氏ではなく、お義母様だったはず」
「ではやはり、殷貴妃は沈氏を排除する気はなかった、と?」
明全の言葉に、蘭花はふるふると首を左右に振った。
「……推測になるけれど、ついでに始末できればいい……その程度にしか考えていなかったのではないかしら。けれど、功を急いたのか何か理由があったのか……劉氏は殷貴妃の命令通りに動かなかった……」
――その結果、母は殺されてしまった。
蘭花は裳を握りしめて、細く長い息を吐き出した。
「王太女殿下。もしや殿下は、あちらは一枚岩ではない、とおっしゃりたいのですか?」
蘭花は明全に向かって頷いた。
「……本来、お母様は、薬かそれに代わる何かで眠らされる手筈になっていたのかもしれないわ」
「何故、そう思う?」と、慶虎は首を傾けた。
蘭花は乾いた唇をひと舐めしてから口を開いた。
「とある者から聞いた情報なのだけれど、劉氏の侍女である琴沙には、医術の心得があるそうなの。だからお母様は――」
「ちょっと待て。……お前。その話を誰から聞いた?」
慶虎に問われ、蘭花の肩が僅かに揺れる。――蘭花の脳裏によぎったのは、軒の……軒虎の顔だった。
(……軒。何故、私に内部の情報を漏らしたの? もしかして、私に危険を知らせようとしてくれていた……?)
蘭花は奥歯を噛み締めると、ただ黙って頭を振った。その態度を見ただけで、蘭花がこの件に関して説明する気はないと悟った慶虎は、はぁとため息をはいて話を続けるように促した。蘭花は内心で慶虎に感謝しながら口を開く。
「だからお母様は、真の標的ではなかったということになるわ。……けれど、お母様が亡くなってしまった今。殷貴妃の計画が前倒しになる可能性がある。そしておそらく、次の標的は――」
「母上、か」
慶虎の言葉に、蘭花は「その通りよ」と返した。
「……それで? お前はどうするつもりなんだ?」
言って、慶虎は両腕を組んだ。
蘭花はごくりと生唾を飲み込むと――
「ではやはり、殷貴妃は沈氏を排除する気はなかった、と?」
明全の言葉に、蘭花はふるふると首を左右に振った。
「……推測になるけれど、ついでに始末できればいい……その程度にしか考えていなかったのではないかしら。けれど、功を急いたのか何か理由があったのか……劉氏は殷貴妃の命令通りに動かなかった……」
――その結果、母は殺されてしまった。
蘭花は裳を握りしめて、細く長い息を吐き出した。
「王太女殿下。もしや殿下は、あちらは一枚岩ではない、とおっしゃりたいのですか?」
蘭花は明全に向かって頷いた。
「……本来、お母様は、薬かそれに代わる何かで眠らされる手筈になっていたのかもしれないわ」
「何故、そう思う?」と、慶虎は首を傾けた。
蘭花は乾いた唇をひと舐めしてから口を開いた。
「とある者から聞いた情報なのだけれど、劉氏の侍女である琴沙には、医術の心得があるそうなの。だからお母様は――」
「ちょっと待て。……お前。その話を誰から聞いた?」
慶虎に問われ、蘭花の肩が僅かに揺れる。――蘭花の脳裏によぎったのは、軒の……軒虎の顔だった。
(……軒。何故、私に内部の情報を漏らしたの? もしかして、私に危険を知らせようとしてくれていた……?)
蘭花は奥歯を噛み締めると、ただ黙って頭を振った。その態度を見ただけで、蘭花がこの件に関して説明する気はないと悟った慶虎は、はぁとため息をはいて話を続けるように促した。蘭花は内心で慶虎に感謝しながら口を開く。
「だからお母様は、真の標的ではなかったということになるわ。……けれど、お母様が亡くなってしまった今。殷貴妃の計画が前倒しになる可能性がある。そしておそらく、次の標的は――」
「母上、か」
慶虎の言葉に、蘭花は「その通りよ」と返した。
「……それで? お前はどうするつもりなんだ?」
言って、慶虎は両腕を組んだ。
蘭花はごくりと生唾を飲み込むと――
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