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第十六話 淡雪 壱
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追悼の鐘の音と大勢の泣き声が響き渡る後宮。
軒虎は、その故人――小蘭の母である沈氏――を失った悲しみの声から逃れて、静謐で穏やかな時が流れる御華園に来ていた。
軒虎は四阿の柵に腰掛け、煙管で煙草を吹かしていた。柱に背を預け、あぐらを組んだ衣の上に、淡雪が舞い降りては泡のように消えていく。小蘭の涙に似た淡雪をぼうっと眺めては、狂おしいほどの愛しさと、激しい喉の乾きを覚える。
「小蘭……」
愛しい少女の名を呼び、軒虎は左の手のひらを、宙に差し出した。すると、淡雪の一つが意思を持っているかのように、はらりはらりと舞い降りてきた。そうして軒虎の手のひらに着地すると、淡雪は溶けることなく原型をとどめた。このあり得ない現象に、軒虎は姿勢を正して目を見張る。
「アンタ……小蘭か?」
雪は当然答えない。当たり前のことだが、軒虎はがっかりと肩を落とした。すると不思議なことに、溶ける気配のない淡雪が、手のひらの上をころころと転がった。『軒。私よ。あなたの小蘭よ』と、言われている気がして、軒虎の心臓がトクンと高鳴った。
『軒。愛しているわ』
「ああ、俺も小蘭を愛してる」
軒虎は花の甘い蜜に惹かれる蝶のように、自然と淡雪に口づけた。熱を帯びた唇が触れた瞬間、淡雪は夢のように溶けてなくなった。手のひらに、雫一滴残さず消えていった淡雪。軒虎は泣きたい気持ちを抑えるために、交領の合わせ目をぎゅっと握りしめた。
軒虎は、その故人――小蘭の母である沈氏――を失った悲しみの声から逃れて、静謐で穏やかな時が流れる御華園に来ていた。
軒虎は四阿の柵に腰掛け、煙管で煙草を吹かしていた。柱に背を預け、あぐらを組んだ衣の上に、淡雪が舞い降りては泡のように消えていく。小蘭の涙に似た淡雪をぼうっと眺めては、狂おしいほどの愛しさと、激しい喉の乾きを覚える。
「小蘭……」
愛しい少女の名を呼び、軒虎は左の手のひらを、宙に差し出した。すると、淡雪の一つが意思を持っているかのように、はらりはらりと舞い降りてきた。そうして軒虎の手のひらに着地すると、淡雪は溶けることなく原型をとどめた。このあり得ない現象に、軒虎は姿勢を正して目を見張る。
「アンタ……小蘭か?」
雪は当然答えない。当たり前のことだが、軒虎はがっかりと肩を落とした。すると不思議なことに、溶ける気配のない淡雪が、手のひらの上をころころと転がった。『軒。私よ。あなたの小蘭よ』と、言われている気がして、軒虎の心臓がトクンと高鳴った。
『軒。愛しているわ』
「ああ、俺も小蘭を愛してる」
軒虎は花の甘い蜜に惹かれる蝶のように、自然と淡雪に口づけた。熱を帯びた唇が触れた瞬間、淡雪は夢のように溶けてなくなった。手のひらに、雫一滴残さず消えていった淡雪。軒虎は泣きたい気持ちを抑えるために、交領の合わせ目をぎゅっと握りしめた。
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