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参
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「……王太子殿下と王妃殿下の死に、殷氏が関わった可能性がある」
「っ、」
二人では抱えきれないほど罪深い話の内容に、蘭花は身震いする。それと同時に、点と点が繋がっていくことに、気持ちが昂ぶってもいた。
「……お兄様が亡くなられてすぐ、その地位についたのは第三王子殿下だったわ。第三王子殿下の母親はとうに亡くなられていて、劉賢妃が養育しているわよね? 殷貴妃と劉賢妃は不仲で有名だったから忘れていたけれど、劉賢妃のお母様と、殷貴妃のお母様は又従姉妹……」
「……おそらく、『不仲説』は隠れ蓑だ。殷貴妃が王妃になれば、劉賢妃は第三王子の養育権を殷貴妃に譲り渡すだろうね。そうなれば、殷貴妃は晴れて王太子殿下の嫡母になれるって計画だ」
「なのに、私に弟が出来てしまった……」
「蘭花の弟だ。もしかすると、君と同じように白氏の特徴が顕著に現れていたかもしれない。その上、転変までできてしまったら――」
「っ、そんなのただの憶測じゃないっ!」
蘭花が、卓を叩いて勢いよく立ち上がったせいで、がたーん! と椅子が後ろに倒れた。
明杰はその椅子を元の位置に戻したあと、ぶるぶると怒りに震える蘭花の肩に優しく手を置いた。
「殷氏にとっては脅威の存在だったんだ。君たち姉弟は」
明杰の言葉を聞きながら、蘭花は、自分の身体を掻き抱いた。
(出る杭は打たれる……お母様が弟を身ごもらなければあんなことは起きなかった?)
そう考えて、蘭花はふるふると頭を振った。
(……ううん。違うわ。私という、玉座に最も近い色を持った存在がいる限り、この計画は必ず実行されてしまう)
「まさか、全ての原因は私……?」
くらりとめまいがし、床に崩折れそうになった身体を、明杰がとっさに支えてくれる。蘭花は潤んだ瞳で明杰を見上げた。
「ミンジェ……わたし……どうしたらいいの……?」
しゃくりあげながら目を閉じると、蘭花の白くまろい頬に、一筋の涙がこぼれた。
目蓋の裏に、惨劇の光景が浮かぶ。
「わた、私のせいで……お母様は……っ! うっ……うぅ……私、死んでしまいたい……!」
明杰に縋りついたまま、蘭花はずるずると床にへたり込んだ。
蘭花の言葉に息を詰まらせていた明杰は、さっとしゃがみ込み、震える小さな身体を抱き寄せる。
「なんてことを言うんだ、蘭花! そんな悲しいことを言わないでくれ……! 私たちは結婚するのだろう?」
「でもこのままだと、あなたはまた、白蘭玲と……っ」
「二人で未来を変えるんだ」
蘭花は目を見開いて明杰を見た。
二人の視線が交錯する。
藍色の瞳に宿る強い意志を感じ取った蘭花は、消えかけていた復讐心を蘇らせた。
(そうよ。私は復讐するためにここにいるんだわ)
蘭花は深く息を吸い込みながら目蓋を閉じる。
(思い出すのよ、蘭花。目の前で惨殺された、大切な人たちの姿を……!)
衛士に斬り殺された沈氏。
蘭花の無実を証明すると言って、慎刑司で拷問を受けて死んだ小梅と小菊。
蘭花の目の前で撲殺された阿明。
そして――
おそらく、王太子殿下から引き離す目的で、白蘭玲と婚姻させられた明杰。
(私の大切な人たち……。今度こそ、守ってみせる……!)
蘭花は目を見開くと、力強く頷いた。
「っ、」
二人では抱えきれないほど罪深い話の内容に、蘭花は身震いする。それと同時に、点と点が繋がっていくことに、気持ちが昂ぶってもいた。
「……お兄様が亡くなられてすぐ、その地位についたのは第三王子殿下だったわ。第三王子殿下の母親はとうに亡くなられていて、劉賢妃が養育しているわよね? 殷貴妃と劉賢妃は不仲で有名だったから忘れていたけれど、劉賢妃のお母様と、殷貴妃のお母様は又従姉妹……」
「……おそらく、『不仲説』は隠れ蓑だ。殷貴妃が王妃になれば、劉賢妃は第三王子の養育権を殷貴妃に譲り渡すだろうね。そうなれば、殷貴妃は晴れて王太子殿下の嫡母になれるって計画だ」
「なのに、私に弟が出来てしまった……」
「蘭花の弟だ。もしかすると、君と同じように白氏の特徴が顕著に現れていたかもしれない。その上、転変までできてしまったら――」
「っ、そんなのただの憶測じゃないっ!」
蘭花が、卓を叩いて勢いよく立ち上がったせいで、がたーん! と椅子が後ろに倒れた。
明杰はその椅子を元の位置に戻したあと、ぶるぶると怒りに震える蘭花の肩に優しく手を置いた。
「殷氏にとっては脅威の存在だったんだ。君たち姉弟は」
明杰の言葉を聞きながら、蘭花は、自分の身体を掻き抱いた。
(出る杭は打たれる……お母様が弟を身ごもらなければあんなことは起きなかった?)
そう考えて、蘭花はふるふると頭を振った。
(……ううん。違うわ。私という、玉座に最も近い色を持った存在がいる限り、この計画は必ず実行されてしまう)
「まさか、全ての原因は私……?」
くらりとめまいがし、床に崩折れそうになった身体を、明杰がとっさに支えてくれる。蘭花は潤んだ瞳で明杰を見上げた。
「ミンジェ……わたし……どうしたらいいの……?」
しゃくりあげながら目を閉じると、蘭花の白くまろい頬に、一筋の涙がこぼれた。
目蓋の裏に、惨劇の光景が浮かぶ。
「わた、私のせいで……お母様は……っ! うっ……うぅ……私、死んでしまいたい……!」
明杰に縋りついたまま、蘭花はずるずると床にへたり込んだ。
蘭花の言葉に息を詰まらせていた明杰は、さっとしゃがみ込み、震える小さな身体を抱き寄せる。
「なんてことを言うんだ、蘭花! そんな悲しいことを言わないでくれ……! 私たちは結婚するのだろう?」
「でもこのままだと、あなたはまた、白蘭玲と……っ」
「二人で未来を変えるんだ」
蘭花は目を見開いて明杰を見た。
二人の視線が交錯する。
藍色の瞳に宿る強い意志を感じ取った蘭花は、消えかけていた復讐心を蘇らせた。
(そうよ。私は復讐するためにここにいるんだわ)
蘭花は深く息を吸い込みながら目蓋を閉じる。
(思い出すのよ、蘭花。目の前で惨殺された、大切な人たちの姿を……!)
衛士に斬り殺された沈氏。
蘭花の無実を証明すると言って、慎刑司で拷問を受けて死んだ小梅と小菊。
蘭花の目の前で撲殺された阿明。
そして――
おそらく、王太子殿下から引き離す目的で、白蘭玲と婚姻させられた明杰。
(私の大切な人たち……。今度こそ、守ってみせる……!)
蘭花は目を見開くと、力強く頷いた。
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