スター・スフィア-異世界冒険はお喋り宝石と共に-

黒河ハル

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第2話ガルドの村(後編)

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 フレイが出ていってから数分後、俺だけポツンと席に座ってて寂しい食堂にあれよあれよという間に続々と村の人達が入ってきた。

 食堂はまるでBBQを開催してるかのような活気を見せ始めていた。

 そして俺はというと、数人のエルフのお兄さん達に囲まれてしまっていた…。

 しかもその人達は村長さんに負けず劣らず、厳つい顔つきとムキムキのボディを有していた。
 十中八九、村の戦士というのはこの人達のことだろう。


「おぅ、お前さんが黒竜ブラック・ドラゴンをぶちのめしたマミヤ・レイトっつーもんか?」

「は、はいぃぃ! そうです!」


 やべぇ、その道を極めし者に絡まれてるみたいになった!
 どうしよう、俺はただの一般人バンビなんですぅぅ!

 こういう人達にはくれぐれも調子に乗ってると思われてはいけない。
 慎重に言葉を選ばなければ…!


「おめぇやるじゃねぇか!
 あのクソドラゴンは最近この辺をウロウロしててやがってよ。
 オレらも奴に煮え湯を飲まされていたんだ!
 フレイさんからも少し聞いたが、その戦い…俺も見てみたかったぜ」


 あ、あれ? 意外と好印象のようだ。
 だけど炎で焼かれそうになったり、空中から顔面着地とケツ着地を決めたり、結構ダサい戦い方だったんですよ…。
 フレイのやつそこら辺は言わなかったのか?

 村のマッチョ達と会話しているとテーブルに次々と料理が運ばれてきた。
 ……むおお! めっちゃ良い匂いするッ!
 どれもこれも見た事がない品々で、匂いだけで昇天しそうなくらい美味しそうだ。


「零人! 見てみろ、この食べ物はなんだ!?
 味を確かめなければならんな!」

「俺もこの世界に来たばっかりなんだから分からんて!
 けど、たしかに美味そうだな!」


 俺達の前に運ばれてきたのは骨付き肉にサラダボウル、熱々のスープ、そしてこれはパン…いやサンドイッチかな?
 腹が減ってる分、全ての料理がキラキラ輝く宝石に見えた。

 俺とルカが料理にヨダレを垂らしていると、隣に村長さんがやって来てパンパンと手を打った。


「さて、皆の衆。
 既にある程度知れ渡ったと思うが、今日は新しい仲間を紹介する。
 ここにいるマミヤ・レイト君は、なんと!
 あの黒竜ブラック・ドラゴンを撃退した青年だ!」

「「「おおーーー!!!」」」

パチパチパチ!

 場は一気に盛り上がり、歓声と拍手が鳴り響いた。
 お、おう、初めての経験だ。
 どう反応すればいいんだコレ?


「さて、レイト君。何か一言挨拶を」

「あ、は、はい!」


 村長さんに背中を押され、場の中心へ立つと皆の視線が一斉に注がれた。
 やっば、この感じ久しぶりだなー…。


「えーと、ご紹介にあずかりました、間宮 零人です。
 本日はこのような会を開催して下さり、ありがとうございます。
 自分はこの世界へ来てまだ日が浅いこともあり、皆さんにはいろいろご迷惑をかけるかと思いますが、助けて頂いた分を精一杯お返しできればと思います。
 えっと、これからよろしくお願いします!」


 言い終えるとパチパチパチと再び拍手が鳴り響いた。

 よ、よかった…。
 バイトの歓迎会で挨拶した時の言葉を少し改造したやつだけど、ちゃんと通じて安心したぜ。
 再び村長が来て下がるように合図された。

 ふう…。

 胸を撫で下ろしていると、トントンと肩をフレイに叩かれた。


「あんた良くあんなスラスラ言葉が出てくるわね。
 ああいうの慣れてるの?」

「まぁそうだな。
 俺の世界で暮らしていくには、さっきみたいな台詞も覚えとかなきゃいけないんだ。
 これでも結構緊張したんだぞー?」

「ふーん、そうは見えなかったけど」


 大勢の前に立つのは誰だって緊張するだろうよ。
 逆にフレイはこういう事には慣れてなさそうだ。
 言うとキレそうだから黙ってるけど。

 村長さんの挨拶が終わり、いよいよご飯にありつく瞬間がやってきた!


「さぁ、今宵は宴だ!
 我らガルド流のもてなしをレイト君に存分に堪能してもらおうではないか!」

「「「おおお!!!」」」

「みな、杯を持て!
 新たなる出会いにぃ、乾杯!!!」

「「「かんぱぁぁぁい!!!」」」


 ゴクゴクゴクとジョッキに注がれたお酒を、一気に乾いた喉へぶち込む!

 くぅぅぅぅ!!!

 のどごし最高! 
 しかもフルーティーなうえに爽快感あってめっちゃうめぇなコレ!
 あとでフレイに何の酒か聞いてみよ。

 そこから先は俺とルカは初めて食べる異世界料理に舌鼓を打った。

 やべぇ、何を食べても何を飲んでも美味しい…。

 数時間前に死にかけたせいもあるが、『生きてて良かった』と、心からそう思えた。
 結構ハイペースで食べているつもりだけど、俺以上にルカがとんでもなかった。


「む! この肉はとてもジューシーだ。
 おお! このスープはなんとも言えないコクがあるな!」


 テーブルに載せられた食べ物がシュポンシュポンと次々消え失せる。
 ルカさん、ちゃんと味わって食ってんだろな?


☆☆☆


 夢のような時間を過ごしていたが、円もたけなわでそろそろお開きになった。


「レイト、ルカ。
 あなた達の部屋を案内するわ。
 ついて来なさい」

「あ、うん。
 けど片付けは手伝わなくていいのか?
 こんなにご馳走様してもらったし…」

「あんた生活魔法が使えないんでしょう?
 逆に足手まといになるわよ」


 そう言われ周りを見てみると…


「『清掃クリア』!
 まったく今日も派手に散らかしてったもんだねぇ」

「ホントよねぇ。
 節度を持って飲みなさいってのよね。
 『洗浄ウォッシュ』!」


 エルフのおばちゃん達が魔法を使ってせっせと飲んだ酒瓶やゴミを纏めたり、何も無いところから水が出てきて一瞬で皿やテーブルを綺麗にしていった。

 ………異世界パねぇ。


「さ、分かったならとっとと行きましょ。
 絵本の約束もあるでしょ?」

「そうだな。
 俺たちにとってはそれがいちばんのメインディッシュだ」

「ああ。シュバルツァー、暫く厄介になるぞ」

「ええ。こっちよ」


 トントンと階段を上がり廊下の突き当たりの部屋へ来た。


「ここよ」


ガチャっと扉を開け入ってみると、部屋の中は八畳くらいの広さだった。
 綺麗な状態のテーブルを挟んでソファが二組、そして壁際にベッドが置かれていた。

 結構手入れがされてある部屋だな…。
 こんな良い部屋、俺たちが使っても良いのだろうか?
 キョロキョロと見回していると、とある物が目についた。


「なあ、フレイ。これって化粧台ドレッサーだよな?
 もしかして誰かの部屋なのか?」

「ええ。ここは元々、私のママの部屋なのよ」

「!」


 やはり、そうか。
 そして今日その人に会わなかったという事は…


「ママはね、10年前に病気で亡くなったの」


 シュバルツァー家に到着して、挨拶した時に薄々予想していたが…。


「ママが亡くなった時、私はまだ10歳の子供でね…。
 その事実を受け止められずにいたわ」

「フレイ…」


 可哀想に…。
 10歳ならまだまだ甘えたい年頃だろうに。


「私は生活魔法は地味だから嫌いで滅多に使わなかったけど、ママの部屋だけは掃除をがんばっていたわ。
 いつかママが帰ってくる…そう信じて、ね」

「……………」


 あかん、やばい…。
 来ちゃう…。


「だけど、私ももう大人だしいい加減気持ちを切り替えないとね。
 じゃないと天国のママに笑われ…ってどうしたのよ!?」

「グスッ! うぅぅ~…!
 お前、そんな話聞いてこの部屋を使えるわけないだろぉ!
 うぅ…き、決めた! 俺、野宿する!」


 涙がチョチョギレて止まらなくなった。
 ダメなんだよ、俺こういうの!
 泣きながら部屋を後にしようとすると、フレイが腕を掴んできた。


「はぁ!? 何言ってんのよ!
 バカな事言ってないでこっちへ来なさい!」

「だって、だってよぉぉ!! うあああん!」


 涙腺ダムがとうとう決壊いたしました。
 もうお水がダバダバ状態です。


「零人! 落ち着け!
 ま、まさか君がこんなに涙脆いとは…」

「ど、どうしようルカ?
 私、大の大人が泣いてるのって初めてなんだけど…」

「とりあえず泣き止むまで泣かせるしかないだろう…。
 おそらく、酒の影響もあるはずだからな」

「そ、そうね! 私、お水持ってくるわ!」


 ☆☆☆


「まったく、散々だったな…」

「ええ、少しは落ち着いたレイト?」

「ヂーン! ああ、ごめんよ二人とも…」


 ティッシュをもらい鼻水と涙を拭き取る。
 ルカとフレイに慰めてもらい、ようやく冷静さを取り戻すことができた。
 俺が完全に泣き止むまで30分くらい掛かったらしい。

 ああ…この悪い癖、治ったと思ったのに…。


「それで、レイト。これが約束の本よ」


 ソファに座っている俺の向かいから、フレイが例のブツを渡してきた。

 むう、タイトル名がデカデカと載っているけど読めないぞ…。
 まったく見たことない文字だな。

 カラフルな宝石が5つと、1匹の黒い獣のような動物が可愛らしい絵柄で表紙を飾っている。
 あ、宝石のうちの一つに蒼い宝石が描かれている…。


「これが『スター・スフィア』…。
 見た目はただの童話の絵本って感じだな」

「レイトの世界ではどうか分からないけど、こういう絵本ってね、できるだけ実話をモデルにしてるストーリーが多いのよ。
 だから信憑性はあると思うわ」

「ふむ、ますます興味深いな。
 早速読んでみるか」


 俺とルカが本を開こうとした瞬間、フレイが待ったをかけた。


「せっかくだし私が朗読してあげるわ。
レイト、ルカ、こっちへいらっしゃい」

「あ、うん。ありがとう」

「了解だ」


 つーかよく考えたら、文字読めないのに絵本を読める訳ないじゃん!
 バカか俺は。
 いそいそとフレイの隣に座る。


「ホラ、もっと顔近づけなさいよ」


 すると彼女は腕と腕がくっつきそうなくらいに身体ごと絵本を近づいてきた!

 わーなんかいい匂いがする…。
 ぽけーっとしてると、ルカが目の前にギュンっと現れた!


「零人? 何やら邪な気配を感じるな?」

「は、はぁ!? そ、そんなことねぇし!?」

「ほら2人とも! 読むわよ!」


 そして、フレデリカ・シュバルツァーの朗読劇が開幕した。






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