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第305話:双頭竜の人化
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「ただいま…」
「戻ったぞ」
「あ! レイト、ルカ!」
『双頭竜』をどこかに連れてったアリサと別れ、俺たちは村へ戻ってきた。
入り口には、エドウィンを始めとする村の戦士たちが集まってきていたが、とりあえず追い返したと報告を済ませた。
イザークには本当の事情を伝えている。
そしてミアの宿へ戻ってくるなり、戦闘の準備をしていたみんなが駆け寄ってきた。
おっさんとカーティス以外は全員居るみたいだ。
「………というわけで、今からここに双頭竜が来るって。
ミア! 悪いけど、追加料理頼むわ!」
「わ、分かったわ。
でもカーティスちゃん見る限り、ドラゴンってたくさん食べるわよね…。
リック君、エリザベス、またお手伝いお願いしてもいい?」
「おう、任せろや! ヒャハハ、つかすげェな!
三体もドラゴン族が一堂に会するとはなァ」
「もちろんですミア。
荷造りは既に終えているので、本日は皆さまに付き従います」
「ふむ、ならば久しぶりに私も腕を振るおうか。
マミヤ邸に戻った時に『給仕』に復帰する肩慣らしにちょうどいい」
料理が得意なリックとザベっさん、そしてナディアさんは、ミアと一緒に飯を作ってくれるみたいだ。
…まったく、帰る前にとんだミッションだぜ。
「ああ、そうだそうだ。
誰かオズのおっさんとカーティスにこの件伝えといてくれ。
どうもドラゴン同士が同じ所にいっと、諍いが起きるみたいだからな」
おっさんとガイアしかり、カーティスとおっさんしかり、ドラゴンはたとえ同族でも近くにいると争う傾向にある。
もうこれ以上面倒ごとは増やしたくない。
「じゃああたしがオズおじさんに伝えるニャ。
たしか訓練所に居るニャ?」
「ではカーティスには俺が伝えてくる。
さっき起きてきたばかりで、若干フキゲンそうではあったけどな」
セリーヌとテオがその役を買ってでた。
よし、じゃああとは…
「フレイ、ルカ、シルヴィア。
お前らは俺と一緒に、みんなの荷物をキャラバンへ積み込む作業をするぞ」
「え~? 私もたまにみんなと料理したいわ」
「いやダメだ。
君は以前、自分でお菓子を作ろうとしてマミヤ邸の厨房を半壊させただろう。
ウォルトにこっぴどく叱られたことを忘れたのか?」
「あはは、そんなこともありましたね。
思い出したら早く屋敷に帰りたくなりました」
☆☆☆
それから一時間後。
キャラバンの荷積み、双頭竜のための料理、その他諸々の作業を済ませた俺たちは、全員でアリサ達が来るのを待っていた。
「レイト様、一つ質問よろしいでしょうか?」
「ん? なんだザベっさん」
テーブルに肘掛けてスマホを弄ってると、妙に神妙な面持ちでザベっさんがやってきた。
他のみんなはお喋りしてたり、ルカが料理をつまみ食いしようとするのを阻止したりして、思い思いに待機している。
「レイト様たちが出会ったという『双頭竜』、もしや…?」
「ああ、多分ザベっさんが昔イタズラ仕掛けたとかいうドラゴンじゃねえかな。
…なんだ? 珍しく怖じ気付いちまったか?」
ニヤニヤと面白半分で聞いてみると、彼女は相変わらず無表情で首を横に振った。
「ドラゴンが私のことを見た瞬間、その場で暴れ出さないかと危惧しております。
当時は私を助けるために『戦乙女』がこっぴどく痛めつけてしまったので…」
「いやー大丈夫なんじゃないかな。
カーティスも言ってるけど、相手はドラゴンだし細かいことなんていちいち覚えてねえだろ」
「しかし…」
ガチャリ
ザベっさんを安心させようと言葉を巡らせていると、食事処の扉が開かれた。
来たか……って、アレ?
「連れてきたよーレイト。
おおっ。んん~、いい匂いだね!」
「貴様がお待ちかねの食べ物があるようだぞ。
これでいいのだろう双頭竜?」
「…………」
入ってきたのはアリサ、カンバク…そして二人の間にちょこんと挟まっている『人間の子供』だった。
……いま、カンバクの野郎『アンバイン』つったか?
「えっ、どうしたのよこの子?」
フレイがしゃがんで子供に目線を合わせた。
ポケ~としたとぼけた顔に茶髪のおかっぱ頭、クリクリとした眼をパチパチさせている。
よく見るとその子の頭には角、尻からちっちゃな尻尾が覗いていた。
…たしかアイツ人化魔法は使えないって言ってたはずじゃ…?
「だからこれが『双頭竜』だよ。
ちょいと見た目ちっちゃくし過ぎたけど…」
「ええっ!?」
驚くフレイに合わせるように、さらにもう一人…いやもう一体の『魔物』が食事処に入ってきた。
「俺ちゃんの魔法で生まれ変わらせたんだぜー!
まったく、コイツ身体デカすぎだから思ったより時間かかっちまったぜ!」
「「「!!!」」」
弟のカンバクが己の身に宿している伝説の魔物『鴉獣』。
なるほど…。その手があったか。
「究極魔法『変身』で無理やり『竜人《ドラゴニュート》』に変えたんだ。
…まったく、姉さんがコイツを連れてきた時は何事かと…いや、これは僕の責任でもあるか」
「………………」
カンバクがため息混じりに肩をすくめると、カンバクの脚に片手を添えていた双頭竜が手を離し、ヨタヨタと不安定な足取りで、料理の載せられたテーブルの所へ近づき始めた。
コテンッ
「「「!?」」」
あっ! 転けちゃった!
「ああっ!?
まだ身体が慣れてないって言ってるじゃん!
ウチ抱っこするって言ってるのに、なんでお前無理に歩こうとするの…」
「…………(プイッ)」
アリサが駆け寄ってその小さな身体を支えようとするも、双頭竜は無視して再びフラフラと歩き出した。
……な、なんというか…。
「「可愛いー!!!」」
おそらく全員が心の中で抱いているであろう感想を、ミアとシルヴィアは揃えて口に出した。
「戻ったぞ」
「あ! レイト、ルカ!」
『双頭竜』をどこかに連れてったアリサと別れ、俺たちは村へ戻ってきた。
入り口には、エドウィンを始めとする村の戦士たちが集まってきていたが、とりあえず追い返したと報告を済ませた。
イザークには本当の事情を伝えている。
そしてミアの宿へ戻ってくるなり、戦闘の準備をしていたみんなが駆け寄ってきた。
おっさんとカーティス以外は全員居るみたいだ。
「………というわけで、今からここに双頭竜が来るって。
ミア! 悪いけど、追加料理頼むわ!」
「わ、分かったわ。
でもカーティスちゃん見る限り、ドラゴンってたくさん食べるわよね…。
リック君、エリザベス、またお手伝いお願いしてもいい?」
「おう、任せろや! ヒャハハ、つかすげェな!
三体もドラゴン族が一堂に会するとはなァ」
「もちろんですミア。
荷造りは既に終えているので、本日は皆さまに付き従います」
「ふむ、ならば久しぶりに私も腕を振るおうか。
マミヤ邸に戻った時に『給仕』に復帰する肩慣らしにちょうどいい」
料理が得意なリックとザベっさん、そしてナディアさんは、ミアと一緒に飯を作ってくれるみたいだ。
…まったく、帰る前にとんだミッションだぜ。
「ああ、そうだそうだ。
誰かオズのおっさんとカーティスにこの件伝えといてくれ。
どうもドラゴン同士が同じ所にいっと、諍いが起きるみたいだからな」
おっさんとガイアしかり、カーティスとおっさんしかり、ドラゴンはたとえ同族でも近くにいると争う傾向にある。
もうこれ以上面倒ごとは増やしたくない。
「じゃああたしがオズおじさんに伝えるニャ。
たしか訓練所に居るニャ?」
「ではカーティスには俺が伝えてくる。
さっき起きてきたばかりで、若干フキゲンそうではあったけどな」
セリーヌとテオがその役を買ってでた。
よし、じゃああとは…
「フレイ、ルカ、シルヴィア。
お前らは俺と一緒に、みんなの荷物をキャラバンへ積み込む作業をするぞ」
「え~? 私もたまにみんなと料理したいわ」
「いやダメだ。
君は以前、自分でお菓子を作ろうとしてマミヤ邸の厨房を半壊させただろう。
ウォルトにこっぴどく叱られたことを忘れたのか?」
「あはは、そんなこともありましたね。
思い出したら早く屋敷に帰りたくなりました」
☆☆☆
それから一時間後。
キャラバンの荷積み、双頭竜のための料理、その他諸々の作業を済ませた俺たちは、全員でアリサ達が来るのを待っていた。
「レイト様、一つ質問よろしいでしょうか?」
「ん? なんだザベっさん」
テーブルに肘掛けてスマホを弄ってると、妙に神妙な面持ちでザベっさんがやってきた。
他のみんなはお喋りしてたり、ルカが料理をつまみ食いしようとするのを阻止したりして、思い思いに待機している。
「レイト様たちが出会ったという『双頭竜』、もしや…?」
「ああ、多分ザベっさんが昔イタズラ仕掛けたとかいうドラゴンじゃねえかな。
…なんだ? 珍しく怖じ気付いちまったか?」
ニヤニヤと面白半分で聞いてみると、彼女は相変わらず無表情で首を横に振った。
「ドラゴンが私のことを見た瞬間、その場で暴れ出さないかと危惧しております。
当時は私を助けるために『戦乙女』がこっぴどく痛めつけてしまったので…」
「いやー大丈夫なんじゃないかな。
カーティスも言ってるけど、相手はドラゴンだし細かいことなんていちいち覚えてねえだろ」
「しかし…」
ガチャリ
ザベっさんを安心させようと言葉を巡らせていると、食事処の扉が開かれた。
来たか……って、アレ?
「連れてきたよーレイト。
おおっ。んん~、いい匂いだね!」
「貴様がお待ちかねの食べ物があるようだぞ。
これでいいのだろう双頭竜?」
「…………」
入ってきたのはアリサ、カンバク…そして二人の間にちょこんと挟まっている『人間の子供』だった。
……いま、カンバクの野郎『アンバイン』つったか?
「えっ、どうしたのよこの子?」
フレイがしゃがんで子供に目線を合わせた。
ポケ~としたとぼけた顔に茶髪のおかっぱ頭、クリクリとした眼をパチパチさせている。
よく見るとその子の頭には角、尻からちっちゃな尻尾が覗いていた。
…たしかアイツ人化魔法は使えないって言ってたはずじゃ…?
「だからこれが『双頭竜』だよ。
ちょいと見た目ちっちゃくし過ぎたけど…」
「ええっ!?」
驚くフレイに合わせるように、さらにもう一人…いやもう一体の『魔物』が食事処に入ってきた。
「俺ちゃんの魔法で生まれ変わらせたんだぜー!
まったく、コイツ身体デカすぎだから思ったより時間かかっちまったぜ!」
「「「!!!」」」
弟のカンバクが己の身に宿している伝説の魔物『鴉獣』。
なるほど…。その手があったか。
「究極魔法『変身』で無理やり『竜人《ドラゴニュート》』に変えたんだ。
…まったく、姉さんがコイツを連れてきた時は何事かと…いや、これは僕の責任でもあるか」
「………………」
カンバクがため息混じりに肩をすくめると、カンバクの脚に片手を添えていた双頭竜が手を離し、ヨタヨタと不安定な足取りで、料理の載せられたテーブルの所へ近づき始めた。
コテンッ
「「「!?」」」
あっ! 転けちゃった!
「ああっ!?
まだ身体が慣れてないって言ってるじゃん!
ウチ抱っこするって言ってるのに、なんでお前無理に歩こうとするの…」
「…………(プイッ)」
アリサが駆け寄ってその小さな身体を支えようとするも、双頭竜は無視して再びフラフラと歩き出した。
……な、なんというか…。
「「可愛いー!!!」」
おそらく全員が心の中で抱いているであろう感想を、ミアとシルヴィアは揃えて口に出した。
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