スター・スフィア-異世界冒険はお喋り宝石と共に-

黒河ハル

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第296話:果てる運命

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「ぐあああああああああ!!!!!」

「ラド……ぎゃあああああああ!!?」


 魔法名コードを口にした刹那、両の盾から凄まじいエネルギー波動が放出された。
 その攻撃は上空からの落下の衝撃も相まって、辺りの木々が揺れるほどの地響きを誘発する。
 そして肝心の結果は、飛竜ワイバーンの頑丈な鱗を貫通し、下じきになった獅蛇羊キメラごと粉々に打ち砕いた!

 す、すげえ…!
 『竜ノ慟哭ドラグ・ラメント』…ここまでの威力だったのか…。


「な…なんだ…!? 何が、起こった!?」

「ラドン様が…ラドン様が死んだ!?」

「蒼いニンゲン…? ああっ!? 
 コイツ、例の宝石スフィア野郎じゃねえか!?」

「に、逃げろ…! 退却するぞおおおお!!」


 落下地点には獅蛇羊キメラだけではなく、他の大型の魔物も数体存在していた。
 そして自分らの大将のぐちゃぐちゃに潰れた姿を見ると、この戦の『敗北』を悟ったのか全員一目散に逃げ出していく。


「周囲に敵性反応なし。オールクリア。
 良くやったな、零人…お疲れ様だ」

「ああ…。つ、つっかれたぁ~!」

ドサッ

 風穴の空いたラドンの身体から転げ落ちるように、俺は草っぱの地面へ這いつくばった。
 ……身体もメンタルも、なにもかもが痛え。
 今日は…マジで残業し過ぎた。
 帰ってゆっくり寝たい。


「まだ終わってはいないぞ……!!!」

「「…ッ!?」」


 なに!? この声は…!
 反射的に飛び起き、飛竜ワイバーンの方へ視線を向けると、朽ちていく飛竜ワイバーンの死体の上に、『犬妖精クー・シー』…ラドンが立っていた!


「ご、ゴボッ…!
 しょ、勝負は…まだ、ついていないぞ!
 マミヤァ…レイト!!!」

「マジかよ…」

「フン、死に損ないが。
 誰かのように生命力の強いヤツだ」


 しかし、野郎の身体は血にまみれており、寄生パラサイトで取り付いていた飛竜ワイバーンのダメージをいくつか受け継いでいた。
 つまり…満身創痍ってやつだ。


[通知:全リソースを消費したためスリープモードへ移行]

<ああごめんねマミヤ様! ここでお別れみたい!
 またのご利用待ってまーす!>

「えっ!? あっ…」


 当然というか、分かっていたことではあったが、仮面遊戯ペルソナの動力が切れた。
 HUDの表示が消え、視界は裸眼で見る景色に戻る。
 …俺たちをこんな状況にして電池切れやがったチクショウめ!


「残り星力アストラム3%…いや2%…。
 くっ、こちらももうギリギリだぞ…!」

「な、なんだと!?」


 たったの2%程度じゃ転移テレポートはおろか座標すら作れねえぞ!
 クソ…もし気絶でもしたら一巻の終わりだ!


「ハァ…、ハァ…!
 僕は…僕は、ラドン師団を…率いる魔族だぞ。
 お、お前みたいなヤツに……!
 敗ける…わけに…は!」


 ラドンは息を激しく切らし、片脚を引きずりながら、三又槍を支え棒にしてこちらへゆっくり接近してきた。
 アイツ…なんでそこまでして…?
 いや、今はそんなこと考える余裕なんざない!

 頼みの綱のアリサもどうやらまだ上の方で道草を食ってやがる。
 しょうがねえ、こうなったら…!


「ルカ! 『融解メルトロ』を解除しろ!
 あとは俺がアイツとケリをつける!」

「なっ…!? バ、バカなことを言うな!
 君こそもうボロボロの身だろう!」

「この状態で星力アストラムが切れることの方が危ないだろ!?
 ここで気絶なんかしたら、俺もお前も身動き取れなくなっちまうんだぞ!」

「ぐっ…! わ、分かった…」

シュウウン…

 俺の言い分を理解してくれたのか、ルカはそれ以上反論をせずに合体を解いてくれた。
 両脚を地面に着地させ、星の重力を数時間ぶりに噛み締める。
 あ、あれっ…!?

グラッ…

「あっ!? おい零人! 大丈夫か!?」

「や、やべぇ…なんか立てないんだけど…」


 ……長らく空で闘い続け三半規管を苛め抜いた代償か、うまくバランスが取れずに敵の前で尻もちを着いてしまった。
 まずい…まずい!


「僕は…、僕はなぁ…!
 いずれ、この世界へ舞い戻る魔王サマのためにも…、こんな所で死ぬわけに」

「いいえ。
 あなたは今日、ここで果てる運命さだめです」

「「「!?」」」


 さらに後ろから、もう一人の乱入者が現れる。
 その人は俺と同じくらいボロボロになりながらも、凛々しく…得物である『弓銃クロスボウ』を構えていた。
 ……来てくれたのか、ザベっさん!!!!


「『幻霊射ファントム・ショット』」

ガキュンッ!

 銃身に載せられた一本の尖り矢が、機械仕掛けのギミックにより発射される。
 その弾道は鋭く、空気を裂いて一直線にラドンへ向かっていく。


「ぐああっ!!? な、なんだ…!?」


 しかし、ボルトはラドンの肩部へ命中してしまい、致命傷へは至らなかった。
 あれじゃあダメなのか!?


「……! また、外した…。
 ……いえ、次こそは…」

「痛いなクソがあああ! 何なんだよお前!?」


 ラドンは突き刺さったボルトを引き抜き、三又槍を彼女に向けた。
 ダメだ…ダメだダメだ!
 このクソったれが! 早く動けよ俺の脚!
 
 ルカに支えられながら必死に立ち上がろうとしてる最中、ザベっさんはレールの横から飛び出しているレバーを引いて、次の弾を装填しようとしていた。
 …しかし、ラドンがその隙を見逃すはずもなく、身体を大きく広げ、三又槍を投擲する構えをとった。


「この…アバズレがああ!
 僕を殺そうなんて百年早いんだよ!!
 『暗黒投槍ダークネス・ジャベリン』!」

「くっ…!?」


 転移テレポート…を…! クソ…無理だ!
 もうこのエネルギー量じゃ座標も作れやしない!
 投げられた三又槍は、そのままザベっさんの身体を貫…

ガキンッ!!!

「そうはさせないっての!」


 …く寸前、三度みたび、助っ人が現れる。
 改めて確認するまでもねぇ…空で共にダンスを踊ったアリサだ!


「…!? あなた…」

「えーと、たしかエリザベスだっけ?
 お前は引っ込んでなよ!
 アイツはウチが仕留める!」

「また…、お前かよ…ッ!
 アリサ・エボニィィィ!!!
 どいつもこいつもムカつく野郎どもだ!」


 



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