スター・スフィア-異世界冒険はお喋り宝石と共に-

黒河ハル

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第291話:命の恩竜

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☆ラドン・イシュタルsides☆


「ギャオオン!! ゴルルルル!!」

「この…! いい加減しつこいんだよお前!」


 胴体から二つの首を生やすドラゴン族の中でも危険な個体である『双頭竜アンバイン』。
 僕はこの魔物から執拗に追い回されていた。

 まったく、まさかこの空域がドラゴンのナワバリだったとはね…。
 コイツがマミヤ・レイトに見向きもせず真っ先にこちらへ牙を向いたのは、僕が『飛竜ワイバーン』の身体に寄生しているゆえに、脅威判定が上だったのだろう。

 つくづく運の良い男だ!


「吹き飛べ! 『二連竜撃ダブル・ドラグ・インパクト』!」

「グアアアンッ!?」

ボオオオンッ!


 両脚で双頭竜アンバインの両首を鷲掴みにし、流し込んだ魔力マナを爆発させる。
 これなら…!


「グルル……。グアア…!!」

「チッ、しぶとい竜め! 消えろ!!」


 この…死に損ないが!
 なら、もういちど『竜撃ドラグ・インパクト』を食らわせてやるぜ!
 再び魔力マナを集中させ、ドラゴンの元へ距離を一気に詰める。

ブン!

「おっと!
 命の恩竜おんじんにこれ以上手出しはさせないぜ!」

「ッ!?」
 

 突然、間に割って入ってきたのは…マミヤレイト。
 な、なんだ…!?
 さっきとは奴の魔力マナの種類が違う…。
 まさか、僕と同じ竜の魔力《マナ》か!?
 あの妙な仮面は…!?


「『悪魔デビル』にはなれねえが、代わりに『仮面強化ペルソレイド』システムの力を見せてやる。
 覚悟しろ! 前の俺とはひと味違うぜ!」

「ぺるそ……? うっ!?」


 マミヤレイトは何を考えたのか、瞬間移動の力を使わずに真っ直ぐ僕の方へ向かってきた!
 バカが…! それじゃあ格好の的だぜ!?


「今度こそ殺してやる! 『竜炎《ドラグ・フレイム》』!」


 口腔より生み出した魔力マナを搦めた炎の息、この世のほとんどのドラゴンが使える技だ。
 跡形もないほど消し炭にしてやるよ!


「敵性攻撃エネルギー急速接近。
 …『穴』を確認、ルート検出。
 右方へ45°転回マニューバ」

「了解!」

ギュルッ!

「なに!?」


 僕の攻撃を…すり抜けた!?
 バカな! 確かにいま当たったはず!

 マミヤレイトは蒼い輝きを放ちながら、目もくらむスピードで僕の懐へ飛び込み、両手に装備した盾を振りかぶった。


「よおラドン! 
 てめぇは『哀しき竜ファーブニル』の拳骨は食らったことはあるか!?
 ドラゴンの恐怖をたっぷりと味わえや!」

ドゴゴゴゴゴゴゴッ!!!

「があぁぁぁぁ!!?」


 い、痛い! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!
 なんだよこれえぇぇ!? 
 竜の魔力マナをなぜニンゲンが持っている!?


「はあああああああ!!!」

「ぐああああああ!!!」


 息つくヒマもないほど猛烈な殴打だ…!
 こ、こんな殺人的な力を隠してやがったのか!?
 な、なんとか…しないと!!
 仕方ない、もう一度『竜破撃ドラグ・ブラスト』を…!

キイィィン…


「…すごいな。ほぼ予想通りじゃないか。
 このシステムはいったい…?」

「ま、デズモンドとやり合った時は、少なくとも格闘戦じゃ負けなかったぜ。
 …と、急いで回避回避~と」

「あっ!?」

ブン!

ボオオンッ!

 くっ!? 瞬間移動を!? また避けられた!
 …さっきからどうなってる!?
 なぜいきなり攻撃がアイツに当たらなくなったんだ!?

ブン!

「どこ見てる? こっちだ!!」

ドゴッ!

「ガッ!?」


 間髪入れずに僕の背後へ回り込んできやがった!
 しまった! ここは奴の出現箇所だった!
 対処する間もなく、あっけなく後頭部に打撃をもらい脳を揺らされてしまう。

 反射的に身体を翻すがすでにその場には居なく、奴は双頭竜アンバインの傍へ移動していた。


「ギャアアアン……」

「お前、ドラゴンだし俺の言葉は分かるよな?
 さっきはどうもありがとよ。
 アンタのナワバリを荒らすつもりは無かったんだ。
 なるべく早くカタを付けるからさ。
 ここは俺に任せてくれないか?」

「…………ガウ」

「ああ、分かった。しっかりお灸を据えとく」


 …!? 野生のドラゴンと会話をしている!?
 な…! ニンゲンがなぜ!?
すると、 双頭竜アンバインは近くにニンゲンが居るにも関わらず、完全に背を向けて山の方へ戻って行った。
 ……なにもかも非常識だ、この男は!


「ク、クソ…! マミヤレイト!」

「ん? あはは、そう熱くなるなよラドン君。
 俺だって驚いてんだ。
 まさか下の魔族を取りまとめてる敵の大将が、仮面一つでここまでザコになっちまうとはな」

「……ッ!」


 あ、あのヤロウ…!!
 この僕を…コケにしやがって!
 僕は、魔王サマから師団を任された男だぞ!

 いや待て、仮面…? そうか…!
 どうして僕は忘れていた。
 出陣する前、瀕死のデズモンドが言っていたじゃないか。
 マミヤレイトは悪魔デビルの他にも妙なチカラを持っていると。

 祖国にも生息している『哀しき竜ファーブニル』…。

 にわかには信じられないけど、奴から発せられている魔力マナは紛れもなくそのドラゴンのものだ。
 コイツ…悪魔デビルを宿しておきながら、なぜそんな力に頼る!?

 ふざけるなよ…!
 『悪魔デビル』を宿せない僕を…嘲笑った奴らを見返すために『寄生パラサイト』を習得して…必死にドラゴンへ寄生する努力をした僕が惨めじゃないか…!


「許さない……!! たかがニンゲンの分際で…!
 貴様だけは…キサマだけは、僕が必ず殺す!」
 

☆間宮 零人sides☆


「ウオオオオオ…!!!」


 ラドンは前脚から展開した翼を折り畳み、翼膜にくるまるように身体を縮込めた…。
 なんだ…何をするつもりだ!?


「…あれは…?」

<マミヤ様! 敵の情報をアップデートするよ!
 詳しくはHUDを確認してね!
 ちょっと大変だけど、マミヤ様なら大丈夫!
 もうひと息だよ。がんばろうっ! >


 仮面遊戯ペルソナに搭載されている『哀しき竜ファーブニル』の人格が、元気な声で状況の変化を伝えてくる。
 その声とは対照的に真面目な口調でルカも警告してきた。


「零人…気をつけろ。
 どうやらあちらも『ひと肌』脱いだようだ」

「脱ぐ? えーと、どれどれ…。
 …あちゃあ、事かよ」


 俺がため息を吐いたタイミングで、画面越しの視界に日本語で文字がツラツラと書き込まれた。


[通知:敵個体の情報アップデート]

[更新内容:『脱皮』による戦闘力の引き上げ]

[推奨攻撃手段:『竜ノ慟哭ドラグ・ラメント』の発動]








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