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第272話:パウロの頼み

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「ニンゲンめえぇぇ!!
 調子くれてんじゃねえぞ!!」

「グルル…ッ! ウオオオオンッ!」

「うるせぇよ! いきがりザコどもが!
 弱いもんしか痛ぶれねえクズが偉そうに口聞いてんじゃねえ!!!」

「ピュイイイイッ!!!」


 隊長であるパウロはひとまずカンバクにまかせ、俺とブレイズは他の隊員を相手に戦闘を開始した。

 襲い来る黒獄犬ヘルハウンドを蹴飛ばし、ちょこまか動き回る針鼠獣ヘッジホッグ兎魔獣ラパンを踏みつけ、ブレイズは容赦なく魔物どもを叩き潰していく…。

 俺も魔物の血を引いている故か、はたまたブレイズが賢いのか、言葉が通じなくとも彼は俺の動きに完璧に合わせて闘っている…。
 フレデリカ嬢の村ではクルゥにいったいどんな教育を施しているのか。


「『乱馬連刃マスタング・ストリーク』!」

「ピュイイイイッ!!!」

「な、なんなんだよォ!?
 このクルゥと人狼ウェアウルフは!?
 マミヤレイトの一派にはこんなバケモンがいやがるのか!?」

「じょ、冗談じゃねぇ…!
 こんな所で死んでたまるか!!!」

「あっ!? オイてめえ! 一人だけ逃げんな!
 隊長を置いてくつもりか!?」


 俺たちの猛攻に、魔物どもは戦意を消失しつつあった。
 一匹が逃げ出すともう一匹…もう二匹と、次々と敵前逃亡をかましていく。

 ……つうか奴らが逃げ出した方角、セリーヌ達が向かって来ている方向なんだが。
 あれじゃあ逃げた先でアイツらに仕留められるのがオチだ。
 自分から誘い出しておいてそんなことも忘れたのか…?


☆カンバク・アイヴォリーsides☆


「『乱豹廻斬レパード・サークル』!」

「『乱鰐連舞ケイマン・ダンス』!」


 ラドン師団所属、奇襲隊長パウロ・マッシブと闘い始めてから数刻。

 僕の横では〝魔物化〟したテオマスカットと、なんとクルゥが肩を並べて配下の魔物どもと闘っていた!
 先ほどまで奴らに痛めつけられたのにもかかわらず、疲れやダメージを感じさせない見事な武闘だ。


「私と闘っている最中によそ見とは、ずいぶん余裕ですねぇ。
 しばらく見ない間に胆力でも鍛えられたのですか?」

「フン、どうかな。
 僕は元々周りを気にする性格なんでね。
 彼の戦闘技術を見るのは二回目だが、どうやらパートナーの影響か以前より戦闘力が上がっているようだ」


 横目を流していたところを見られたらしい。
 鍔迫り合いをしている中、パウロは僅かに牙を覗かせる。


「ほう、舐められたものです。
 同じ〝狼〟とはいえ、たかが『乱馬マスタング』をかじってるだけの若者が私よりも勝ると?」

「当たり前だ。
 あの男は『悪魔デビル』と闘って生きている。
 …貴様にそんな真似ができるか?」

「…!? なに!?」

ガギンッ!

 鍔迫り合いから一転、パウロは強制的に細剣レイピアを払って距離を作る。
 そして戦い続けているテオマスカットへ視線を向けた。


「まさか…デズモンドをやったのは彼だと言うのですか?」

「いや、それはまた別の男だ。
 マミヤレイトという名を知っているだろう?
 奴は悪魔デビルと化して、デズモンドを完膚なきまでに打ちのめした。
 僕と彼はその後始末を行なったんだ」


 色々と納得のいかない結果ではあったが、僕らは苦労して勝利を収めた。
 結果的に宝石スフィアと縁のある者達と、協力関係を結べたのは僥倖だったが。


「な…、なんですって…?
 バカな…本当に悪魔デビルがニンゲン如きに宿ったのか?
 加えてを、止めた…」

「…まあ、僕も貴様と同じ所感ではあるが、実際にこの目で見たんだ。
 マミヤレイトとその仲間達は、常識では計り知れないほどのちからを秘めている。
 迂闊に手を出せば、狩られるのは自分の首だ」

「……………」


 パウロが唖然と口を開けたその時、テオマスカットとクルゥの鬼神のような闘いぶりに、配下である一人が戦線離脱を始めた。
 連鎖するように次々と部下が抜けていく…。
 まさか隊長を差し置いて逃げ出すとは…。

 もはやこの場には、敵はパウロただ一人。


「ふうっ…! ようやく片付いたぜ。
 そんで?
 残りはテメェだけだが…逃げないのか?」

「ピュイッ!!!」


 返り血を浴びながら闘い抜いた一人と一匹は、逆境から生還した喜びに興奮してるのか息がひどく荒い。
 あの状態は敵にとっても自分にとっても少々危険だ。
 おそらくタガが外れかかっている…。


「…フン、デズモンドのようにおめおめと引き下がるくらいならば、私は死を選びますよ。
 それよりも私は貴方に興味を持ちました。
 『テオ・マスカット』さんでしたか。
 貴方が悪魔デビルを倒したというのはまことですか?」


 パウロは細剣レイピアの切っ先をテオマスカットに向け、真剣な面持ちで尋ねた。


「ああ?
 もしかしてレイトのことを言ってるのか?
 それなら見当違いだ。
 つうか倒したんじゃねえ、んだ。
 俺とカンバク、ルカ嬢とイザークの四人がかりでな。
 死ぬほど苦労してようやく大人しくさせたんだ」


 まるで子供のお世話に苦戦する母親のように、彼は肩をすくめる。
 フン…彼の言う通り、今日だけでとんだ目に合わされたものだ。
 今までの波乱万丈が覆るほどの出来事だ。
 
 
「『悪魔デビル』を目にして生きていられるのがほとんど奇跡だということを、貴方はどうも理解していないようですね…。
 …カンバク、一つ頼みがあります」

「なんだ?」

「彼と…一騎討ち勝負がしたい。
 手出しを控えていただけますか?」
 








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