スター・スフィア-異世界冒険はお喋り宝石と共に-

黒河ハル

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第266話:ラドンの挨拶

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「敵性部隊、接近中。
 目視およびエネルギー反応の行軍スピードから算出すると、こちらとぶつかるまで残り約三分だ」

「おう。お前らも準備はいいか?」

「「「(コクン)」」」


 積乱雲に紛れつつ他のメンバーへ声を掛けると、みんな無言で頷いた。
 よおし…、敵の数は大体70くらいか。
 明らかに俺たちが不利だが、連携を崩さずに闘えば渡り合えるはずだ。
 先手必勝、電光石火がモットーのガルド流喧嘩殺法を魔族どもにおみまいしてやるぜ。

 ………と意気込んでいたのだが、予想外のことが起こった。


〔オーイ!! 聞こえてっかあー?
 そこに隠れてるのは分かってるんだよバーカ!
 マミヤ・レイトに蒼の宝石!
 早くその雲から出てこーい!〕

「「「!?」」」


 キーン…と、大空に響き渡る増幅された声。
 まさかこれ、ジョナサンも使ってた拡声器の魔道具アーティファクトか!?

 つーかクソッ! 奴らに位置がバレてやがった!
 しかも敵の気配が増えたようにも感じる…。
 おそらく俺たちを逃がさないよう、隊列を平たく変えたな。


「この声…ラドンだ! レイト!
 あのバカ飛べないくせに空にいるみたいだよ!
 大将首がノコノコやってきたね! あははっ!
 早く仕留めちゃおうよ!」


 俺と同じように生身で宙に浮かぶアリサが、興奮気味に俺の背中を叩いてきた。
 情報によれば敵将の種族は『犬妖精クー・シー』だったか。
 たしかに問答無用でやっつければ、撤退するかもしれないけど…


「待テ。ソレナラバ何故ワザワザ呼ビダス?
 敵ノ罠ノ可能性モアルゾ」

「私も同感だ。
 声の位置の関係から目標は割り出したが、周りには他の敵もいる。
 とはいえ、姿を現した途端、袋叩きにされても論外だが…」

「なら転移テレポートでラドンを人質に取っちゃえばいいんじゃないかしら?
 そうすれば手出しできないはずよ」

「それだフレイ。うし、早速座標を…」

〔あーちなみにちょっとでも攻撃してきたら、僕に構わず『霊森人ハイエルフ』の村を襲えって命じてあっから。
 くれぐれも余計なマネはしないでねー〕

「「「…………」」」


 フレイの考案した作戦が一瞬で潰えた。


「さっきチラッと見たら『飛竜ワイバーン』までいやがったし、ここはとりあえず奴の言うこと聞いとこうぜ」

「ヤムヲ得ンナ。
 流石ニコノ物量ヲ村ニ送ルワケニモイカン」

「あんなのどうせハッタリだと思うけどねー。
 アイツ、自分の命はなによりも大事だし」

「ワタシマタ『パフェ』食ベタイカラ、村ガ無クナルノハ嫌ダナー」

「少しはミアの事も心配してあげなさいよカーティス!
 魔物相手にあんなに優しくしてくれる子、普通いないんだからね!?」


☆☆☆


 ブツブツと文句を垂れながら雲から一人、また一人と姿を現していくと、目の前には翼を有した様々な魔物たちが俺らを取り囲んでいた。
 飛んで火に入るナンチャラってやつかな?


「レイト。あそこを見て。
 『猛禽人《ガーゴイル》』の背中に『魔蛇獣スネイクビット』が乗っかっているわ。
 アイツらは熱源を探知できるのよ。
 …私とアリサもやられたの」

「マジか…!
 敵側にあんな魔物までいやがったのか」


 フレイが悔しそうに歯ぎしりをする。
 チッ、ソイツに見つかったって訳かい。

 そして、先ほど俺が視界に入れてしまった『飛竜ワイバーン』が俺たちの目の前にやってきた。
 既にもう逃げたい気持ちでいっぱいだが、そのドラゴンの背中にチビな犬型の魔物が一体だけ乗っかっていた。
 

「やあやあ! 君がマミヤ・レイトか!
 僕はラドン・イシュタル。
 魔王軍『ラドン師団』を任されている。
 話にはよく聞いてるよ!
 イザベラやガイア、それに僕の部下のミラー隊長までボコボコにしてくれたんだってね。
 どんな暑苦しくて醜い男かと思ったら…さすが魔王サマと同じ能力を持つ〝契約者〟だな。
 こちらもなかなかの美形じゃないか」


 背中に三又の槍をぶら下げ、流暢な人語を披露するラドン。
 手にはやはり拡声器を持っていた。

 ん? ミラー…? デズモンドのことか?
 ナディアさんを殺しかけたクソ野郎だ。


「あの野郎はまだ生きてやがるのか?」

「モチロン。
 運び込まれた時は虫の息だったけど。
 一応、口が聞ける状態までには回復させたよ。
 彼がよろしく伝えておいてってさ」

「へえ? なら俺からも伝えさせろ。
 もし次俺の前に姿を見せたら、かば焼きにして喰ってやるぞって」

「ぷっ…あははははっ!
 あんなの喰ったらお腹壊すだけだって!
 お前、男のくせにオモシロイ奴だな!
 部下を落とし穴に落っことした件も爆笑させてもらったけど!」


 バンバンバンと、愉快そうにドラゴンの首元を叩きまくるラドン。
 どうやら気に入られたみたいだ。


「チッ…、ねえラドン。
 とっととお前の要件を話してくれない?
 ウチらもそんなヒマじゃないんだよ」


 しびれを切らしたのか、アリサが舌打ちをしながら俺の前へ出た。
 おいおい、焦りは禁物だぜ。
 

「あ? また口を挟んできて…何様なのアリサ?
 ていうかよく見たらエルフのフレデリカちゃんもいるし。
 うーん、君まで居るのは少し予想外だったぜ」

「…? どういうこと?
 まるで私以外のメンバーは、こっちに来るのを知ってたみたいな口ぶりね」


 名前を呼ばれたフレイが首を傾げる。
 なんだコイツ、ずいぶん慣れ慣れしいな…。
 …ってそうじゃないだろ。
 ラドンは指で自身の頭をトントンと突ついた。


「そこにいるオズベルク・ダアトとマミヤ・レイトにアリサ…それに『赤竜レッド・ドラゴン』。
 僕は君たちがそちらの主戦力と見ていてね。
 他の対空手段を持った敵が確認できないので、空から攻めれば君らを袋のネズミにできると踏んだのさ」

「舐めた解釈してくれたわねアンタ…!」


 なるほど。
 一度カーティスたちが空戦をしてしまったから、俺たちの保有戦力を見抜かれたのか。
 だけど、なぜ危険を犯してまで大将のコイツが出しゃばってきた?


「…………」

「ていうか、さっきからダンマリ決め込んでんなジイサン?
 どうした、今になって弟子たちの命が失われるのが怖くなったのか?
 ああいや…、もしかしてもうボケちまってソイツらすら忘れたかぁ?」


 今度はオズのおっさんに目を合わせ、妙な挑発をしてきた。
 『また』…。
 なんだかんだ相当昔から生きてるみたいだし、きっとフレイの母ちゃん以外にも沢山の弟子がいたんだろう。
 魔王と闘わせるために。


「貴殿ノ噂ハカネガネ…。
 我輩ノ弟子達ハ一人残ラズ覚エテイル。
 モチロン、葬ッタ『魔王』ノ顔ヲモダ」

「口ではなんとでも言えるな、クソジジイ。
 つーかお前はコソコソ隠れててロクに闘いもしないで、弟子たちに任せっきりだろうがよ。
 ま、『殺せない』んじゃ仕方ないけどね!
 アハハハハハハッ!」


 …魔族もおっさんの『性質』を知ってんのか?
 いや…、そういや『悪魔竜デビル・ジョー』ガイアもおっさんの事を知ってるような口ぶりだった。
 まずいな…。
 おっさんを狙い撃ちにされるんじゃ、下手に動けねえぞ。


「レイト。我輩ノ事ハ気ニスルナ。
 殺セナクトモ自分ノ身ヲ守ルコトハ可能ダ。
 存分ニ暴レタマエ」

「おっさん…」


 そんな俺の危惧を察したのか、おっさんは鼻を軽く鳴らした。

 そうだ。
 んなこと訓練してる俺たちがいちばんよく分かってるじゃないか。
 パッと見渡した感じ、おっさんの『流水幕アクア・ヴェール』を打ち破れそうな魔物もいない。
 彼を信じよう。


「ハア…、ねえちょっと。
 いい加減ウダウダしてないで早くウチらと接触した理由を教えてよ。
 まさか挨拶しにきただけじゃないでしょ?」

「あーもう、やっぱお前ホントうるさいな。
 僕クラスになると、敵の顔を直に見てみたくなるもんなんだよ。
 なにより、マミヤ・レイトにデビ…」

「『竜火砲ドラグ・カノン』!」

ボオオオオン!!!

「「「!?」」」

「「ラドン様ああああ!?」」


 ええええええっ!?
 爆炎が…ラドンの乗っている飛竜ワイバーンごと包み込んだ…。
 い、いま攻撃したのって…!


「エット……ゴメン。
 ナンカモウ、飽キチャッタ♡」



 





 
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