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第265話:族長の激励

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☆エリザベス・センチュリーsides☆


「勇敢なドノヴァンの戦士たちよ!
 今こそ日頃の訓練の成果を試す時だ!
 敵は『魔族』。
 かつて私が若かりし頃、外の世界を…人類を支配しようとした恐るべき『敵』だ!
 闘いは決して楽なものではないだろう」

「また、ここにいる者たちはほとんどが初陣…敵を侮れば若い命を散らすことになるぞ。
 そうなりたくなくば己の武勇を燃やし、仲間と団結し、魔族どもを叩きのめしてやるのだ!」

「お前たち、忘れるな!
 その身に『霊森人ハイエルフ』の血が流れていることを!
 神聖な『霊力エーテル』の加護があることを!
 なりよりも、気高き『ドノヴァン』の誇りを!
 さあ、行ってこい! 
 『勇気』を秘めし若人たちよ!」

「「「おおおおおおおおおッ!!!!」」」


 レイト様とマスカット様の部隊が村から出撃してから数刻。

 戦支度を終えたドノヴァンの戦士たちは、村の広場に集められ、〝族長〟でもある父様…セルゲイ・センチュリーの『激励』を受けていた。

 大戦おおいくさを前に、武者震いする者から怯えた者、意気込んでいる者全てが、父様の言葉によって

 ……やはり、『リーダー』は違う。
 私たちドノヴァン・ヴィレッジにおいて、村の長を決める際は、村人全員による『選挙』が通例だ。
 もしも対立候補と拮抗した時は、〝対立試合メタファー〟によって雌雄を決する場合もあるが、父様は村の全会一致で『族長』にのし上がった。

 曲がりなりにも、若かりし頃に〝戦士長〟を努めた実績を評価された結果と言えるだろう。
 その役目を兄様に譲る以前は、勇猛果敢な立派な戦士だったと母様から聞いている。
 ……兄はレイト様との一件によってその立場が揺らぎつつあるが。


「うふふ。やっぱりセルゲイおじさん、カッコいいわね。
 娘として誇らしいんじゃない?」

「あの程度の『スピーチ』など〝族長〟であるならばできて当然です。
 もし旦那様…クオン様がここに居れば、数箇所ほど推敲指摘をしていたでしょう」

「クスクス…、手厳しいわねエリザベス」


 私の隣にいるミアが可笑しそうに息を漏らす。

 その目元は腫れている…。
 つい先ほどまで、彼女は私の胸で泣いていた。
 エドウィンとレイト様が交わした『約束』に、感極まってしまったのだ。
 子供の頃から私と遊んでいたが、あんな様子のミアは珍しかった。

 それほどまでに、彼女は『外』に出たかったということなのでしょう…。
 おそらく私はおろか、村の誰よりも。

 そこで私は自らの失言に気づいた。


「ゴ、ゴメンなさいミア…。
 あなたの前で『外』の話をしてしまって…」

「ああもう!
 そういうのはもういいって言ってるでしょ!
 むしろ、余計聞きたくなってきたわよ。
 だって…もしレイト君がエドウィンに勝ったら、私もあなたの住んでる町に遊びに行けるってことだしね!」


 ミアは指でトンと、私の胸元を突ついてきた。
 親友と外遊に出かける…他の地域にとってはなんてことないものでも、私たちにとっては計り知れないほどの『願望』なのだ。


「ミア…ふふ、そうでしたね。
 私も彼の勝利を願っています」

「そうよ! そのためにまず魔族の件が先よ!
 必ず無事に帰ってきてね、エリザベス!
 大怪我でもしたら承知しないからね!」


☆間宮 零人sides☆


「敵ノ部隊ヲ発見。カーティス。
 雲ニ紛レテ身ヲ隠スゾ。
 先手ヲ不意打チデ仕掛ケルノダ」

「リョーカイッ、オズリン!」


 いよいよ敵の部隊が見えてきた。

 ここから敵部隊まではかなり距離があるため、まだ豆つぶ粒程度にしか見えないが、それでもかなりの数だ。
 カーティスの奴ちゃんと減らしたんだろうな?


「零人。こちらも準備するぞ。
 心を受け入れろ」

「ようやくおっさんから離れられるぜ…。
 よし、いいぜ。いつでも来てくれ!」

「了解だ」

ポウ…

 背中からお腹にかけて手を回しているルカから、エネルギーの波動を感じる。
 何度も慣れ親しんだ『星力アストラム』。
 俺の中に徐々に溶けだしていく。


「えっ、なになに!?
 フレデリカ、アイツら何してるの!?
 もしかして…」

「『宝石スフィア』を調べてたなら分かるでしょ?
 紅の魔王も使用したと言われている『力』よ」

「ソウソウ!イッチョ派手ニ決メチャッテ!」


 女子三人組(うち一人ドラゴン)が、やいやいと騒ぎ出した。
 見せもんじゃねえぞコラ。
 まあ、いいか。いくぜ!


「「『融解メルトロ!』」」

ボン!

「わああっ!? ば、爆発しちゃった…!
 大丈夫なのアイツら!?」

「大丈夫よ。ホラ、見てみなさい」


 蒼の爆炎が晴れ、おっさんの背中からフワリと浮き出していく。
 心の中が澄みきるように身体もまた蒼と化す。
 雲の影で行なったから、魔族どもには今の姿は見えていないはずだ。


「ふう…、やはり君の中は落ち着く。
 私の声は聴こえるな?
 これよりラドン師団飛行部隊殲滅作戦を開始する。
 敵性魔族との距離はおよそ10キロ。
 会敵するまで推定約10~15分だ
 戦闘時孤立しないよう互いをカバーしながら、敵を全て撃墜するぞ!」

「おう。遠距離攻撃手段も重要だからな。
 フレイ、アリサ、カーティス。
 援護は任せたぞ」

「ええ、分か「すごおおおおい!!」」


 どわっ!? な、なんだいきなり?
 フレイの声に被せて叫んだアリサ。
 カーティスから身を乗り出さん勢いで、えらく興奮している!
 ちょお!? 落ちる落ちる!!


「それってもしかして『同調シンクロ』だよね!?
 すごいすごい! ウチ生で初めて見ちゃった!」

「いや、これは『同調シンクロ』じゃ…つうか大人しくしてろって!
 下に落っこちるぞ!」

「そ、そうよ!
 というかアンタは空飛べるんだから早く後ろから離れなさいよ!
 早くしないと私がたたき落とすわよ!」

「あ、そうだった。それじゃっと…」


 アリサはカーティスの背中を蹴り、クルクルと空中で身体を華麗に回す。
 そして…

ガシャンッ、ガシャンッ!

「はーい、こっちも準備おっけ!
 待ってろよー。ラドンのアホンダラ!」


 無機質な機械の作動音と共に、転回運動を止めて空中に留まり出す。
 …!? あれ!?
 こいつどうやって浮かんでんだ!?
 あっ!
 背中から銀色のエネルギーみたいなもん噴き出してやがる!


「おいあれなんだフレイ!?
 アイツ翼使ってねえのに空飛んでんぞ!」

「いやアンタもでしょうが…。
 詳しくは私もあの子も知らないわよ。
 分かってるのは『ミスト』って呼んでいるやつを消費して、飛んだり攻撃したりできるってことだけよ」

「スゴイヨネ! ワタシモアレ着テミタイナ~」


 ミ、ミストだあ!? なんじゃそりゃ…。
 あんなエネルギー見たことないぞ。
 何かの粒子状の物質なのか?

 ルカもまた、俺の身体越しにアリサを観察しているのを感じられた。
 彼女の目にはどんな風に映ったのだろうか?
 

「ふむ?
 これは生き物の類に該当せんエネルギーだ。
 興味深いな…。
 ダアト、君は『赤の装衣ころも』について何か知らないのか?」

「…我輩ハ魔王ト闘ッタコトハナイノデナ。
 記述ニヨルト、奴ハアクマデアレヲ『防具』トシテ使ッテイタラシイ」

「もはや『防具』の域超えてんだろ…。
 ロボットアニメに登場してもおかしくねえぞ。
 何なんだよ、あの『スラスター』…」


 ……このオヤジ、ルカの質問に対して『否定』をしなかった。
 カーティスの件といい、『赤の書』といい、やっぱり何か知ってやがるな。
 まあ、別にいま言及するつもりはないけどさ。

 そうして俺たちは、気合い充分のアリサを横に付け、ドラゴン二体を後ろに編隊を組み直した。
 ……今回はを使うことがありませんように。
 






 



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