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第256話:エドウィンの糾弾

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「ふふーん、どう!? 
 これで私もエリザベスの仲間入りよ!」

「「「…………」」」


 さっきまでの盛り上がりが一気に治まった。

 霊森人ハイエルフverフレデリカ…。
 これはなんというか…うん。


「あんま変わってなくね?」

「うん。ただ髪の毛が白くなっただけニャ」


 先の俺とセリーヌに比べると、特にこれといった劇的な変化が無かった。
 例えるなら2Pカラーのフレイだ。
 これ言ったら殺されそうだから言わんけど。


「仕方がないことかと。
 元々シュバルツァー様は『森人エルフ』。
 …わざわざ『変身トランス』を使わずとも、帽子を被るなどの工作で充分でしたね」

「ええっ!? な、なによ!
 せっかく私が今いちばん気になってる『魔法』をかけてもらったのに!」


 フレイはブス~っと頬を膨らませた。
 ありゃ、そうだったのか。
 ちょっと悪いこと言っちゃったな。
 鴉獣レイヴンはそんな彼女の様子に、苦笑いをしている。


「はは、お前さんの場合は特にそんな弄る箇所はなかったからな。
 ここはちっとくらい大目に見てくれや」

「…それなら詫び代わりにその魔法、私に教えなさいよ」

「ええ!? 別に構わねえが…。
 究極魔法だからかなり魔力マナ使うぜ?」

「ハン、上等じゃない。
 私、スタミナには自信があるわよ」


 魔物に魔法を教わるなんて妙な光景…いや、俺らの師匠はドラゴンだった…。
 特に違和感もないか。
 …ま、それはさておき、今は悠長に魔法の講座を受けている状況ではない。


「それは今度にしろフレイ。
 今から公民館に向かうぞ!」


☆☆☆



「ここが村のまつりごとを決めている建物か…」

「はい。本来は月イチでしか使用されませんが、今回は緊急時につき開放されています」

「ミアから聞いたわよ。
 たしか『族会』をするんですってね?」

「ミャッ、いっぱい『匂い』がするニャ」


 ハイエルフに扮した俺たちは、公民館の中へ正面から堂々と侵入した。
 外観通り、様々な用途で使われるであろう部屋がぼつらぽつら確認できる。
 しかし玄関口ともいえるロビーには誰も居なく、ガヤガヤとした話し声が右手にある扉の奥から聞こえてくる。

 どうやら絶賛会議中みたいだな。


「あーー…。バレないか不安だ」

「大丈夫でしょ。
 遠目だと村の一員にしか見えないわ」

「発言を行なうならともかく、情報収集だけなら問題ありません。
 作戦を提示し〝族員〟と意見を交わすのは村の戦士達で、それ以外は第三の目として出席しています」


 廊下を歩いて先導するザベっさんは、特に気負った様子はない。
 隣のフレイも同様だ。

 ……というか、よくよく考えてみりゃ、俺がわざわざ潜入せずとも、ザベっさんに会議の様子を見てきてもらえりゃ良かったんじゃ…?
 いや…もう遅いけど。


「安心するニャ、レイト君。
 バレそうになったら『擬態クローク』で身を隠せるニャ」

「んなことしたら余計怪しまれんだろ…。
 まあ、頼りにしてるぜ」


 能天気に後ろをトコトコついてくるセリーヌ。
 最初は歩行するのに手間取っていたようだが、すぐに慣れたみたいだ。

 ちなみに魔法を掛けてくれた鴉獣レイヴンは、宿の厩舎で待機して大人しく俺たちを待っているようにお願いした。
 あんまゾロゾロ行っても変に目立つしな。


「だから……って……だ!」

「……だし、………だろ……」

「いや……ここ……!」


 ブリーフィングを行なっているという大広間の前へ到着した。
 ……? なんか言い争ってるっぽい?


「それでは扉を開けます。
 できるだけ音をたてないようお願いします」

「おう」

「了解よ」

「ガッテンニャ」


☆☆☆


「だから何度も言わせるでない!
 敵はたかが魔物の寄せ集め!
 一気に攻めて追い払うべきじゃ!」

「しかし…、先の偵察隊の報告では敵の数は二百…いや、もっと居るやもしれんとの事です。
 下手に動いては戦士を…」

「いつからドノヴァンはそのような脆弱な考えを持つようになったのです?
 私が若い頃は、もっと覇気があったのですがね」

「ですが…俺はともかく、ここ最近の〝サバト〟によって、ただでさえ戦士達に疲労が重なっているのです。
 この状態で闘いに送るのは…」

「ハァ…、これだから〝せがれ〟は。
 おい、セルゲイの。
 今の〝戦士長〟とは、たかが人族に負ける者が就けるほど緩くなっておるのか?
 お主がもう一度表に立って導けば良かろうに」

「ご静粛に。
 今は〝作戦〟を練ることが先決。
 麓に展開している敵どもを討たねばならない」

「そうは言うが、そもそも敵がこの地に来た理由は…」


 ブリーフィングの場である広間にこっそり侵入できたはいいが、なんだコレ?

 部屋の中には、イザーク含む戦士が数名と、宿から何度か見かけたことがある村人たちが立っている。
 奥の上座にあたるスペースには、設置された椅子に腰掛ける老人たちと、そのすぐ横にセンチュリー夫妻が居た。

 そして壁に下げられたボードに、近辺のマップと敵の位置と思われる印がいくつも書き足されている。

 それだけ見れば会議は順調に思えたが、なぜか〝戦士長〟…ザベっさんの兄貴のエドウィンが年寄りたちに糾弾されている。
 俺を襲った時に見せた迫力はすっかり抜け落ちて、疲れ果てたような顔つきで相手をしていた。


(ザベっさん。
 なんかアンタの兄貴苛められてない?)

(当然です。
 村の最強を謳う〝戦士長〟が貴方様によって完膚なきまでに叩きのめされたのですから。
 彼は面目がない中、会議に参加しているのです)

(えっ!? お、俺のせい!?)


 僅かに罪悪感が生まれたが、ザベっさんは少し鼻を鳴らしただけで、彼を擁護したりなどはしなかった。
 …妹からもかなり嫌われてんな、あの兄さん。


(エリザベス。
 あのお年寄り達がもしかして…)


 フレイがコソッと指を差すその先は、上座に座っている老人たち。
 全員白髪なので分かりづらいが、相当歳を召されたお爺さんお婆さんのようだ。
 俺も気になっていたがおそらく…


(はい。あそこに居られるクソジジ…ご老人様方が『族員』でございます。
 村に関する取り決め事は、必ず彼らを経由しなければなりません)

(ニャるほど、『長老』みたいな感じニャ)


 ふむ…ということはアイツらにだけには、俺の正体をバレるわけにはいかないってこったな。
 ミアからも特に奴らに警戒しろと言われた。
 …てか今、ザベっさん『クソジジイども』って言いかけた?


「ええい埒が明かん! エドウィン戦士長!
 貴様は〝暫定派〟の代表も務めているのだぞ!
 潔く部下と共に突貫して、魔族など軽く蹴散らしてこい!」

「しかし、敵の数が…」

「戦士長! 僕たちはあなたの指示に従います!
 こ、ここはもうこれ以上…」

「イザークの言う通りです!
 俺らだってこういう日がやってきた時のために訓練を行なってきたんですから!」


 さすがに不憫に思ったのか、同じく戦士であるイザーク達がエドウィンに味方した。
 その助けすらエドウィンは情けなく思ったのか、さらに身体を窄める。

 しかし、どんな布陣にするかすらまだ決まっていなかったとは…。
 ナディアさんじゃないけど、この村…ちょっと甘過ぎやしねえか? 
 よくこんなんで今まで生きてこれたもんだ。


(……レイト様)

(…うん? どうした?)


 黙って会議の行方を見守っていると、ザベっさんが俺の服の裾を引っ張ってきた。
 その手はギュッと力が込められている。


(…どうか、幻滅なさらないでください)

(えっ?)


 僅かに微笑んだザベっさんは、俺から手を離して…駆け出した!?


「…ん? あ…っ!? エリ…」

「くたばりな! クソったれエドウィン!」

ドゴォッ!!!

「ガハァ!!?」

「「「!!!!」」」


 な、なななな…!?
 ザ、ザベっさんが汚い言葉かけながら兄貴を蹴っ飛ばした!?
 な、何やってんだアイツ!?


「エ、エリー…? ど、どうして…ウグッ!?」


 お腹を押さえうずくまるエドウィンを、ザベっさんは乱暴に胸ぐらを掴みあげた!
 そして、頭突きせんばりの勢いで唾を吐く!


「ナヨナヨしてないで早く立ち上がりな!!
 こんなジジイ共にほだされて腐る『にぃに』なんて私は見たくないよ!!」









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